第3話

雲野の言葉を聞いて祖母の表情が曇ったのを俺は見逃さなかった。

「優馬の両親は遠くに行っています。いいですね」

俺はその時祖母が何を言いたかったのか理解できていなかったがどうやら雲野に釘を刺していたようだ。

「ばあさん、それはいかん。何歳やろうと事実から子供を背けさせたらいかんのや。優馬君ええか、よう聞け」

俺は息をのむ。

「お前の父ちゃん母ちゃんは撃たれたんや。わしはその阿保を捕まえるために来た。どうや、犯人をわしと一緒に捕まえんか?」

祖母は雲野に批難の顔を浮かべていた。しかし、雲野の気迫に押された形で口を挟もうとはしなかった。

「うん、わかった」

「よっしゃ、ほなよく考えて答えるんやで」

そういって雲野は両手で頭を軽くさすってくる。俺は頭を両手で包み込まれて安心できた。

「撃った阿呆は男やったか、女やったか?」

「男」

「ようし、ええ調子や。そいつは背が高かったか、低かったか」

「すっごい高かった」

「父ちゃんとどっちが高かった?」

「阿呆の方」

雲野はまたもや豪快に笑う。

「おお、ええぞ。阿呆は何で撃ちよった」

「銃」

「どんな銃や。片手に持っとったか、両手で抱えるくらい大きかったか」

「片手で持ってて結構小っちゃかった」

「二発目を打つときなんかしとったか?」

「うん。銃の後ろの方をカチャってやってた」

「おお、よう頑張った」

雲野は俺を撫でてくれた。力が強くて正直痛かったがこれほど褒められた経験もないのでうれしさの方が強かった。

「ほな、お邪魔しました」

雲野が帰ろうとするのを見て祖母が止める。

「それだけでいいんですか? 犯人は誰なんです? あなた探偵でしょ?」

「犯人はわかりましたよ」

「お、教えてください」

「その前に優馬君は迎えに行ったときどんな様子でした?」

「人目に付きにくい場所にしゃがみこんでました」

「わかりませんか。毎回トリガーを引かないと打てない拳銃。警官から距離を取るような位置にうずくまる優馬君」

「まさか」

「そのまさかですわ。犯人は警官なんです。そいつにはもちろん疑いはかからへん。それは当日駆け付けた警官の一人っちゅう名目があるからや」

祖母は目を見開いた。

「優馬君すまんがもう一つ答えてくれ。撃ってきた阿呆はどんな服着とった?」

「青い制服」

はっと息をのむ声がした。

「そういうことですわ。犯人は優馬君たちを襲った後一度どっかへ逃げよった。そのあと応援要請が入ってから現場へ戻ったんです」

「なら、どうするんです? 警察に言うことはできないでしょう」

「さっきも言うたやないですか。後ろにこっわい面下げた兄ちゃんがおると」

祖母はまさかというような顔をした。

「汚い仕事は組の仕事やから気にせんでええです。零士さんと愛さんが安らかに天国行ってもらうためですから。明日の新聞を楽しみにしといてくれたらええです。敵討ちは組の仕事なんでね。ほな坊ちゃんまた父ちゃんと母ちゃんの葬式で会おうな」

「もう行っちゃうの」

「心配せんでもすぐ会える。今から大事な仕事やから。ほなな」

雲野は俺に背を向けて手を振った。その姿は何とも様になっていてかっこよかった。

一方の祖母は鬼を見るかのような目で見ていた。

翌日の朝祖母は新聞を読んでいた。

「やりよったな。昨日の今日で」

感心とも呆れともとれるその声に俺は祖母の新聞を覗きに行ったがあいにく漢字が読めなかった。仕方なくテレビをつけると祖母が何に感心していたのかよく分かった。

『速報です。今朝、交番勤務の巡査田嶋友春さんが首を切られた状態で発見されました。警察が詳しく調べたところ、被害者の田島巡査は昨日の強盗事件の犯人である可能性が高いとのことです。また、事件の被害者は国内最大の暴力団中条組の幹部で警察は中条組の報復措置として調査しています』

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