気づかれなければいいけど、もうちょっと気づいてもいいんじゃ…(読み切り)

話は中三まで、巻き戻り…


湊とえりは同じ高校を受験し、2人とも見事に合格をした。


今日は湊とえりと春乃(6歳)と孝司(6歳)で、合格祝いのお菓子パーティーを開くことになった。


ピンポーン。

春乃が玄関を開けると、えりと孝司がいた。「孝司、じゃがりこいっぱいあるよ」

春乃の第一声がそれだったので、えりも孝司も笑ってしまった。


「春乃ちゃん、すごいいい匂いするね」

玄関で靴を脱ぎながら、えりは言った。

「うん。お兄ちゃんが、ケーキ焼いてくれたから」

「え?湊、ケーキ焼けるの?」

「そうだよ。売ってるやつより美味しいよ」

「へー、楽しみ」


えりたちがリビングに行くとますますいい匂いがしてきた。

「おう、いらっしゃい」

湊が笑顔で迎えた。

「お邪魔します。すごいいい匂いだね」

「うん。シフォンケーキ焼いたから」

「へぇ、すごいね」

「チーズケーキもあるよ」

「え?!2つも焼いたの?!」

「チーズケーキは昨日の夜に焼いた。えり、好きでしょ?チーズケーキ」

「うん」

「チビたちは、チーズケーキ食べないからシフォンケーキ」

「湊って…」

「ん?」

「すごいお母さんだね」

「…腹立つな」

「褒めてる」

「いじってんだろ」



「じゃ、お兄ちゃん、えりちゃん、合格おめでとう!」

春乃が乾杯の音頭をとった。

「カンパーイ」

「じゃがりこ!食べたい」

「私、お兄ちゃんのケーキ!」

孝司と春乃ががっつく。


「いやぁ、良かったね合格できて」

「俺は割と自信あったけど、えりはね」

「ね。ギリギリなんとか合格できた」

「ホッとしたよ」

「あはは。湊が?」

湊はしまったと思った。

自分がえりを好きな事を知られたかもと焦った。


「同じクラスにはなりたくないね」

えりは何も気にせずに話題を変えたので、湊は安心した。

「なんでだよ」

「何か…、いじられそう」

「…そう…かもね」

「でしょ?」

えりは笑った。

「高校行ったらさ」

「うん」

「普通に話す?」

湊とえりは仲がいいが、中学では周りに気づかれないようにしていた。

「そうだね」

「じゃ、話そう」

湊は、嬉しそうに言った。


「えり達、学校で仲悪いの?」

孝司がじゃがりこを食べながら聞いてきた。

「あんまり話さないね」

湊が答えた。

「なんで?」

「俺が、こうやって春乃と孝司と遊んでるのを、友達に話したくないから」

「なんで?」

「恥ずかしいから」

「なんで?」

6歳のなんでなんで攻撃が止まらない。

「…面倒くさいから」

「?なんで?」

「…うるさいなぁ」

「なんで?」

「うるさーい」

湊はふざけながら孝司を追いかけた。

「うわー」

絵理も春乃も笑った。


「来年は、春乃も孝司も小学生だろ」

「うん」

「しっかりやれよ?」

湊は掴んでいた孝司の手を離した。

孝司は、さっと逃げた。

「勉強?」

「とか、挨拶とか、友達関係とか」

「大丈夫大丈夫」

孝司が軽く答えた。

「何か困った事あったらすぐ言えよ?孝司も」

「俺?」

「姉ちゃんに言いづらい事とかあれば、俺に言って。助けてあげるから」

「…ありがとう」

孝司は恥ずかしそうにお礼を言った。

「春乃の事もよろしくな」

「お兄ちゃんっ!」

春乃は孝司が好きだが、本人にはまだ伝える気はなかった。

「よろしくって?」

「仲良くしてね」

「うん。春乃、朝、一緒に学校行こう?」

「うん!」

春乃は湊の方を振り返って、嬉しそう笑った。

湊も優しく笑った。


「えり達は高校生なんだもんね?」

「そうだよ」

「パブロ兄ちゃんも帰って来たら、高校生?」

パブロはえりの彼氏で、今は遠恋真っ最中である。

「ん?いや、大学のはず…」

「大学?!」

湊は驚いた。

「え、2コ上なの言ってなかったっけ?学年は3コ上だけど…」

「そうなの?」

「うん」

「こわっ…」

「ハハッ。何が?」

「いや…」(ライバルが大学生か…。強そ…)

「医学部に入りたいんだって」

「え?!そうなの?」

「?うん」

「そんな頭いいの?」

「良くないみたい」

「そうなの?」

湊は少しホッとした。

「でも、自信だけはありそうだったよ」

えりはヘラヘラ笑った。

「何か、呑気だね…」

湊が言った。

「…ムカつくな」

「呑気だろ」

孝司が追い打ちをかけた。

(未来の医大生…。俺、ケーキ焼いてる場合じゃないよ…)


「パブロ君とは一瞬会っただけだけど…」

(※第4話 たぶんうまくいくから… 参照)

「そうだね」

「小心者のヤキモチ男だと思ってた」

湊はつぶやいた。

「おいっ」

えりと孝司の声が揃った。

「どっちかと言うと、図太いよね?」

えりは孝司に同意を求めた。

「図太いって?」

「…わがままで、強い?」

「そうかな。優しいよ」

「孝司にはね」


「…図太いけど優しいの?」

「優しい…のかな…」

えりは考えこんだ。

「どこが好きなわけ?」

「え」

えりの顔が一気に赤くなった。

湊はその顔を見て、胸がグッと締め付けられた。

「楽しい所?」

「それだけ?」

「…一緒にいて楽?」

「…”楽”って言う漢字しか出てないよ」

「うーん。だって…」

「えりとパブロ兄ちゃんケンカばっかりしてるよね。あ、じゃがりこなくなった」

「まだあっちにあるよ。持ってくる」

「あ、俺も行く」

春乃と孝司はキッチンの方へ行った。


「ケンカするほど仲がいい的な?」

「そうなのかな」

(俺等も似たようなもんじゃないのかな…)「ケンカってどんなふうに?」

「え?何か…、重い荷物持ってくれないとか?」

「…そんだけ?」

「あー…、からかってくるとか…」

「…それだけ?」

「あー…」

「ん?」

「何だっけ?忘れた」

「…ホントに好き?」

「うん」


「…俺と似てたりする…?」

「…口悪い所だけ」

「腹黒?」

「ではない。オープン」

「…そっか」

「ん?」

「そういう人か…」

「あははっ。こんな説明でわかった?」

「…太陽的な」

「ざっくり言えばそうかもね」

えりは嬉しそうに笑った。

(俺とは、逆か…)


「湊の方が、」

「え!何?!」

「…声でか」

「あ、ごめ…」

「湊の方が断然モテるよね」

「…そんなことない…」

(好きな子に好きって思われないんじゃ、意味ない)

「やっぱり顔がいいしね」

「顔だけの男みたいに言わないで…」

「あははっ。普通に優しいよね」

「……そうかな」

「湊って、意外とさ」

「え?」

「かわいいよね」

「どこが?!」

冷静じゃない湊を見てえりは笑った。

「今日変だね」

えりはにニコニコして言った。

「うるさい…、笑うな」








※「彼は魔法使いで意地悪で好きな人」

(えり♡パブロ) 

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