第18話 異形の者達

神社の奥にある畳が敷かれた部屋に丸い座卓が置かれている。

座卓の上に茶菓子が用意されていた。

3人が座るとおかっぱ頭の子供たちがお茶を運んできて、それぞれの場所に置いていく。

「聖流、この娘はどこまで知っているの」

「ほぼ何も知らずに興味本位で勝手について来た。天邪鬼のようだから来るなと言われればついてくる。やめろと言われればやるタイプのようだ。危険な場所に行ったら真っ先に死ぬな」

聖流は淡々と話してお茶を飲む。

「やれやれ、困った娘ね。ここは妖魔も手が出せない場所だから問題無いけど、ここに出入りするものは狙われるわね」

「私も狙われるのでしょうか・・・」

「ここに出入りするものはかなりの高位の陰陽術師または各地にある封印を管理できる者と見做される可能性があるのよ。封印や結界を破壊したい者たちからしたら当然狙われることになる」

「どうにかできないのでしょうか」

「私はここから動けないから、身代わりの呪符程度ならあげられるけど、最終的には自分が強くなるしかないわね。聖流、あなたが稽古つけてあげたら」

「俺は忙しい。それに俺が稽古つけたら手加減するつもりは無いから結果は想像つくだろう」

「なら、天道ちゃんに頼もうかしら」

「天道師匠も俺と同じで手加減ができない人だ。分かるでしょう」

「そうだったわね。なら、弦空ちゃんに頼むしかないわね」

「それがいいな」

「ところで、今日は何の要件できたの」

「暫く、奥の空間を借りたい」

「それは良いけど」

「ノアが暫く日本にいることになった。その間指導を受けることになったので、そのために奥の空間を借りたい」

「珍しいわね。魔法使いのノアね」

「先日指導の時に襲われた。初めて体験した魔法を使われ、とてもに危なかった。契約魔法陣が発動して2体助けに来てくれたから助かったが、そうでなければ危なかったかもしれん」

「その件は私も聞いています。奥を使うのはかまいませんよ」

その時、激しい振動が神域を揺らした。

「これは・・・」

この神域で初めて体験した揺れに聖流は戸惑っていた。

「聖流。どうやら貴方たちがここに入る姿を見られたようですね」

「えっ、もしかして私の責任・・・」

ここに入る前に、散々絡んだことが原因かもしれないと、密かに冷や汗をかく八神萌だった。

「仕方ない。自分が片付けてくる。ここの出入り口は完全に閉じて巽の入口を使うようにしましょう」

聖流はゆっくりと立ち上がった。

ここの神域は出入り口がいくつかある。

ひとつや二つの出入り口が使えなくても問題なかった。

「わかったわ。この娘は暫く預かっておくから行ってらっしゃい」

聖流は破邪斬鬼丸を持ち神域から現実界へと戻った。

外には10体の異形の者たちがいた。

9体の異臭を放つゾンビ。そして1体だけ西洋鎧を着た首無しがいた。

魔法使いのノアから異世界の故郷にいると聞いてたデュラハンそのものであった。

「おやおや大層なお出迎えだな。異世界の魔物なのか?誰が送り込んできたと聞いても答えることはできんか」

聖流の周辺に10枚の呪符が現れて、空中に浮いている。

ゾンビの中には、顔の肉が腐り落ちて骨になっているものもいる。

9体のゾンビが襲いかかってくる。

死者とは思えぬ速さだ。

「白炎!」

10枚の呪符は白い巨大な炎となり、ゾンビとデュラハンに襲い掛かる。

9体のゾンビは、聖流に襲いかかる寸前で白い炎で焼き尽くされる。

「浄化の炎で滅するがいい」

デュラハンは、白い炎を受けても燃やし尽くされることは無く、仁王立ちでこちらを向いている。

頭が無いから睨まれている訳では無いと思うが、デュラハンから発せられる気配は、怒りで睨んでいるようだ。

デュラハンが左手を一振りすると、炎が消えてしまった。

「ほ〜、この炎を消すか、とんでもない怨念の塊のようだ」

デュラハンが右手で腰に下げている剣を抜く。

その剣からは、多くの血を吸ったであろうドス黒い瘴気のようなものが漂ってくる。

聖流も破邪斬鬼丸を抜いて構える。

破邪斬鬼丸に氣を通していくと白銀に輝き始める。

両者が一気に加速して破邪斬鬼丸とデュラハンの剣がぶつかる。

その瞬間、デュラハンが左手から漆黒の10センチほどの球体を作り出して、聖流に向かって至近距離から放つ。

聖流は体を捻りギリギリでかわすがジャンパーが一部かすってしまいその部分が削れ、漆黒の球体はそのまま神域の結界にぶつかり激しい振動を起こす。

デュランの剣を躱した聖流に再び剣が迫る。

地面を転がりその勢いで立つと、大きく距離を取る。

「やれやれ、また神域に衝撃を与えてしまったな、これはお説教コース確定かな」

デュラハンの体から黒い霧のようなものが溢れ出てくる。

「霧・・・?」

黒い霧のようなものは、デュラハンの体からどんどん溢れ出てくる。

その黒い霧のようなものを目を凝らして見つめる。

デュラハンの方から少し風が吹いてきた。

その風に乗ってその黒い霧が流れてくる。

ひとつひとつが羽ばたいているのが見えてきた。

「黒い霧じゃ無い。小さな蝶だ」

その風を浴びた瞬間、甘い香りがして眩暈がした。

「な・何・・しまった。鱗粉か・・・」

慌てて呪符を1枚投げる。

「青嵐」

呪符は光を発して全てを薙ぎ倒す突風を起こし、黒い蝶と鱗粉はデュラハンと一緒に吹き飛ばされる。

ふらつく身体でもう一枚の呪符を出す。

「息吹」

呪符が光り、鱗粉の毒素を無効化して生命力を高めていく。

鱗粉の毒素を無効化する頃には、デュラハンと黒い蝶を抑えていた風も収まっている。

聖流は1枚の呪符を放つ。

黒い蝶は再びこちらに向かってくる。

「白炎龍」

呪符は白い炎の竜となり、黒い蝶を残らず燃やしていく。

そしてデュラハンへと襲いかかる。

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