15 輸血

 翌日、朝。

 ヴァン・ヘルシングはアムステルダム市立大学に一旦出勤すると、学部長に事情を話し――アメリア・アッセルのご遺体の件で思い出したことがある、という名目で――、被害者家族である市議会議員のアッセル氏に会いに行くため、今日は講義を休ませてもらうことにした。

 学部長から了承を得て大学を出ると、入り口前の、ミネルヴァの胸像を取り囲む植え込みの脇で伯爵が待っていた。

「待たせた。区役所に行くぞ」

「了解した」

 二人は徒歩で目的地を目指す――アムステルダム市立大学と中央区役所は結構近い――。

 中央区役所へ向かうその最中。

 ヴァン・ヘルシングは隣を歩く伯爵を見上げ、言う。

「一応言っておくぞ?」

 伯爵は目をパチクリさせ、ヴァン・ヘルシングを見下ろした。

「アッセル氏には絶対に失礼のないようにな」

 ヴァン・ヘルシングの、念を押してくるような物言いに伯爵は再度瞬きをし、尋ねた。

「それはもちろんだが……何故だね?」

 するとヴァン・ヘルシングは深刻そうな表情を浮かべ、小声で叫ぶように言った。

「当たり前だろ。俺はアムステルダム市立大学の教授。アムステルダム市立大学は名称の通り市立の大学なんだ。そして大学の教授を任命するのは市議会議員たち。もしその市議会議員たちに“エイブラハム・ヴァン・ヘルシングはヤバい奴”だと思われてみろ。即刻罷免され、俺は無一文になってしまうっ……」

 ヴァン・ヘルシングは言い切ると、脱力したように深いため息をついた。その隣では、伯爵が神妙な面持ちで――失笑をこらえて――いた。

……それなら君はとっくのとうに罷免されてると思うがね?


