前日譚 この世界の神との会話

第5話 閑話 転生前日・異世界移住プログラムについて

「おめでとうございます。異世界移住プログラムに当選しました」


 先ほどまで、理不尽な繁忙期と残業にキレながら仕事していた僕は、いつの間にか知らない場所で知らない人と対面していた。

 トイレでスマホを見ていたはずなのに、スマホもなければスーツも着ていない。

 簡易的な手術着のような服を着させられていた。


「ここはあなたたちの世界の管理者がいる世界です。理解しやすいように神様のいる場所と思ってください。そして私は──」

 今時ナースキャップを着用したコスプレナースは一周くるっと回ってポーズをとる。

 見た目は……発育の足りてない15歳くらいの声が高くて胸の小さな女性だった。

「あなたのキャラメイク担当を仰せつかった神様。名前はオーバ!けど可愛くないし、他にも担当の神がいるので、全員まとめて”管理人ちゃん”とでも呼んでください」

 ポーズを決めながらドヤ顔でそう名乗った。

 残りのメンツは異世界に行ってから順次声をかけてくるらしい。


「ちなみにピチピチの二十歳です」

「どうでもいいですが、夢にしてはふざけすぎじゃ無いですかね?」

「夢じゃないですからね」


 夢じゃなくて本当に世界の管理人的な神との対面?異世界転生じゃあるまいし。

「漫画とかでよく聞く『異世界転生前の対話』みたいなものか?あなたは死にましたとかいう?」

「あー、そこら辺今から、ご説明いたしますね」


 空中にパワーポイント資料のようなものが映し出されるが、あまりにもダサい。

 企業で使えるようなレベルではなく、むしろ大学1年生の研究発表のような雑さだ。

 ……いや、二十歳なら仕方ないのか?


「え~、最初にあなたたちの銀河系の開発システムの研究用銀河"GXY-03"というものがあります。

私達が住んでいる銀河を元にしたアクアリウムみたいなものですね。

そして、うちで複数作った銀河モデルの中で、特に科学をメインに発達させたのがあなたの住む銀河系というわけです」


 なんだか読んだこと有る異世界転生小説では聞いたことない単語が出てきたな。


「ここは概要だけで十分です。あなたは死んではいませんが、魂をコピーさせてもらいました。

そして、異世界移住プログラムでは、あなたの住む銀河系と似た世界に体を用意し、コピーした魂だけ移住してもらいます」


 魂をコピー……よくわからないがまずは黙って聞いておこう。

「というか、異世界も私たちが住んでいる地球のコピーなんですね。二億年前の生命の種が生まれた段階で株分けをして、栽培環境変数を変えることで異なる進化をしてもらったわけです」

「比較実験みたいな?実験をしたという事か」


「はい、そして外乱を与えたり株分け後の再株分けをしたりなんかをしたんですね。

でまぁ、いろいろいい感じで成長したのに、手を尽くしてもそれ以上の発展性が無くなった世界ってのが出ちゃうわけなんです。

とは言えアクアリウムの中の生き物も生命に変わり無いと裁判所が認めたので安易に爆破もできず……」

「さらっと恐ろしいことを言うな。命に変わらないから意図的に殺せないのに、コピーはいいのかよ」


 そうは思ったが、クローン羊とか居るから強く反論できない。クローン技術や再生医療は科学の成果の一つだからな。

「コピー元は死んでないので禁止はされてないですね。

話しに戻りますが、発展性の無くなった銀河をそのまま衰退させるのはもったいない!

なので、他の銀河モデルからランダムに選んだ、人類や動物なんかの外来種を入れることで新規の進化がないかを確かめるのが」

「異世界移住プログラムというわけか。でもなんでコピーを送り込むんですか?異世界転移みたいに理由を付けて移動でもよかったのでは?」


 オーバと名乗った管理人ちゃんは、にやっと笑ってこちらを指挿しをしてきた。

「やはり科学主体銀河の人は面白い反応ですね。

単純にあなたを世界から排除するとどんな影響が出るか分からないからというのが大きいです。

なるべく安定している世界を壊したくないですからね」

 それなりに理由があるということは理解した。所謂バタフライ効果を恐れているんだな。


「今のところをまとめると、元の世界に元の僕が居る。僕には帰る場所はないからおとなしく異世界に行けということだな」

「話しが早くて助かります。

異世界移住プログラムに選ばれたあなたには、いくつかの特典を付けてから移住先に移動してもらいます。

なお、ここで話した内容は移住先での生活の支障となりかねないため、転生したという部分以外は消去させてもらいます」

「それは構わないが特典とは?所謂チート能力とかそういう話か?」

「それを選択することも可能です。が、それ以外にもいろいろあるんですよ。パンフレットをどうぞ」


 異世界移住プログラム、そのカタログギフトのような小冊子とペンを渡された。

 割と分厚いので多いのかと思いきや、前半分はほとんど注意事項と説明書で後ろの一〇〇ページくらいがスキルなどの特典説明だった。

 カタログをぺらぺらめくるが、本当に色々あるな。


「そこに書いてある特典なら最大六個くらいまで選ぶことが可能です。それ以上は移住先に与える影響が大きいので許可できません。前回移住させた人が欲張ったせいでその世界が壊れてから個数制限がかかりましたので、慎重に選んでくださいね」


 だから怖いって、でもまぁ個数制限をすれば問題ないと確認して要るっぽいからとりあえずは安心してよさそうだ。

 死亡時の処理についての項目や初期能力、特殊能力の付与、魔族のレベル設定や城塞都市、魔術、科学などの発展度、年代、言語などなど。


「ここから六個しか選べないんですか……」

「いいえ、“最大”六個です。一ポイントの特典と二ポイント以上の特典があり、合計六ポイントまでが上限です。

何を選ぶかが我々の知りたいところですので、質疑応答には応じますがオススメなどはありません。好きなものを選んでください」


 そうだな、なるべく世界で苦労はしたくないが、あまりチートに振りすぎてもやることが固定されて面白くない。

 そのためにもポイントでのスキル取得規制はアリな選択しなのだろう。


 始めに死亡処理から復活ありのページを開く。

 復活はアリにしておかないと何があるか分からないからな……。

 二ポイント使い蘇生をとる。そして残りは一ポイントのものを取っていくというプランにしよう。

 ──いや、復活の使い勝手のよさそうなのは三ポイントも使うじゃないか。

 とりあえずここで二ポイントは使うことにして、他の四ポイントを先に取ってから蘇生の特典を選ぼう。


 魔法特典から色彩魔法とかいう聞いたことない奴、エンチャント、クリエイトから眼鏡作成、眼鏡がないと何も見えないからね。


 最後に環境特典から病原菌ほぼ無しを選択し、確定をする前に管理人に気になる点を尋ねる。


「管理人、このクリエイトの眼鏡作成についてだが、度数を計るための機器なども作れるだろうか?」

「まぁ、その辺はあなたが出来ると考えるなら出来ますよ。

深層心理で無理と思うなら無理ですね。出来そうにないなと思ったら、二ポイントのクリエイトにある道具作成関係のスキルをおすすめします」


 無理と思ったら無理……つまり、今無理と思っている時点でアウトだろう。

 素直にエンチャントと眼鏡作成を外し、マルチクリエイトから魔道具作成を取る事にしよう。

 これで魔法エンチャントした眼鏡を作れば良い。工作機械も動力が魔法なら何とかなるだろう。


 今のところ、色彩魔法、病原菌ほぼなし、魔道具作成で計四ポイントだ。あとは蘇生だな。

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