第4話 お見合い相手は年下エスパー※ラブコメ

 今、私の目の前にお見合い相手がいる。

 物凄い格式高そうなお蕎麦屋さんにて仕事の取引相手に呼ばれて来てみれば、いつも営業で顔馴染みの方(おじさん)と、見たことない青年とご対面した。隣の青年は前髪のせいで顔がはっきり見えないがわかる。私より若い、圧倒的に若いことはわかる。だって肌の感じが……と悲しいことが頭を過ったが、次の言葉でその悲しみが吹っ飛んだ。


「お願いというのはですね、この、彼……私の息子と結婚を前提にお付き合いして欲しいのですよ。」


 おいちょっと待てや、と思っても悲しきかな上司を前に文句は言えない。


 というか、いくら私が職場で彼氏とかいない作りたい結婚したいとか言ったからって、前髪で押しが弱そうな年下男子にそんな酷なこと言うなよ好み考えろ好み聞けよ、とは言えない悲しい私は、ふと目の前の子をよくよく見る、と、何となく見覚えがある面影を見た。

 (夢だからこれまた朧げな光景だったが)まだ自分が就職してなくて学生だった頃、交流していた男の子にそっくりだった。自分に超能力があって学校に行けないって言う話だったが、接してみて問題の目も見てみたが、彼は普通の学生と一緒に見えた……確か、トランプとかカードゲームで持っている手札当てられたりしたけど(それが超能力だったかもしれないが)それについて怖いだの気持ち悪いだの全く考えたことはなかった。むしろスゲーとか持て囃したかもしれない。


「……もしかして〇〇くん?(夢の中なので名前は失念)」


 思い出した彼の下の名前を呼んでみたら、彼方は私をしっかり覚えていてくれていたらしい、長い前髪で隠れた目を、ちらっと見せてくれた。

 警戒心はなくて、安堵の色があった。

 好感触だねーそうだねーと会社の上司達は和み合い、「あとはお若い2人で」と席を離れてしまった。ちなみにご飯はまだ頼んでいなかった。

 結局ご飯を食べつつ、当たり障りのない話をしていた(と思う。何せそこら辺は夢なので整合性がない。)ら、彼の勤めている会社の同僚さんの結婚披露宴へパートナーとして同伴する話に何故かなった。そのドレスを今度選びに行こうと言う話へ場面ごと飛んだ。さすが夢である(そもそも相手方お付き合い的なお試しをOKしたこと自体驚きだ)。


「あの、これ本当に私が着て大丈夫なもの?」


「大丈夫です、あの、すごく可愛いです。」


「いや可愛いとかじゃなくて……えっ履くヒールってこのピンヒール!?ほっそいやつ?!嘘でしょ歩けないよ……。」


「僕がエスコートする為に、はいてもらうんです。」


 私はお見合い相手が見繕ったというドレスを着ていた。赤ベースだが落ち着きのある赤でヒールで目が潰せそうなくらい細く長かったことは覚えている。そして髪も丁寧にセッティングされているしメイクも人の手で整えられたもの、試着と聞いたのに完全にこれは結婚披露宴当日だし、完全に婚約者として扱われている空気だった。

 お見合い相手はといえば、今日は前髪を少し上げた感じにセットアップして童顔でもイケメンな感じをしっかりアピールしたタキシード姿でニッコニコだった。


「待って待って、私貴方の婚約者で本当にいいの!?このままじゃ婚約者扱いになるよ!?いいの!?君はそれでいいの!?」


 この夢の中での『私』は彼よりも年上、それも5歳くらいの差はある。確かもう私は30歳寸前だったと思う。

 彼はよく見たらかなり女性ウケしそうな見た目だ。どうしてその見た目を隠していたのかは不明だけれど、きちんとすればしっかりモテる、絶対よりどりみどりだ。そこまでは言わないが私を婚約者に、と言う話は考え直せと言おうとした時だった。


「ああもう、僕はどうしたって貴方がいいんです!!」


 否定し続ける私にとうとう彼がキレた。キレたって表現間違っているかもしれないが、しかし彼は顔を真っ赤にして、こっちをまっすぐに見たのだ。


「僕には、未来を見る力があります。」


 そんでもって突然のエスパー告白。ところが夢だからなのか、私は「なるほどだから前髪で目を隠していたのか。」と納得していた(多分ファンタジー系を好んで読んでいた筆者の無駄な察しの良さが影響している可能性も捨てきれない)。


「今から貴方に、僕がどうして貴女と結婚したいか、結婚して幸せになるって分かるのか、『見せたいと思います』。」


 話すのではなく、見せるといった彼は、私に目線を合わせ、何故か自分の髪をかきあげた。

 額に黒い線が描かれていく。目の模様として、それが最初からあったように形取ると、彼の目の中に引き込まれるように、まるで映画を見るような感覚に陥った。


 そこでは、自分と彼が広いカウンターキッチンで野菜を素揚げしていた。


「ああ、焦がしちゃったぁ……。」


「そっちは僕らが食べよう。ほら、餡掛けがあるし、僕の方は綺麗にできたから。」


「そっちは子供達用に出して、そろそろ全部盛り付けよっか。」


 料理を失敗する私に、微笑む彼。大分背丈も体つきも男らしくなっていて、穏やかなイケメン化していた。

 広いリビングに長いテーブルを繋げて並べている。そこはまだ誰もいないが、ファンシーな柄の座布団が敷いてあった。


「お母さんお父さんただいまー、連れてきた!」


 すると私達の息子らしき子供が元気よくリビングに入ってきた。

 私は子供に向かって、笑ってお帰りと言った後、更に続けた。


「今日も子ども食堂、開店するよって伝えて。」


 ……ぐいっと、身体がその世界から弾き出されたような感覚がした。

 彼のおでこの目の模様は消えていて、そこにはまだ真っ赤な、でも真剣な目をした彼がいた。

 

 私にはわかる。あれは私の叶えたい夢の一つ。

 寂しい子供時代、少しでも優しい思い出を、温かい思い出を提供したい。そんな夢をかつて持っていた頃があった。

 そう、彼と出会った時帰り道に抱いた夢、いつしか自分のことで精一杯で忘れていた夢。


「……あの。」


「はい。」


「私と、一緒になったら、ああ言う風に過ごせるってことで、いいのかな?」


 彼は頷いて、私の手をちょっと大きい手で包んだ。


「あの光景が見えた時、僕も、幸せに思えました。」


 信じていいのかな、そんな不安もよぎったけれど、見えた光景で感じた家の温度も、家の色も、野菜が揚がる音も、未来の『現実』として体感した時感じた気持ちは、私も幸せの一言で表せた。


「……ま。」


 自覚した言葉をいざ言おうとした瞬間、今度は私の顔が熱くなった。きっと、彼の比じゃないくらい真っ赤だ。


「前向きに、貴方のこと、好きになっても、いい、ですか。」


 好きだって言えばいいのに何を装飾してんだ私、そう思っても、つっかえて吃って出た言葉は取り消せない。

 彼と会ってまだ日は浅い、でもあの幸せなほどに愛おしとか思う日はくる、それまで一緒にいたいとか、そう言えばいいものを。

 でも彼は不快な表情をすることなく、むしろ嬉しそうな笑顔を、未来の面影がはっきりわかる笑顔を私に見せた。


「はい。喜んで。」


 果たして。

 他人の結婚披露宴開催前に恋人同士もとい婚約者同士となった私達が、夫婦になって時折妻の失敗料理で笑いが絶えない子ども食堂を開く未来は、実はそう遠くなかったりしたのだった。

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