第2話 過激派苛めっ子VS自分

 夢の中で死んだ祖父の家に来ていた。母方の祖父でとっくに亡くなっている。そしてもう1人、意外な人物として父と一緒の来訪だった。夢の共演だななんて思っている。なんと祖父から呼び出された形での来訪だったのだ。

 さて、祖父の家に上がり込むのも数十年ぶりだが、その家の間取りは私が馴染み見ていた場所そのものだった。電話の位置も、謎の日本人形の位置、テーブルやテレビの位置も全く変わっていなかった。懐かしいなって思ったのだが、家に全く知らない2人がいた。

 1人は女性、黒い髪を一つにまとめた女性、もう1人は男の子、多分学生の少年だろう男の子らしく謎の英字パーカーが書いていた黒い服とズボンを履いて、こっちを見ないでノートパソコンをいじっている。まさに現代っ子だった。


「この子はある事情で学校に行けてない……。」


「引きこもりの子?それで話相手とかになればいいのかなって?」


 自分は祖父の言いたいことを察し、その通りだったようで祖父は黙って頷いた。自分は大人なのだがアニメ系の話はそこそこついていけるし、父はパソコンに強い。なるほど適材適所。

 女性と祖父がどんな関係かはさて置いて、自分達は自己紹介をして、どこから来たかとかパソコンで何を作っているか、そんな話をしていた。父はパソコン系に強いから結構そっち方向で話が弾んで、趣味のホームページを作っているとのことで見せてもらった。

 父はタグの付け方などを教え、自分は色彩や見せ方のようなアドバイスをして話し込んでいた。風景写真系のサイトを作りたいとのことで、やり方や魅せ方の話をして意外にも楽しんでいた。

 それが功を奏したのか、彼が不登校の理由を話してくれたのだ。何でも3人の苛めっ子から酷い虐めを受けていて、学校に行くのが怖くなったとのこと。

 母は学校に行かないことを反対しなかった。しかし閉じこもってばかりは良くないと、祖父の家に連れてこられたらしい。そして話し相手として呼ばれたというのが事の顛末だった。

 なるほど納得と父と自分は思って、とりあえず楽しいなら話し相手になるよという感じで和やかな関係を築けた。それに感動したらしい少年の母親の方は、何故かチョコレートケーキとショートケーキの2ホール買ってきて、自分達に勧めてきた。ちなみに少年はチョコレートケーキが好きらしい。2切れは食べていた。

 それから定期的に会うことを約束してその日は解散となったのだが、ホームページの写真を増やすために写真部的なものの一員となった自分、写真の何を撮ろうかとその夜思案することになった。

 そしてもう一つ、少年の通っている中学校が自分が一人暮らししている近くであることに何となく嫌な予感がした。


 さてその翌朝、自分は掃除をして洗濯し、降ってわいた在宅の仕事に小言を言いながら過ごしていると、玄関先が騒がしいことに気づいた。男3人分の声に残る幼さっぽさから中学生的な年代と推測される。更に昨日出会った少年の名前を連呼しているのに気づいて、どうやらどこかで、自分達のことが漏れたようだと気づいた。尤も祖父の家もその中学の通学路に使われているため、バレても仕方ないだろうとは思った。気配を消して居留守を使いつつ、今警察を呼ぶかとスマホと覗き穴を眺める。派手な特攻服と髪色をした3人組の男が屯っている。表札も出していないし、鍵もかかっている、しかしチェーンかけたらバレる。そう思って静観を決め込んでいたら新聞や郵便物を入れる部分がガッと開けられた。下を思わず見てしまったら、1人と目があった。やべぇばれた。


 それから自分の行動は早かった。ドアから離れるとギュイイインとか怪しい音が聞こえ始め、チェーンソー持ってんのかよと思いながらベランダオープン。2階を選んだことを英断と自分を褒めて、手すりを飛び越え安全に滑るようにジャンプ&着地、あそこで自分の金とかも取っていたら窃盗の余罪をつけて警察に突き出してやろうと心に決めて、走り出す。

 交番に駆け込もうか考えたが、追われているということと迷惑行為をしているという事実もつけたいと思い、自分の居場所が伝えやすいところへ路線変更、後ろを見ると派手な髪色と服を着たのが自転車で追いかけてくる。


「おいおい止まれよー!!」


「〇〇(虐められていた少年の名前)と遊んでただろー?俺らともあそぼ〜ぜぇ?」


 等等、止まったら多分死ぬか、死にたいレベルの酷いことをされるのは目に見えてんだ。誰が止まるかバーカと心の中で悪態をつき、必死に足を動かした。夢の世界だと何故足が思うように動かない+速度が出ないのか、長年の謎である。

 このスピードじゃ絶対自転車に追いつかれる、が、今回の夢の世界は地元が舞台、土地勘はある。つまり自分が有利だ。自転車が通れない小道を選んでちょこまかと逃げて自転車組を翻弄し、立派なマンションが並び立つところまで到着した。自転車組も追いついてきたが、時間帯もちょうど人がまだいる時間、そして自転車が通れないようなところも多い、それでも無理やり自転車を動かしながら聞くに耐えない罵詈雑言をこちらに浴びせて追ってくる。そのタイミングで自分はスマホで警察に連絡することにした。が、「117」「115」などどうしてかニアミスしまくり、やっと「110」を押すことができた。


「どうなされましたか?」


 警察に繋がった瞬間に、盛大に切羽詰まって怯えた声を出した。


「不審な人物に追われているんです!!今も追われてて……!!」


「場所は言えますか!?」


「〇〇マンションです!!お願いします!!」


 自転車3人組は自分が警察を呼んだことに気づいたらしく「テメェ殺すぞ!!」的な罵詈雑言が飛んだ。ちなみに電話は切っていない。勝ったな、と思った。

 が、足がとうとうもつれて自分は連中に囲まれた。


「さあ遊ぼうぜぇ?」


 いやなニヤニヤ加減で自分を囲む3人組、彼らも判断力が鈍っているようで、人気のない場所に連れ込むという発想に至らなかったようだ。ところで自分の家の扉を破壊しやがったチェーンソーはどこに行ったのだろう?彼らの自転車の中にはそう言ったものは見えなかったがまあいい、絶対に罪に加算してやる。

 安全ピンとか出されて目を刺されそうになったり婦女暴行されかかったギリギリのところだった。


「やめなさい!!」


という声がかかって、パトカーと2人の警察官が3人組を取り押さえた。現行犯確保で、ついでに自分が何かされそうだった証拠として、3人組の1人が持っていた安全ピンを差し出す。


「これに私とそこの3人組の誰かの指紋が出ます。」


「テメェ!!」


 夢の中とはいえど暴言のボキャブラリー少なすぎるだろというツッコミはさておいて、自分も事情聴取と怪我がないか治療を受けるために、後からくるパトカーを待つことになったのだが、3人組のリーダー格が悔しそうに自分を睨んだ。


「テメェ俺らより弱い年下のくせに、警察読んだり生意気なんだよ!!」


 若く見えるのは普通なら喜ぶところ?だがここは夢だ。この時の年齢設定は成人済みというか、実年齢の設定。そして自分は自分で年寄りを自負している。

 ということで盛大にキレて。


「どこ見てんだお前らより年上じゃあ!!」 


 と、連行される3人組の背中に向かって叫びをかましたところで目が覚めたのだった。

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