第二章 第30話 #11-4 逃げる女、佐々木寿満子


 

 琉洲奈島の観光案内所の女子トイレに佐々木寿満子は駆け込んだ。新厳原港から、二人の男が自分の後をついてきていた。彼らが港に誰かを出迎えに来たのなら、人数が少なくとも一人は増えているはずだ。しかし彼らは港に二人で立っていた。彼女と等間隔でついてきている彼らは二人のままだ。彼らは出迎えに着たわけではない。

 

 刑事だろうか、それとも自分と学を襲ったあの男たちの仲間だろうか。


 彼らが尾行に気づかれていないと考えるなら、女子トイレの中までは追いかけてこないはずだ。

 

 案内所の休憩スペースが屋外で自分を待ち伏せしているはずだ。


 何か逃げる方法を考えろ。どうにか切も抜けろと全神経を集中して寿満子はトイレ内を見渡した。女子トイレにこのまま籠っても、この状態は変わらない。最悪だ。

 

 寿満子は刑事の位置を確認して、隣の男子トイレに移動した。幸いなことに女子トイレには他に数人いたが、男性トイレはだれもいなかった。刑事からもこの移動は見えていないはずだ。

 

 掃除用具と書いているドアを開けた。

 

 マルクマ清掃サービスとロゴのはいったユニフォームが3着たたんで上部の棚に積まれていた。ゴミ袋もある。佐々木寿満子は「やった!」と歓喜した。


 そのユニフォームの上下を持って男子トイレの個室に入った。灰色の上下ユニフォームに着替え、ニット帽と毛皮のコートを脱いでゴミ袋に入れた。掃除用のバケツに掛けてあったタオルを頭にまいた。そのタオルから異様な悪臭が漂った。

 

 タオルではなく雑巾だったのかもしれない。佐々木寿満子は悪臭に吐き気がした。だが、ひるんではいられない。逃げて生き延びるのだ。

 

 毛皮のコートとニット帽の入ったゴミ袋を手に持ち、モップを抱えてトイレから外にでた。

 

 寿満子は俯いて歩き、尾行して来た二人の男たちの目の前を通り抜けて屋外にでた。

 

 何事もなかったようにモップとゴミ箱をかかえて隣の商業施設に入った。別の出口に抜けたところで、ごみ袋とモップをそこに捨てた。


 大通りを避けて蛇行する路地を通り、時には民家の庭をすり抜けて佐々木寿満子は自由を求めて逃走した。

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