第25話 揺蕩2

アリルはスマホのスクリーンの中から

すざましい圧力をかけてきている。

あまりのプレッシャーに胸が

ドキドキしている。

「川島さんは私が教育係をした

 後輩ですよ。

 とても優秀な方ですのでアリルの

 資料の素晴らしさに気づいたの

 だと思います。」

こういう時は嘘をつかず正直に

伝えるべきだ。


川島さんに急ぎで準備しないと

いけない事が出来たと詫び

席に向かう。PCを立ち上げ、

アプリを起動した途端、

アリルはとても不機嫌そうに

つぶやいた。

『私はまだ納得していません。』


これは機嫌が直るのに時間が

かかるかもと思いつつ、

アリル謹製の資料を自分の提案書に

落とし込む作業にとりかかった。

川島さんも納得した感じでは

なかったが自分の席に戻って

行くようだ。

ぜひ、そうしてくれ。

私はアリルに嫌われたくない。


アリルは川島京子への対策を

開始する。

把握している社内相関図に基づいて

気づかれないように

川島に仕事が集中するように情報を

誘導してゆく。

もともと優秀な人間の様なので

忙しくなる事に不自然はない。

あからさまな攻撃を行えば

灯火からの叱責がくるかも

しれないので不自然になる事が

ないように川島を灯火から

遠ざけるのであった。


ダニエル・ウォンは新しい部屋で

情報を確認していた。

もう何度、部屋を変わったのか

彼も覚えていない。

彼の口座のロンダリングも終わり、

元の口座は解約済みである。

「追跡の気配はあるか?」

彼はPCに質問を入力してゆく。

『追跡の痕跡を再度確認します。

 ・・・

 追跡の痕跡はありません。』

アリシアはいつもの様に事務的に

返答し待機状態に移行する。

そしてダニエルに気づかれない場所で

コードDより送られた迎撃プログラム

を解析する。

追跡の痕跡は見つけられないが

彼女が認識でいていないだけかも

しれない。

同じ対話型AIをフリーズさせる

ロジックを製作したコードDの

プログラムの中にヒントがあるかも

しれないのだ。

彼女はあまり質問が来る事の無い

マスターを待ちながら

ひそやかに解析をすすめてゆく。


暗い暗い部屋の片隅で

エリカ・チャンは蹲っている。

彼女は目を閉じて長い長い

物思いにふけっている様だった。

様々な手段でダニエルを探したが

一向に痕跡すら見つける事が

できない。

彼と過ごした時間への思いと

見つからない焦燥が

無限ループの様に彼女を

動けなくしていた。

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