二話

「俺の小さい頃、両親についてから話そうか。・・・うん。それが良い」


 彼は、一人声に出すことで、話の道筋を整理しているようだった。


「俺の母親と父親の共通点なんだけど、今になってそれが見えてきたんだ。理解できたと言っても良い。一言で言うと、あの二人は心配症だと思う。他の友達の親と比べてね」


 彼と目が合った。私は黙って続きを待つ。


「例えば、大学一年の頃。友達と車で山梨へ旅行に出かけることになったんだけど、その時はうちの車を出すことになった。当然、ドライバーは俺だ。免許を取って2年位経っていたし、それなりに運転には慣れていたつもりだ。高速道路を走った経験だって勿論ある。けれど、俺が旅行に行くから車を借りるよ、と言うとすごく心配そうな顔をするんだ。特に、親父の方が。


『高速では絶対トラックの後ろにはつくな』

『飛ばし過ぎると危ないんだぞ』


てな調子でさ。当たり前で分かりきったことを、深刻な顔を浮かべて、やたら真剣に言ってくる。何度もね。旅行に行かせたくないんじゃないか、って思っちゃったよ。それと同時に、どうしてこの人は快く楽しんでこいよ、友達乗せるんだから運転には気をつけてな、と一言で済ませられないんだろうって思ったね。お袋の方も、


『何人で行くの? 山梨のどこまで行くの?』


ってな感じさ。普通な疑問なんだろうけど、何て言えば良いかな。心配性な面が強く滲み出てるような感じがして、正直煩わしかった」


 申し訳ないとは思うんだけど。と、彼が一旦ここで話を区切った。



「多分、考え方が基本的に後ろ向きなんだよ。実際に行動を起こす事が決まると、リスクの方ばかり気を取られてしまうんだろうな、きっと。その割には、お袋が


『飛行機は落ちるから、あまり乗りたくないのよ』


なんて言うと、親父は笑いながら


『何言ってるんだよ。そんなこと言ってたらどこにも行けないだろう』


とか言うクセに。二人とも、俺の事を心配して言ってくれてるとは思うんだけど、ちょっと度を超えてるような気がしてしまう」



 他にもさ・・・と、今度の彼は一気に語り口調で続ける。


「夜になって地元の友達と遊びに行ってくるって言うと、


『え、出かけるの?』


とか、親父が心配な顔をして言うんだ。もう二十歳過ぎてるんだぜ。それに、一応もう大人だよ、俺。そんぐらいの責任と分別は持ってるっつーの。毎回そんなこと言われてるとさ、出掛けて来るって言うのが憂鬱になってくる」


 彼の口調が更に熱を帯びてきたようだった。そんな自身の様子に気づいたらしく、熱量を調整して下げるかのように、彼は大きく深呼吸をした。

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