不撓不屈のオルカ -冴えないオッサン冒険者(元竜殺し)と異世界からやってきた変身できない魔法少女(チート級魔法使い)

堂道廻

【第一章】ライクアファイア

第1話☆

 ――三分間。


「魔術を使うのに変身する必要があるって意味わからなくない?」白魔術士のアイリンさんは言った。


 ――それは、わたしが魔法少女に変身するまでに掛かる時間。


「しかも時間かかるってなんなの?」黒魔術士のエマさんが追従する。


 ――元の世界ではコンマ数秒だったはずなのに。


「冒険者はモンスターとエンカウントしたら即対応するのが大原則だ」騎士職でパーティリーダーのカインさんが鋭い眼光をわたしに向ける。


 ――だけどこの世界に来てから変わってしまった。


「こっちはよ、お前を守っている暇なんてねーんだよ」と弓使いのスヴァンさんが吐き捨てる。


 ――ああ、あの言葉が来る。


「よってイノリ、お前は首だ」


 この日、わたしはパーティを追放された。



 わたしの名前は因幡いのり、十四歳。都内の私立中学校に通っていた中学生だった。

 自己紹介の他に説明しておかなければならない大切なことがある。

 わたしはこの世界の住民ではない。


 前の世界では街を守る魔法少女として活躍していた。

 魔法使いでもなく、魔術士でもなく、魔法少女だ。言葉の響きはそれほど変わらなくても明確に違う。クラゲとキクラゲくらい違う。


 この世界にやってきたのは、敵の魔法少女との戦いの最中だった。わたしは彼女が放った攻撃魔法によって異世界へと送られてしまう。


 たったひとり、知り合いも頼る人もいない世界に飛ばされた。


 幸運なことにこちらの世界にも魔法は存在した。しかしそれらはわたしの使う魔法とは全く異なる物だった。


 わたしはアニメやゲームに詳しい方ではないけど、この世界はいわゆる〝剣と魔法のファンタジー世界〟と表現してそん色はないと思う。

 一歩街の外に出ればゲームに登場するようなモンスターがいて、それを討伐する冒険者がいて、彼らを束ねるギルドがあって、レベルに応じたクエストが用意されている。


 わたしは元の世界に帰る方法を模索しながら生活費を稼ぐために冒険者になることを決意した。


 魔法少女として戦ってきた経験を活かせると意気込んでパーティに入れてもらったのだけど、モンスターとの戦いにおいて私はずぶの素人だった。


 ただ戦うといっても、考えなしにその場の勢いで魔法を放つのではなく、ちゃんとした戦術があって仲間との連携があって、個々の役割がある。

 目まぐるしく状況が変わっていく戦闘に、わたしは付いていけなかった。


 制約があって普段から魔法少女の状態でいることのできないわたしは、敵と遭遇してから変身しなければならない。

 この世界の戦いはシステマティックで、モンスターによって攻略法が確立されている。わたしが魔法少女に変身したときには既に戦闘が終わっていた。


 わたしの出番が来たことは未だない。


 同業者の魔法使いの魔法は、無詠唱か一言で終わるものばかりが使われる。

 高レベルなモンスター、または未知のモンスターにでも遭遇しない限り、戦闘は短期決戦で終了する。


 ハイレベルのモンスターと遭遇する可能性を秘めているのは、未開の土地や未踏の迷宮だ。


 そんな場所に挑む冒険者たちのパーティなら、詠唱に時間が掛かっても攻撃力の高い大規模魔法の需要は高いそうだ。


 当然、無名の私がそんなハイクラスパーティにお呼ばれされるはずもなく、入れるのは特定のギルドを拠点にして初級から中級のクエストを生業にする冒険者パーティだった。


 しかし、魔法のステッキで変身しないと戦えないという致命的な弱点を持つわたしは、どこへ行ってもお荷物でしかなかった。


 最近は荷物持ちを兼ねてパーティに入れてもらっていたけど、やっぱり今回も首になってしまった。


 だって、わたしよりも力持ちのサポーターはたくさんいる。お荷物がお荷物を持っていると揶揄われるのにも慣れてきてしまったそんなある日、首になった。


「これからどうやって暮らしていけばいいの……」


 溜め息を付いたわたしは冒険者のたまり場になっている猫鍋亭のドアを開けて外に出る。


「ちょっと、そこのキミ……」

 

 声に振り返ると、そこにいたのは無精ひげを生やした優しそうだけど少し頼りない感じの男の人だった。

 お父さんよりも若いけど、前髪の一部を残して白に近い銀色に染まっている。

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