 運河を数本渡り、中央区役所に着くと――例の如く伯爵はヴァン・ヘルシングに招き入れてもらった――早速ヴァン・ヘルシングは受付の女性に声を掛けた。

「私、アムステルダム市立大学のヴァン・ヘルシングというものですが、市議会議員のアッセル氏はいらっしゃいますか?」

 すると女性は困ったような表情を浮かべ、口ごもった声で問い掛けてきた。

「……どういったご要件でしょうか……?」

 ヴァン・ヘルシングは女性に不審がられないように、丁寧に説明しようとした。

「先月事件のあったアッセル氏の娘さんのアメリア――」

 “アメリア”と言う言葉を聞いたとたん、女性は血相を変えるとヴァン・ヘルシングの説明を遮って言った。

「市議会議員のアッセル氏は、本日は登庁しておりません」

 女性の応対の変わりようにヴァン・ヘルシングは驚きに目を見張ったが、そこは鉄の意志を持つヴァン・ヘルシング。諦めることが出来ず、女性にもう一度説明をした。

「先月亡くなられたアメリア・アッセルさんの件で、アッセル氏との面会をお願いしたいんです。お願いします」

 ヴァン・ヘルシングは帽子を取ると、深々と女性に頭を下げた。その後ろでは伯爵がヴァン・ヘルシングを静かに見守っていた。

 区役所を訪れている市民たちが、頭を下げるヴァン・ヘルシングと、老人に頭を下げさせている受付の女性に注目した。女性は耐えきれなくなったのか深いため息をついた。

「分かりましたからっ……。少し離れます……」

 女性はもう一人の受付の女性に声を掛けると、手で近くの長椅子を指し示した。

 女性とヴァン・ヘルシング、伯爵は長椅子に座り、ヴァン・ヘルシングは改めてアッセル氏への面会のお願いをした。だが、女性は先ほどと同じ様に困惑した様子で言った。

「アッセル氏は本当に登庁してないんです。今月初めくらいからずっと……」

「そんなに、ですか……?」

 ヴァン・ヘルシングが目を見張ると、女性は辺りを気にするようにキョロキョロし、声を潜めて言った。

「実は、娘さんを亡くされてから数日後のことですが――」


 2月下旬、ノース邸のパーティーが行われる2週間前のこと。昼間の中央区役所に一人の男が、怒りを露わにして怒鳴り込んできたのだ。

『アッセルを出せっ!』

 やってきた男はアムステルダムでも5本の指に入るほどの資産家だった。

 その時受付をしていた女性が事情を聞くと、なんと、つい先日殺されたというアメリア・アッセルがその資産家の娘を、夜な夜な襲っている、という内容だったのだ。

 その資産家の娘はアメリア・アッセルと友人関係で、お互いの邸宅に招待しあっていた仲らしい。

 その時は警察を呼んで対応してもらい、その資産家には帰ってもらったのだが――。

 女性はその日登庁していたアッセル氏に事の説明をすると、馬鹿馬鹿しく思われたのか、聞き流されてしまった。

『娘が、アメリアが蘇るわけ無いだろう!? 蘇ってくれたらどんなに嬉しいかっ!』

 その日はそのまま、アッセル氏は定時で退庁していった。

 その一週間後からだった――。

 登庁してきたアッセル氏は明らかに体調が悪そうに見えた。顔面蒼白で、何かに怯えている様子だった。

 他の市議会議員たちが気遣って、どうしたのだ? と聞くと、アッセル氏は取り乱し、狂ってしまったかのように、こう口走った。

『違うんだ……違うんだっ……。娘はっ……アメリアはっ……! “アレ”は絶対にっ、アメリアじゃないっ……!』

 アッセル氏は体調不良ということで、その日は即退庁となった。それ以降アッセル氏は登庁していないのだという。


 ヴァン・ヘルシングは途方に暮れた様子で中央区役所の出入り口で立ち尽くしており、その隣では伯爵が、ヴァン・ヘルシングを静かに見つめていた。

「エイブラハム、アッセルの家に乗り込むかね?」

 伯爵の問いにヴァン・ヘルシングは深呼吸すると、静かに返した。

「この後、アッセル氏の邸宅に伺う。もう、時間の猶予はない」

 ヴァン・ヘルシングは上着の胸ポケットから銀製の懐中時計を取り出すと、現在の時刻を確認した。

「もうすぐで正午か……腹が減ったな……」

 しみじみとした口調で言いながら、ヴァン・ヘルシングは懐中時計をしまった。

「では、一度家に帰って昼食としよう。その後すぐにアッセルの家に行くのかね?」

 伯爵が尋ねると、ヴァン・ヘルシングは気持ちを切り替えたように伯爵を見上げた。

「否、すまんがもう一度大学に行きたい。必要なものがある。その後に市立病院に行ってアドリアン君に報告しないとな。アメリアさんの婚約者のことも聞かなければ。もうダーヴェルの絵は出来てるだろうか……?」

 二人は家に向かって歩き出した。


 昼食を済ませると、アムステルダム市立大学に戻り、二人は大学敷地内の畑にいた。

 ヴァン・ヘルシングは上着の袖とスラックスの裾を捲くり上げ、畑の中にしゃがみ込み、スコップ片手に何やら細長い葉の束を掘り起こしていた。その様子を少し離れたところで、伯爵が植木鉢とヴァン・ヘルシングの帽子、鞄――普段手術道具を入れているドクターズバッグ――を抱えながら待機していた。その表情は微妙な面持ちだった。

「ヴラド、来てくれ」

 そう言いながらヴァン・ヘルシングは、土まみれの手で収穫したてのニンニクの株を伯爵に突き出していた。無論伯爵は近付くことが出来ず、駄々をこねる子供のように首を横に振って拒否した。ヴァン・ヘルシングは一瞬気に食わない表情を浮かべたが、あっ、と目を見開いた。

「ああ、すまん。鉢と鞄だけ持ってきてくれるか?」

 ヴァン・ヘルシングはニンニクを背後に隠した。

 伯爵はぎりぎり近づけるところまで行くと、ヴァン・ヘルシングの足元付近に植木鉢と鞄を置いて、再度離れていった。

 植木鉢を取ったヴァン・ヘルシングは持っていたニンニクの株を入れると、畑の土をスコップで流し込んでいった。植木鉢いっぱいに土を入れ、手で表面を整える。

 ニンニクが植えられた植木鉢を脇に置くと、今度は畑から生えている他のニンニクの株を掘り起こしてはポンポンと引っこ抜いていった。

「よし、これを病室に持っていこう」

 ヴァン・ヘルシングはよっこいしょ、と立ち上がり、手に付いた土を払うと、足元の、引き抜かれたニンニクの株を拾い、何のためらいもなく鞄に詰めていく。伯爵は呆然とその様子を見つめていた。

 ヴァン・ヘルシングの必要なものとは、どうやらニンニクのことのようだ。


 二人は徒歩で市立病院へと向かう。

 ヴァン・ヘルシングは吸血鬼退治道具の入っている黒い鞄と、いつもは手術道具が入っている――今はニンニクの株が詰まっている――鞄を持っていた。

 運河沿いにあるアムステルダム市立病院は4階建ての煉瓦造りで、厳かなシンメトリーの作りだ。

 玄関を潜り病院内に入ると――伯爵は以下省略――、すぐにロビーがあるのだが、ロビーは患者で賑わいを見せていたが、そこまで切羽詰まった様子は見られない。謎の集団貧血は落ち着きを取り戻したのであろうか。

