2話 カツヒロとタクヤ
物心ついた頃から、タイキは炎を操ることが出来た。危うく家に放火しかけて問題になったこともあったが、成長するにつれて自分の力を制御することが出来るようになって行った。周囲からは驚かれ、ある時は羨望の眼差しで見られ、またある時は呪われた存在として気味悪がられた。
しかし、従兄弟であるハルキにも同様の能力、水を操る力が備わっていることが分かると、二人は奇跡の従兄弟と呼ばれるようになった。後に産まれた二人の弟達も同様の超能力を持っていることが分かり、「イトコパワー」などと呼ばれ、狭い島の中で四人はたちまち有名となった。
異変が起きたのは今からおよそ半年前。六色島に一隻の怪しげな船が入港して来た。船からは覆面を被ったあの略奪者達(後にダーク戦闘員と呼ばれることになる)が無数に現れて略奪を始めたのだ。そんな時に活躍したのがあのイトコ達だ。イトコパワーを使って略奪者達を次々と打倒し、たちまちに島の英雄となった。その後もイトコは島の平和を守るため、何度も現れるダーク戦闘員を倒していった。
○ ○ ○
「ねえかっちゃん、そろそろ本島に戻ろうよ。」
「いや、まだまだだ。もっと鍛えるんだ。」
森の中に二人の少年いる。一人はひたすら木の棒を振り回している。もう一人の方はというと、切り株に座り込んでいる。
「そろそろ遅くなるって。早く帰ろ。」
不安そうに辺りを見回しているのはタクヤ。丸々としていて体格が良い。それもそのはず、彼はハルキの弟だ。一方、永遠に木の棒を剣にして振り回しているのはカツヒロ。小さい頃から皆に「かっちゃん」と呼ばれている。首元まで掛かった長い髪と、細身の体型。雰囲気はどこかタイキに似ている様に思えるのは、彼がタイキの弟だからだろう。つまり、二人も従兄弟という関係になる。カツヒロの方がタクヤよりも一歳年上だ。タイキとカツヒロは年齢差がかなり広く、六つほど離れている。一方のハルキとタクヤとは四つ違いだ。カツヒロもタクヤも十代前半、まさに少年といった所だろう。
そして、二人もまた仲が良い。今日もまた、二人は六色島のすぐ近くにある無人島に遊びに来ている。
「まあ、確かにそっか。もうそろそろ日が暮れる。じゃあ帰ろうぜ。」
カツヒロはようやく帰る気になったようで、タクヤと一緒に木の棒を握ったまま砂浜の方へと向かっていった。タイキとカツヒロの家の裏には、カツヒロがこうして拾ってきた木の棒が、薪にするわけでもないのに大量に積み重なっている。
「おいタクヤ、あれを見ろ!」
カツヒロが叫び、海岸の方を指さした。
「あれは、ダーク戦闘員…?」
砂浜の辺りをウロウロしていた黒い覆面の人影が、声に気付いてこちらを向いた。
「おい、イトコがいるぞ!」
他のダーク戦闘員が声を聞いて集まって来て、たちまち二十人ほどの集団となった。
「もう、かっちゃんが大声出すからバレちゃったやんか。」
「わりぃわりぃ、でもこれはこれで暴れがいがあるぜ!」
カツヒロは楽しそうに木の棒を構えた。
「しょうがねぇな、僕も戦ってやるよ。」
タクヤも、一歩前に出てカツヒロと並んだ。
「なんだ、二人だけか。ここで手柄でも立てておくか。野郎ども、行くぞ!」
ダーク戦闘員は、剣を振り上げて襲い掛かって来た。
「俺達を舐めるなよ!」
カツヒロが威勢よく言った所に、タクヤが舌を出して舐めるふりをした。
「ペーロペロ、はい、舐めました~。」
「やめろやめろ、俺を舐めるな!そういう意味じゃねぇよ!」
「お前ら、戦う気あんのか?」
煽りプレーに怒ったダーク戦闘員は、容赦なくタクヤの首に斬りかかった。
「よそ見してると危ないよ。」
突然竜巻がおこり、ダーク戦闘員は吹き飛ばされた。タクヤは得意そうにその場に立っている。
「ほら、行くよ~!」
タクヤは突然、猛スピードで走り出した。丸い割には足は素早いのだ。タクヤのスピードに誰もついて行けず、タクヤは緑色の風の残像となって、速攻でパンチを繰り出す。ダーク戦闘員は次々と煙となって消滅していく。
「よし、俺も!」
カツヒロが天に手をかざすと、突然雷が落ちて来た。辺りに火花が飛び散る。落雷を受けたダーク戦闘員は煙となって消滅する。カツヒロは残ったダーク戦闘員にキックを食らわせた。右足に稲妻が宿り、黄色く輝いた。
バチバチバチッ
稲妻の音と共に、残っていたダーク戦闘員は残らず煙となって消滅した。
「よーし、終わった!じゃあ島に戻ろ。」
「ああ。」
二人は小さなボートに乗り込み、すぐ近くに見える島に向かってオールを漕いでいった。陽は傾き、空は薄っすらと紅を被っていた。
彼らがカツヒロとタクヤ、「選ばれしイトコ」だ。
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