十八話

 彼の告白を私なりに咀嚼してみて、素直に思った事を口にしてみる。

「よく分からない。そうなんだ。そんなことがあったんだ、って感じ。でも・・・、仕方なかったんじゃないかな。あたしは、そう思う」

 歯切れが悪くなってしまったけれども、私なりに言葉を選んだつもりだ。よく分からない。この意見こそが、彼の話を聞いて思った私の本音なのだ。ううん、そんなことない。あなたはとても心の優しい人よ。この場面で私がそのように伝えたことで、果たして彼の気持ちを少しでも軽くしてあげることができただろうか? やっぱり私には、分からない。


 かなりの距離を歩いた気がする。それでもなお、この江戸川の土手は、まだ果てしなく続いているかのようだった。私と彼は、この果てしなき道を、もう少しだけ旅する事になるのだけれども、ここでしばしの間歩みを止める事になる。

「ねぇ、京子。見て」

 彼が指さした方向には不思議な光景が広がっていた。都内の方、その方角にはスカイツリーも見えていたのだけれど、その辺り一帯にだけ雨が降っていたのだ。ところが、私達の居るこの江戸川の土手上空には青空が広がっている。まるで私と彼は、晴れと雨の境目に居るかのようだった。

 そしてこの境目の先、都心方面には七色のアーチが掛かっている。

「綺麗・・・。こんなに大きな虹、あたし初めて見たかも」


 すると彼が徐に携帯を取り出した。ずっと繋いでいた手を、この時だけ外して私の肩に回す。そして私はゆっくりと彼のほうへと引き寄せられた。携帯を操作してカメラモードに切り替えてから、手を思いっきり前方へと伸ばす。私達はちょうど虹をバックにして、写真を撮る格好になった。

「京子、写真撮っても良い?」

「ふふふ。たとえ断っても、もうそのつもりでしょ?」

 勿論、断る理由は何一つない。でも、私の反応が彼にどう映っていたかは分からなかった。彼なりに勇気を出して、多少強引にでも私を引き寄せたのかも知れない。

「バレたか。自撮り棒持って来れば良かったな~」

彼が携帯の内カメラに画面を切り替えた。

「おお、いい感じに写るじゃん。そう言えば初めてじゃない?こんな風な京子とのツーショット」

「そうだったかしら?」

「・・・まぁ、いっか。じゃあ、撮るよ」

「うん。良いよ」

二回か三回だったか。携帯のシャッターボタンを押した。どの写真も、その背後に虹が綺麗に写っている。

「この写真が一番良いかな。どう思う?」


 私は差し出された携帯の画面に視線を移す。どこかお互いに照れているような表情もあったれど、悪くないと思った。

画面の中で、私と彼は『普通』の恋人どうしのように、自然に微笑んでいた。

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