第4話 例の力を持つ少女


(え……? なにこれ、どうなってるの?)


 戸惑う桃香。

 話の腰を折られた麟は、赤月を睨みつけながら戻って来た凰の方へ移動した。


「なぁ、マジでなんなん? あの子、ウチの隊長とどういう関係やねん」

「さあ……よくわからないけど、こんなことは初めてだね」


 過去にもブラックリベリオンズに襲われた人々は何度も助けている。

 その時は必ず、襲われた人々からブラックリベリオンズの記憶を消すようにしているのだが、なぜか赤月は桃香を秘密基地に運んで来た。

 麟も凰も、その理由を知らない。


 赤月が残念なイケメンであることはこの学校や近所の住人の共通認識であり、赤月には近づいてはいけないという女子たちの間で暗黙のルールも存在している。

 残念なイケメンだが、目の保養に良いので共有しよう————と、これまで誰も赤月に近づく女子はいなかったし、赤月から誰か特定の女子に興味を示すようなこともなかった。

 それなのに————


「どこも怪我はしていないかい? 痛いところとか、気持ち悪いとかはない?」

「な……ないです。あの……先輩……」


 ものすごく愛おしそうに桃香を抱きしめる赤月。


「ん? やっぱりどこか痛い?」

「そうじゃなくて……」


(どどどどどどうしよう。やばい。心臓の音が……)


 桃香は顔を真っ赤にしながら、力の限り赤月を突き飛ばし、赤月は尻餅をつく。


「いきなりなんなんですか!? 私を殺す気ですか!?」

「え……? 殺す……?」


 突き飛ばされた理由がわからず、赤月は目を大きく見開いて桃香を見上げる。


「このままじゃ私の心臓が持ちません!!」


 桃香は泣いた。

 悲しいんじゃない。

 嬉し涙だ。


 一目惚れした先輩からの熱い抱擁。

 幸せすぎて泣いた。



「え? もしかして、心臓に病気でも抱えているのか?」


 赤月は、わけがわからず首を傾げている。


(ちがう、ちがう! そうじゃない!!)



 *




「————つまり、ブラックリベリオンズっていう地球外生命体と戦っている……ってことですか?」


 自分の身に何が起きたのか、凰から詳しく説明を受けた桃香。

 話だけ聞くと、あまりに非現実すぎる。

 出てくる単語も中二病っぽいし、何より実物が見えない桃香は理解するのに時間がかかった。

 しかもその間、なぜか赤月は桃香を自分の膝の上に座らせ、後ろから抱きしめ桃香の髪の匂いを嗅いでいる。


「うん、要するに宇宙人と地球人の戦いだよ」


 麟はツッコミを入れたいのを我慢しながら、凰が話している間何度も赤月を桃香から引き離そうとしたが失敗した。

 なぜか突然連れて来た桃香にべったりな赤月。

 理由も言わずにこの状態のため、麟はだんだんイライラして来た。

 地球防衛軍の秘密基地は、女を連れ込んでイチャつく場所じゃない。


「それで、いい加減教えてくれへん? なんでモモちゃんここに連れて来たん? 理由あるんやろ?」

「ああ、それは……————理由なんていいじゃないか。俺のせいでこのお嬢さんはブラックリベリオンズに襲われたみたいだし……責任を取るつもりだ」

「せ、責任!?」


(なにそれ……もしかして、結婚!? いや、それはちょっと気が早すぎる……って、何考えてるの私!?)


 自分のウエディングドレス姿を妄想し、「ソレデハ、誓イノキスヲ……」と、片言の牧師による挙式まで行ったところで桃香は現実に帰って来た。


「責任て……見えてないんやし、いつも通り記憶消したらええやん。どないしたんマジで。レッドらしくないで……?」

「そうだね、それは私も気になってた。責任取るって言っても、桃香ちゃんの気持ちは? 桃香ちゃんがレッドのこと好きじゃないと、結婚できないんだよ?」

「……そうなのか? それより……ブラックリベリオンズの潜伏先情報が入ったんだが」


 赤月は何かちゃんとした理由があったようだが、ごまかして話題を変える。

 桃香の頭を愛おしそうに撫でながら、何事もないかのように太陽隊の隊長・レッドとして話し始めた。


(え……えーと、私どうしたらいいの?)


「ちょっと、だから、一般人おるて。なんで一般人おるのにそういう話普通にすんねん」

「いいんだよ。お嬢さん……————ああ、すまない、確か名前は桃香だったね」

「は、はい……!」

「君は本当に可愛いな」

「はい……えええっ!?」


 耳まで真っ赤になる桃香。


「ん? どうした? 体が熱い……熱でも?」

「ちちちち違います!! ないです!!」


(赤月先輩のせいでしょうが!!)


 桃香は動揺しまくっているが、赤月はまったく動じず、恥じることもなく甘い言葉を並べる。


「体調が悪いなら家まで送ろう。いや、その方がいいな。安全だ。こんなに可愛い君のことだ。またブラックリベリオンズに襲われて、君が傷つくのは俺が困るし……」

「いや、だから、レッド! この子はなんなん? なんでそんなに気に入ってるんや!?」

「……なんなん……か。そうだな、さしずめ、正義の味方であるこの俺の守るべき大切な姫だな」

「はぁあああ!?」


 麟は全身に鳥肌がったった。

 まさかレッドの口からそんな甘ったるいセリフが出てくるとは……気持ち悪くて仕方がない。

 しかし、赤月が桃香を相当気に入っているのはよくわかった。


「まぁまぁ、麟ちゃん。とにかく今日はもう時間も遅いし、みんなで桃香ちゃん送ってあげよう? ブラックリベリオンズはいつ何時現れるかわからないんだから。それに私、お腹すいちゃった」


 凰の腹の虫が鳴る。

 同時に、桃香の腹の虫も……


「ほら、桃香ちゃんもお腹すいてるみたいだし! 家どの辺り? ついでにコンビニ寄って帰ろうよ」

「は……はい」


 よくわからないまま、桃香は地球防衛軍太陽隊の三人に守られながらこの日は家に帰った。

 途中、赤月は桃香をお姫様抱っこしようとしたが、それは丁寧にお断りした。

 そんなことされたら、桃香は本当に心臓が破裂して死んでしまう。



 一方その頃、悪の組織ブラックリベリオンズ総本部では、対地球防衛軍会議が行われていた。


総帥そうすい。どうやらあの憎き太陽隊レッドに、女ができたようです」

「なんだと……? それは、誠か?」

「はい、我々の調べによると、その女、おそらくを持つ女かと……」

「何? 例の力を…………?」


 部下からの報告を受け、地球人の中年男性になりすましているブラックリベリオンズ総帥・夕闇ゆうやみ宵時よいじは命ずる。


「————その女、今すぐ捕らえよ」

「はっ!」


 桃香に再び、ブラックリベリオンズの魔の手が迫る————



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