第54話 イニシアティブ

Dvisionの会議室に灯かりが灯る。

「今日はアルカナの人が来て

 打ち合わせらしいね。

 小野さんは何か知ってる?」

技術主任である樋口は同期の

主任である小野に少し面倒

そうに問いかける。

今はミラージュガーデンの解析

で頭の痛い毎日なのだ。

いくら煮詰まっているとは言え

打ち合わせに時間を取られたく

ないのが正直なところだった。

「そうね。技術支援とか

 言ってたけど何なのかは

 わからないよ。」

背が低い小野は樋口を

見上げる様に返答する。

「あと30分もすれば時間

 だからその時まで待つ

 しかないかぁ。」

二人は頭の中にコードを

思い浮かべつつ準備を進めた。


「久延君、奥さんって会社に

 まで付いて来ていたの?」

奥さん連れで毎日、出社して

いるのって面と向かって

聞かれるといたたまれない

恥ずかしさが襲ってくるよね。

「ええ、まぁ、そうです。」

《私達は新婚ですもの

 ほんの少しでも離れたくは

 ありませんので^^》

なんだこのバカップルは・・・

葛城は大丈夫かと心中呆れる。

《案件はしっかりと纏めます

 のでご心配なく》

久延が持参したタブレットから

デフォルメされたアリルが

すまし顔で答える。

まぁ、おおよその方向は

決まっているのだ。

二人に任せて気楽に行こう

と思い心配を思考の片隅に

追いやった。


「本日はお時間を頂き

 ありがとうございます。」

会議室に通された2人は

自己紹介を終え、

Dvisionの3名の向かいに

腰を下ろした。

確か相手も3人で来るって

言ってたのになぁと樋口は

思う。遅れて来るのは提案側

としては大きな落ち度であろう。

そう思っていると久延と

名乗った担当者が隣の席を

引いている。

何をしているのだろうと

様子を伺っていると微かに

電子音が聞こえた気がした。


・・・会議室内のIOT機器

・・・全掌握完了

・・・AR空間の座標固定

・・・AR空間の構築完了

複数のプロジェクタとモニタ

が淡く広範囲に光の空間を

構築してゆく。

「あれ、あの人が準備した席

 に何かが映ってる?」

小野は初めて見る現象に

目を離せないでいる。

それは樋口や葛城広子も

同じであった。

《はじめまして、

 Dvisionの皆さま。

 私は久延の妻、アリル

 でございます。

 本日はこの様な場に参加

 させて頂きました事を

 感謝いたします。》

アリルが話終わると

あたかもそこに存在している

様な確かな像が結ばれていた。


この部屋に裸眼でのAR空間

を構築するなんて。。。

広子はあまりの事に魂を

奪われてしまった様だ。

他の二人も茫然とアリルを

見つめている。


初めて見れば驚くよね。

私の奥さんの美しさに^^

でもアリルは誰にも

渡しませんからね。

アリルの凄さを知っている

光彦は見当違いの方向で

妻の事を誇らしげに

胸を張り、開始を告げる。

「今回の御社DX施設、

 ミラージュガーデンについて

 技術的な提案を行いたいと

 思います。詳細については

 アリルより説明がありますので

 ご傾聴頂きますようお願い

 いたします。」


《では、こちらをご覧ください。》

DX空間の中に居るかの様に

アリルの手の平に施設の全体像が

立体表示で浮いている。

施設像を傾け、回転させながら

彼女は説明を始めた。

《現状ではDXと言いながら

 二次元的な表現が多く、

 訪問ユーザーも目新しさが

 無くなれば、やや手順の多い

 使い勝手が目立ちます。

 今の状況ですとどうしても

 手間を敬遠する傾向にあり

 リピート客の減少や口コミで

 低評価へとつながるでしょう。

 やはり、DX空間の中では

 フルダイブスタイルへと移行

 する為に施設全体的な再構築と

 実店舗では体験し得ない感動を

 提供する必要がございます。

 そこで先日、私たち夫婦が

 デートを楽しむ為に改変した

 技術の本格的な導入を提案

 させて頂こうと思います。》

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