三つ子の魂100まで

やんばらぁ尾熱

第1話

近くの病院に向かっていた三神紗栄子の足どりは重く憂鬱であった。

病院にいる三つ子の3歳になる我が子は死を悟り、生きる希望を諦めたかのように、並んでベットに横たわり六つの死んだ魚のような虚ろな目が”ぼ〜“と元気無く病院の天井を見つめ死が来るのを受け入れ、死を待っているかのようである。多分自分たちは長くは生きられないと悟っているかのようである。

いつも紗栄子が病室に入ると、ベットの上で目だけで母を確認し、三つ子の蚊の鳴くような元気のない感情のない、か細い声で3人一緒に「「「お母さん」」」とボソボソと言うだけで身動ぐ元気もないかのように何時も見つめてくるだけだった。

三つ子は早産で生まれてきた為、心臓の発達が未成熟で心臓にある弁に異常があり、医者からは5歳までは生きられないだろうと余命宣告をされていた。

三つ子は病気を薄々知っているのか、生を諦めたかのように生気の感じられない体をただベットの上に横たわらせ死んだ魚の目のような生気のない目がただ呆然と宙を見ていた。

父親は本当の三つ子の親ではなく、四年前に本当の父親一条雅也は癌で亡くなってしまっていた。その頃には紗栄子は、妊娠をしていてお腹には三つ子がいた。

病院の病室に3人だけのとき、死に間際に今の義理の父親である親友の三神優也に「俺はもう長くない優也、妻を頼めるのはお前だけだ。お前なら許せる任せられる。頼む、お前なら信用できる紗栄子と結婚してお腹の子の父親として面倒を見てくれ、頼む」

死の淵に立つ親友の頼みのため安心させるために「わかった俺に任せておけ」そう言うとその言葉を聞き「すまん恩に着る」と言い、妻の紗栄子にも

「紗栄子コイツは俺が信用できるただ一人の男だ。お前を愛しお腹の子も自分の子として大事に育ててくれるはずだこいつと結婚して欲しい」

紗栄子もお腹の子をなんとしても産みたいし育てたい、だけれどもあまり蓄えもないため一人では育てていくこともできない。経済的にも困ったことになっているため了承し、優也のプロポーズを受けたのであった。

結婚した今の夫三神優也は亡き夫一条雅也の親友で私を含めた三人は、家が近く小さい頃からの幼馴染でよくつるんでいた。高校までが一緒で大学が別々だった。

正月に帰省したときに二十歳になった二人からプロポーズされ、雅也の方を選んだのだった。

紗栄子の懸念は今の夫との確執にあった。

子供が生まれる前までは優也を受け入れて幸せな家庭だった。

子供が生まれ、三つ子の余命宣告を聞いてから紗栄子は精神的に不安定になりほぼ毎日のように何時も夫優也にそれをぶつけていた。

ただ死にいく我が子が不憫でならず何もできない自分に腹が立って、持っていきようのない怒りや苛立ちを優也に何時もぶつけていたのであった。

優しい夫は反論らしい反論もせずにただ黙ってやられているだけである。

夫は働きながら全部の給料で株を買い、投資を行って成功して、ある程度経済力もあった。

身長も高くイケメンなのに家に四六時中閉じこもり株の勉強をして女性に無関心の人のように見えた。家事を済ませて土日以外は病院へは日中は私一人で行っていた。日が暮れてから夫は病院へは顔を出しているようだった。土日は自分で使えるお金が欲しいためスーパーでレジ打ちのバイトをしていた。

そんな夫にいつも怒りをぶつけ、たまに家から飲みに行くと言って逃げるように出かけて朝帰りが6回もあり、昨夜も喧嘩になり夫は最初はなだめようとしていたが精神が不安定な妻に何を言っても無駄とわかり聞き役に徹した為、1時間近くも説教のように文句を言い一方的に紗栄子が罵りつい、アルミの灰皿を夫に投げつけたところ、夫の額に当たり怒った夫が「女のところに行ってくる」浮気宣言して、捨て台詞を吐き、出ていった夫が朝方帰ってきたのだった。

今までの6回も浮気をしてましたと白状したようなものである。私は今まで騙されていたんだわと思い込み、更に精神がおかしくなりそうなのを我が子のためと我慢する紗栄子だった。

女に腰を使いすぎたのか腰の方を擦りながら“イテテテテ”と痛そうに湿布を貼っていたのを「昨夜はお楽しみだったみたいね」と皮肉を言い、家を出て病院に向かいながら”ざまぁみやがれ”という思いでいたのだが優也との仲も、もうこれまでだな子供のこともあるし直ぐには別れられないが、もし子供が死ぬことになったら私も死のうそう考えて今日も病院へ向かっていた。紗栄子の精神はボロボロで「死にたい、もう全部捨てて死にたい」と鬱状態になっていた。三つ子を置いて死ねない、何とか病院代を払う為、今の夫と別れられない、夫との愛が終わっているのを感じていた。

病院へ向かう足一歩一歩が重く感じられ、胸に重しが乗っかっているようである。

死を悟っているかのような力なく死んだ魚の目が自分を見つめてくるのが拷問に思えてならない。

病院の部屋の前まで来ると、何とか子供にだけは暗い顔をすまい、心配させまいと無理して笑顔をつくり、ベットで寝ているだろう子供にだけは弱音を、見せるまい、吐くまいという気持ちでドアを開けると、ベットで寝ていると思っていた子供3人がベットの上に座り、私を見て「「「お母さん」」」とにっこり笑うのであった。

それだけで涙が出そうなくらい嬉しくなってくる。

「どうしたの今日は体調良さそうね」

「「「うん、それよりお父さん腰大丈夫だった」」」と3人同時に同じことを聞く。

三つ子の娘の名前は長女カナ、次女ユナ、三女マナといい性格は少し違うが見た目が見分けがつかないほど似ているため優也が髪型をカナはポニーテール、ユナは耳の側におさげスタイルで2つ束ねて、マナは普通にのばしている。


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