第二章 テンプル騎士団

第7話 任意同行

 行政区のサキセルからテンプル騎士団がやってきた。

 その知らせを聞いて集落の住人たちが彼らを集会所に引き入れた。


「今月の罪人は何人ですか」

「はい、そこのゴブリン三人と、罪人ではないのですが身分不明者が一名おります」

「身分不明ですか……?このご時世に珍しいですね」


 やはり珍しがられている。

 隊長と思しきエルフ耳の無いエルフっぽい体系の女性が、眉間にしわを寄せながらこちらをまじまじと見てくる。

「記憶喪失です。復活の日に戻るかと期待していましたが、相変わらずでした」

「テンプル騎士団の南方分隊長セシュ・アイビーです。『カード』はお持ちですか?身分証明書と財布兼任の、この世に生まれ落ちたときから全員が持つアーティファクトです」

「あ、ありますよ」


 復活の日に記憶が戻るのが普通のこの世界で、ヒロシカさんに拾われる前の記憶があまり残っていないのだから疑われても仕方ない。

 それにしても顔を見る時に顔が近すぎないか。


「それと念のため持ち物を全て見せてください。何かヒントになるかもしれませんので」

「分かりました」

 そう告げるとまずは腰縄を装着されてから、ポーチの中身を広げさせられた。

「オープン。これが全てです」

 ポーチと眼鏡と異世界ガイドに『カード』を並べる。


「『カード』の名前は……。『グラスキー・ノクリア』?ノクリアだと……?」

「ノクリアです。そんなに珍しい名前なんでしょうか」

「ふむ……確かにあまり多くない名前だから近縁者を見つけられるかもしれんな」


 テンプル騎士団のメンバーが招集して会議が始まった。

 そのうち一名が外に出て行った。


「申し訳ないが、グラスキー殿も行政区にて取り調べを行わせていただきたい」

「それは構いません。あくまで任意同行と言う事であれば……ですが」

「無論任意だ。取り敢えず、被害状況とゴブリンの積み込みが終わるまではこの場に待機してくれ」

「分かりました。あと、すみません。ヒロシカさん達に挨拶をしたいので誰か迎えに行っては頂けませんか?」


 手元のリストをめくっていくアイビー隊長。

「ヒロシカ氏は今回の被害者一家だったな。彼らも調書を作るために一緒に移送されるから、それまで馬車の付近で話をすることは可能だ。問題ないだろう」


 集会所から外に出ると、ちょうどノインさんとヒロシカさんが家から出てきて馬車に乗せられるところだった。

 軽くお礼を言った後、別々の馬車に乗って、集落から最も近い行政区であるサキセルへの移送が始まった……。


「先ほど提出されたこの装備の事だが。これはウェリ様型とオーバ様型と2つあるな」

「ウェリントン型のセルフレーム眼鏡が普段使いで視力を矯正するだけのものです。オーバルタイプのマルチ眼鏡がそれに加えて戦闘に使えるやつらしいです」

「武器になるということは、オーバ様型の方は神器の類だな」

 神器ね。日本語で覚えやすい呼称で助かる。


「神器というのは初めて聞くのですが、これは常識なのですか?」

「いや、詳細まで知っているのは騎士団と一部研究者だけだろう。ほとんどの者はアーティファクトの詳細は知らんだろうな」


 セシュは手に持っている手帳を閉じ、こちらを見ながらアーティファクトについての話を始めた。

「アーティファクトには実は二種類存在する。二〇〇年前の災禍の前に作られたものと、災禍の後にもたらされたものだ」

 また二〇〇年前……そこについての記憶はないが、この世界には重要なことらしい。

 普通、アーティファクトって古代文明の遺産ではないのか?


「我々は便宜上、災禍の前に作られたアーティファクトはレリック、災禍の後にもたらされたアーティファクトを神器と呼んでいる。呼び分けるのは作りが異なっているゆえだ」


 スラッとした高身長のアイビーさんが、その綺麗な足を組み替える。

 暗めの紺色の髪は長く美しく、内側は少し明るい藍色に染まっていた。


「明らかに別なものだから呼び分けているんですね」

「あぁ、レリックは古代文字で編まれた魔術式で作られているが、神器は別の言葉で魔術式が編まれている。

レリックについては原理は分かるが新しいものが作れない。

神器については構造が理解できないのだ。使うマナの仕様からして異なるから研究が難航している」

「なるほど……こういう情報って部外者の僕に開示してもいいものなんですか?」


「本来はよくないだろうが、君は神器持ちであるからな。安全のためにも教えておいて損はないだろう」

「ご丁寧にありがとうございます」

「ちなみにだが、君は騎士団で働く気はないか?どうせしばらく身を寄せる場所も必要だろうし、新しく見つかったこの神器を研究に役立たせてくれないだろうか」

「仮に協力しないと言ったら?」


 セシュはまた足を組み替えながら指を動かした。

 長い脚に目を奪われていた俺は、その瞬間に俺の体に鎖のような光が現れ身動きが取れなくなる。


「実は騎士団では、神器を持っている人物がいたら、その解析などにご協力いただいているのだ。たとえ断ってもな。

自発的に協力するか、協力いただけるまで拷問する。死んでも来月復活してからまた拷問する。それだけさ」

「よく理解できました……。それであれば最初から協力をいたします」

「話が早くて助かる」

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