もふもふアルケミスト-もふケミ-

まきさんまー

プロローグ

「ふんふんふふ〜ん、・・・・・・うん、あと少しで完成ね」


 大きな部屋の中、一人の少女が目の前にある大釜の中をかき混ぜている。少女は手馴れた様子で、鼻歌混じりに作業する姿には余裕が感じられた。

 そんな少女、金狐族の獣人であるシロネ・ディーニアは、一見料理をしているかのように見えるが、実際は錬金術と呼ばれる不思議な力を使い、ポーションの錬成をしていた。


 錬金術とは、錬成釜に複数の材料を投入し、錬金術師が魔力を流しながらかき混ぜる事で、ポーションのような薬品から布や金属塊といった材料、錬金術の本領とも言える変わった能力を持った特殊な道具など、様々な物を錬成して作り出す事ができる技術である。



「よーし、完成っと!早く瓶に移しちゃおう」


 あれから五分ほどかき混ぜ続け、ついに大釜いっぱいのポーションが完成した。そして流れるように次の作業、横に用意してあった大量の瓶へポーションを注いでいく。

 こうしてシロネが、朝の日課となっているポーション作りを終えようとした時、部屋の外から慌ただしい足音が近づいてきた。


「お姉ちゃん、何が適当な金属余ってないかしら?」

「魔石もあると嬉しい」


 いきなり部屋に飛び込んで来たのは二人、シロネの双子の妹達、次女のリタと三女のティナである。


 二人はシロネと同じく錬金術師として活動しており、生まれ故郷より離れたこの地で、三姉妹は協力して自分達のアトリエの経営を切り盛りしているのである。

 ただ、妹二人は自身の錬金術の研究に集中し過ぎているのが現状で、アトリエでの金銭面の管理はシロネが担っている。錬金術に使う材料も安くはなく、アトリエのローンもあるため、いつも金欠なことを嘆いているシロネ。

 ポーション作りが日課なのも、お得意様の商人が毎日一定数ポーションを相場より高く買い取ってくれると商談を持ちかけられ、それにシロネが飛び付いた形で契約した為であった。


 出費の大半の原因である材料費を抑え、高い収入を得ようと考えるシロネに対し、己自身の研究のため材料が欲しいと集る二人。

 このやり取りは何度も行われ、とうとうシロネの堪忍袋の緒が切れようとしていた。


「二人とも、自分がやりたい物を錬成するのは良いけど、ちゃんと売れる物作ってる?あと金属とか魔石みたいな高価な物、そんなにいっぱい買えると思っているのかしら?」


 とても良い笑顔のシロネだが、どこか凄みを感じさせる迫力がある。その笑顔は二人に向けて圧を掛けているように見える。


「ぴぃっ!お姉ちゃんごめんなさいっ!」

「シロ姉キレた?」

「ティナ、他に言いたい事は?」

「ん、ごめんなさい」


 圧に気圧され縮こまって震えるリタと、マイペースを崩さず、無表情で反省の言葉だけ口にしたと思われるティナ。

 シロネは、まず金策の事を考えるより、先に二人が錬金術ばかりに感けている現状から改善する事にした。


「あ、そうだ二人とも、冒険者になって私達三人で材料取りに行こう!錬金術師の中でも、結構そうして活動する人いるみたいだし」


「「えー」」


「ダンジョン内部で倒した魔物は、解体しなくも魔石や素材がドロップするらしいよ?自分達で手に入れた材料なら材料費も無いし、何でも使えるよ」


「「んー」」


「あ、そう言えばお母さんに聞いたことあるんだけど、ダンジョンの宝箱から高価なアイテムを手に入れる機会があって、売ると錬金術やりたい放題できるぐらい儲かった、って言ってたよ?」


「「おー!」」


「当然、探索とかで入手した物やお金は探索に出た人のものだからね?」


「わかった。冒険者になってバンバン稼いで、いっぱい錬金術してやるわ!」

「ん、がっぽがっぽ」


(やる気になってくれたのは良いけど、お母さんから聞いた話しでは、ここで数年暮らして一度だけの体験だったって・・・。まあ、嘘は付いて無いけど、騙すようなことしてごめんね)


 どうにかして二人をやる気にさせたかったシロネは、かなり大事な部分を省いた体験談を語ってしまった。

 シロネは二人を半ば騙す形となってしまい大変心苦く思ったが、今のままアトリエを経営していると、そう遠くないうちに破綻する事がわかった。

 自分達のアトリエを守るためには、二人が真剣になって協力して貰わないといけない。


 自分達でアトリエを経営して有名な錬金術師になる。それが錬金術師の師匠であり、娘として今まで育ててもらった母親からの最後の課題。錬金術師として自立してやっていけると証明するための大事な機会なのだ。

 シロネは妹達と三人で課題を達成するため、心を鬼にしてでも二人を導いていくと決意した。


「午後から三人でアンディさんの所にポーション納品して、それから冒険者ギルドに行って登録しようね」

「そうね、久しぶりにお店見てみたいし」

「行く」



 こうして三人は自分達の目標のために、再び足並みを揃えて歩き出した。



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