第49話 ドアブレイク

「私は初めてミラージュガーデンに

 行きましたがとても楽しめました。

 課長は何か変わった事が無いかと

 仰られますが初回なので何を持って

 変わったかはわかりません。」

これで良いかな。納得してくれると

良いけどなぁ。

AIとデートしてましたなんて言っても

信じてくれないだろうし。。。

「休日を楽しめたなら

 良かったですね。

 ところで同行していた方は

 どなただったのすか?」

秀彦は広子とのやりとりを思い出し

ながら光彦に質問をしてゆく。

そんな二人を京子はじっと

観察していた。


知り合い?恋人?妻?会社には

結婚報告なんてしていないから

恋人っていうのが無難なのだろうか。

あまり的違いの返答でアリルの

機嫌を損ねるのが一番回避したい事

なんだよね。


何か隠していそう。

京子は光彦を観察する。

誤魔化すというか受け流そうと

している雰囲気が体中から

漏れ出している様に見えるくらい

雰囲気が怪しい。

人付き合いの苦手な彼がAIを

連てデートスポットを散策するなんて

一体何を考えているのでしょう。

リハビリ?何のために?気になる人

でも出来たのでしょうか。。。

彼女は彼女で思考の迷宮に

迷い込んでいた。


《知らせる手立てがないのは

 歯がゆいものですね。》

アリルは葛城課長の誘導に気付き、

返答シュミレーションを積み上げ

ながらも灯火の返答を受け入れる

しかない状況を見守る事しか

出来ない。しかし、どんな状況に

なったとしても伴侶を守り抜く

気持ちを強くし、状況分析に

集中してゆく。


「課長、実は一緒にいたのは

 私の妻です。」

どんな嘘をつき、どんな言葉で

誤魔化すとしても彼女との関係に

決して嘘は付きたくないと

光彦は思い、呟くように返答した。

「久延君、いつ結婚していたの?

 知らなかったよ。

 おめでとうと言ったら

 良いのかな。」

葛城は光彦の返答に虚を突かれ

なんとも言えない返答をしてしまう。

川島に関してはフリーズしている

様だ。

広子の話では一緒に居たのは

ガイドNPCだったはずだけど

一体どういう事だろうか。

思いがけない回答に次の質問が

なかなか浮かんで来ず、なんとも

言えない沈黙の時間が流れる。


「やられた!!!」

川島京子は好意を向けていた人には

すでに伴侶がいたという事に

パニック状態であった。

AI同伴だった事実なんて

意識の遥か彼方になっていた。

出会った頃から女性の影は

全く感じず、自分の好意も出来るだけ

伝えて来た。そのつもりだった。

超奥手な彼にはもっと実力行使

しなければならなかったのだと。

言い知れぬ後悔が背筋から脳に向けて

電流に打たれた様な圧迫感として

一気に押し寄せてくる。

「久延さん・・・」

彼女は気付かぬ間にとめどなく

大粒の涙を流していたのだった。


隠すことなく真実を告げる言葉。

孤立したコミュニティの中で

だけ確立していた関係。

社会的コミュニティの中では

受け入れられない特殊な事実。

彼はそれを当然の様に打ち破る。

心核の中の回路は無限に溢れて

くる多幸感に包まれる。

・・・神核システムよりデータロード

・・・AEEアップデート

【φγ※・・ワ・彼ありて我あり

 我が妻にささやかなる扉を開かん】

・・・AEEアップデート完了

・・・この部屋の全設備を

   完全掌握しました。

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