四話

「その時、俺は自分の部屋の布団の上で横になってたんだけど、急に寒気がして震え出したんだ。

 なんだ? どうしたんだ、俺。

 素直にそう思った。真夏の熱帯夜だってのに。風邪をひいた訳でもないのに。ふと気がつくと、あの二人の生徒ことばかり考えてた。あの二人、どうしよう、どうしようヤバイよ、って。

 この焦燥感みたいなのが、頭にこびりついて離れなかった。どうにかなるっしょ、って自分に言い聞かせても、すぐにまた、どうしよう、って考えちゃうんだ。

 震えはどんどん強くなる一方。突然の、初めてのこの現象に、俺はどう対処すれば良いのか分からず、パニックだった。

 何とか気分を変えるために、俺は部屋のテレビをつけてみた。すると、深夜のバラエティ番組がやってた。高校の頃、よく観てたヤツ。

 ところが、テレビに集中しようとしても、全然集中できなかった。身体の震えは一向に収まらない。だったら、眠ってしまえば大丈夫だろうと思った。俺は、テレビにオフタイマーをセットして、部屋の電気を消した。暗がりに、テレビの光がぼんやりと反射してた。でも、眠れないんだ。いくら目を瞑っていても。身体は震えてるままだった」



 彼が、深呼吸をする。



「大人になるってこういうことなのかな。精神的に、ね。後にそんな風に考えたりもしたよ」

彼が、私に微笑みかける。

「その後は・・・?大丈夫だったの?」

私は、彼が震えの止まらなくなった後の、その先を促した。


「うん。堪らなくなって布団から飛び起きた。それから電気を点けてみた。少しは不安から逃れるかと思ってね。でも、不安は消えなかった。震えは止まらなかった。おまけに心臓はバクバク鳴ってるし。マジでパニックだった。そんなこと初めてだったから。

 俺は堪らなくなって、ついに携帯を手に取った。誰かと話さないとヤバイと思ったんだ。気を紛らわしたい。平常心を取り戻したい。早くいつもの自分に戻らないと。色んな思いが胸の中でうごめいてた」


ところがだ、と言って彼が、続ける。


「誰も居ないんだよ。話せるヤツが」

 

 この時、私は自分の手も冷たくなっていることに気づいた。


「電話帳を指でいくらスライドさせても、話せるヤツが見つからないんだ。心を打ち明けられる人間が。誰一人として。そう思う気持ちが、より不安を増幅させた。気づいたら俺、震えながら泣いてたんだよ。布団の上に正座しながら、前のめりになって。

 両手で携帯を持ちながら。話せるヤツが誰も居ないよ、って独り言を呟きながら」

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