十六話

「ああ、やっぱりそうだったのか。そう思ったよ。前々から何となく感じてたけどね。その子も、心の疾患を抱えてるんだなって。その小学生時代の友達は、俺よりも重かったんだ。

 それに俺、思っちゃった。その子のその発言を聞いて。これじゃ共倒れじゃんって。ていうか、俺の方は折角少しずつ落ち着いて来てるのに、このままだとまた引き戻されちゃうよ、ってね。不安の渦に。まるで、胸の中に重い鉛でも入れられたかのような、そんな感覚だった」


だから、実は俺も冷たい人なんだよ。薄情者だ。彼がそう付け足した。


「それからも数日置きに、その子から電話がかかって来た。でも俺は、二回に一回は無視するようになっちゃった。出たくなかったから。違った意味で、また夜が憂鬱になったよ。酷い時は緊張し始めることもあった。また小学校の友達から電話が来るんじゃないか、って。ビビってた。それでも、たまには電話に出るようにはしてたんだ。恩返ししなきゃって、そう思ってたのも事実だし。義務のようにも感じてたな。


『俺だけじゃなく、色んな人に話してみなよ』

俺は切りだしてみた。

『話しても、いいの? 嫌がられない?』


 その友達は半泣きになりながら訊いてきた。

『そうだよ。女の子の友達とかさ。ていうか、彼氏さんとかには話してないの?』

『どちらにも話したけど、もうどちらも取り合ってくれない』


 その子は、そんな風に言ってた。ぶっちゃけた話、この反応は俺の中で予想されていたことではあった。誰にも話せなくなったからこそ、俺に電話かけてくるんだからね。


『正直さ、俺ばっかに話されてもさ・・・。俺だってちょっとシンドいし』

それから俺は、共通の友達の男の子にも打ち明けてみなよ、こう提案してみたんだ。

『あいつ、聞いてれるかな・・・』

彼女は心配そうに訊いてきた。

『聞いてくれるって。話してみなよ』

『分かった。話してみる』


 内心、それで俺は安心しちゃった。これでもう、俺にはそんなに依存されないだろう、って。後日、携帯にメッセージが届いた。

 

 あいつ(共通の男友達)にも話してみたよ。真剣に聞いてくれたし、話してみて良かった。

 それに、ビッグニュース! 私、異動になったんだ。だからあの嫌な先輩とはおさらばよ。今の気分は最高。これでもう、あんな風になったりしないで済む。本当にどうもありがとう。今度、落ち着いたら御飯でも行こうね。


 こんな感じの内容だったな、確か。そのメッセージを見て、俺は更に安心したね。良かった。本当にそう思ったよ」

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