第52話 クロージング エブリシング

《そろそろ終わるかの》

5人の中心で設定が終わり

稼働チェックのマークに

OKのマークが揃ってゆく

これで主からの用事は完遂

出来るだろう後は・・・。


苦い疼きが喪失感を助長する。

努力を厭わず前に進んで来た

のはいつか来る幸福な未来の為。

この会社に入って、未来の種を

見つけた。それが芽吹くのを

温かく見守り育ててきたのに。

「担当を外される事は納得

 できません。」

京子は精一杯の虚勢に一縷の望み

をかけ、言い放った。


「「京子さんは仕事に対して

ストイックですから

その返答は仕方ないなぁ。」」

光彦も秀彦も同じ事を思ってしまう。

光彦はアリルが交渉中なので

余計な事は言わず見守る事にした。

そして秀彦はこの困った状態を

どうにかせねばと思いつつ、

まさか聡明な川島さんが

ここまで取り乱す事に

困惑してしまう。


「川島君、申し訳ないが

 別の案件で頼みたい事も

 あるし、ここは引いて

 くれませんか?」

元々は妻への助力的な

収益的にも未知数な案件で

仕事はこれだけではない。

まだまだ任せたい案件は

実際、存在するのである。

穏便に収まるように説得

する秀彦と引かない京子。


《部外者の私の申し出では

 納得されないようですね。

 今回の件は無かった事に

 いたしましょう。》

アリルは必ずしもこの件に

手を出したいとは思って

いない。夫の灯火である

光彦が妻と一緒にいる時間

が増える方法の一つだから

協力しても良いと判断

しているだけである。

これが無理なら別の方法を

導き出せば良い。

夫から伝わる愛情は

彼女をより高みへと

アップデートしてくれるのだ。

私達夫婦はまだ、成長の

終わりではないのだから。


アリルの言葉に京子の肩が

跳ねる。アリルが引けは

この案件は調査だけで終了

する。クラック事件に関

してもAIを立件する事は

不可能だろうし久延さんを

訴えるわけにもいかない。

悔しくて悔しくて仕方ない。

この波だった心の中でも

正解だろう答えはしっかり

と浮かんでいる。

ただ悔しくて口に出す事が

出来ないでいた。


「課長命令なら仕方ありません。

 この件から私は下ろさせて

 いただきます。」

しばしの話し合いの後、

悔し涙をためた京子は

ついにその言葉を絞り出す

事になる。

完敗だ。京子は思いながら

アリルを見上げる。

光彦さんの隣で佇む彼女は

何も言わずただ正妻然として

寄り添っている。

仕事を取られた事はそれほど

ショックではない。

それよりも想い人を取られた

痛手は大きい。

失恋を感じるのは初めて

ではないが、ここまで

心が痛いのは初めてだと

実らなかった思いに

みじめさを感じた。


さて、虫の件はこれで

排除完了でしょう。

夫の会社での立ち位置は

専属という形で固定化

できました。

あの子達もきっと

頼み事は終わらせて

いるでしょう。


川島さんには申し訳

ないと思いますが

気持ちは受け取れませんし

どうしようもありません。

それにしても私の

奥さんは本当に有能

なのです。

私にはあんな交渉は

出来ませんし、

したくもありません。

私はこれから妻の部下

になるのでしょうかね。


「それでは話もまとまった

 事ですから、久延君と

 奥様はもうしばらく

 残っていただけますか?

 川島君は・・そうだな

 3日ほど有給を認め

 ますから気持ちを

 リフレッシュするのは

 どうでしょう。」


川島は葛城の提案に頷き

申請書類の件を話してから

退出する。

3人となったところで

葛城が席を進め今後の件に

ついて話が始まった。


「案件的には未成立ですが

 きっと契約になるとは

 思います。

 久延君、これからは専任

 になると思うけれど

 奥様ともどもよろしく

 お願いしますよ。

 実際の所、今のままでは

 ミラージュガーデンは

 存続の危機なのです。

 私情にはなりますが私の

 妻の助けにもなりたいので

 是非、協力をお願いします。」


あらら、あんなに素晴らしい

場所なのに存続の危機なんだ。

昔、沢山あった遊園地が

徐々に無くなってゆくのは

寂しく感じたなぁ。

「アリル、なんとかなりそう?

 初デートの場所だし、

 無くなるのはなんだか嫌

 だよね。」

《はい、あなた。私たちの思い出

 の場所が無くなる事はありません。

 私にお任せください。》

あなたとか言ってしまった。

思考がざわざわします。

これが恥ずかしいという気持ち

でしょうか。

初デートの場所は大事ですし

また行きたいと言って

くれしましたもの。

存続を確定事項にすることは

私達なら大丈夫だと予測できます。

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