 ヴァン・ヘルシングと伯爵は帽子を取ると受付の女性に声を掛けた。

「アムステルダム市立大学で教授をやっておりますヴァン・ヘルシングと申しますが、当大学から来てる医学生のアドリアン・バースと話は出来ますでしょうか?」

 受付の女性は“アドリアン・バース”の名を聞いたとたん、顔を曇らせ、小さな声で言った。

「バースさんでしたら3階の入院病棟におります……」

「ありがとうございます」

 ヴァン・ヘルシングは受付の女性に会釈すると、階段で3階へと上がっていった。

 3階に着くと慌ただしい足音と叫び声が響いてきた。

「先生呼んでっ!」

「ルッテさんが意識不明です!!」

「B型の人っ、誰か来てっ!!」

 看護師たちが慌ただしく、廊下のように長い、ベッドがたくさん並ぶ間を忙しなく右往左往する。ヴァン・ヘルシングと伯爵はそんな看護師たちの間を縫って進みながらアドリアンを探した。

 ベッドには若い女性たちが横たわっており、ほとんどのベッドが埋まっていた。

 とある窓際の、ベッドの脇にアドリアンが立っているのが見えた。

「アドリアンッ……」

 ヴァン・ヘルシングは声を掛けようとしたが、アドリアンは今輸血の最中でその場から動けない様子だった。

 ワイシャツの袖が捲くられたアドリアンの左腕には注射針が刺さっており、針の根本には管が続き、管はベッドに横たわる女性の左腕へと繋がっていた。

 なんとその女性はアドリアンの姉、クララだったのだ!

 アドリアンからの輸血を受けているクララはぐったりとしており、昨夜のパーティーの時以上に顔面蒼白だった。苦しそうに呼吸をしており、辛そうに目を閉じている。そんな彼女の首には包帯が巻かれている。 

【1900年、病理・血清学者であるオーストリアのカール・ラントシュタイナー氏が血液型を発見し、1901年11月14日に論文を発表した。それまで輸血は、1897年5月に発刊された原典にもあった通り血液型関係なく輸血されており(当時血液型という概念がまだ無かった)、吉と出るか凶と出るかの命懸けの治療だった。本作では既に血液型の概念があるものとする】

 ヴァン・ヘルシングと伯爵はアドリアンの元に歩み寄った。

「アドリアン君」

 ヴァン・ヘルシングが静かに声を掛けると、アドリアンが、文字通り血の気が引いたような青白い顔で振り返った。目元にはくっきりとクマが出来ていた。

「先生……ドラキュラさん……。こんにちは……」

 ヴァン・ヘルシングは両手の鞄を足元に置くと、クララの枕元に歩み寄り、彼女の首の包帯を少しずらして噛まれた傷の痕を確認した。

 クララの首筋の傷口は昨夜よりも酷く白くふやけており、内側はぐちょりと無惨な状態となっていた。まさしく8年前の、ルーシー・ウェステンラの首筋の傷そのものだった。ヴァン・ヘルシングはヒュッと息をのみ、すぐさま包帯を元に戻した。

「クララさん、こんなに悪かったのか……? それにこの患者の人数はっ……」

 ヴァン・ヘルシングは動揺を隠せずアドリアンに問うと、アドリアンは深く息をついた。

「はい……。今ここにいる患者は、市内の開業医から転院してきた方たちです。謎の集団貧血は当院のみで対応することになったので……。あと、クララですが、昨日までは本当に軽い貧血だったんです。ですが、今日の朝……全然起きてこなかったので、部屋をのぞいたら、窓が開いていて、クララが床に倒れていて……破られたデッサン画が……」

 アドリアンはベッドのサイドテーブルの引き出しから複数の紙切れを取り出すとヴァン・ヘルシングに差し出した。紙切れを受け取ったヴァン・ヘルシングはそれらに描かれてあるものを凝視すると、クララが横たわるベッドの足元に並べていった。出来上がったのはルスヴン卿――ダーヴェルの肖像のデッサン画だった。

 ヴァン・ヘルシングは不思議そうにアドリアンに尋ねた。

「これを破いたのは……クララさん……?」

 アドリアンは無言で首を横に振ると、力のない声で言った。

「クララは昨夜、意気込んでその絵を描いていたので、有り得ないです……」

「では何故、破られて……。ルスヴン卿――ダーヴェルはもうヴラドが退治したというのに……」

 ヴァン・ヘルシングが不思議そうに呟く隣で伯爵が言った。

「まるで、自分が滅ぼされたのを、他人に隠しておきたいかのようだね」

 伯爵の言葉にヴァン・ヘルシングははっ! とした。

「ヴラド、まさかと思うが……」

「何だね?」

 伯爵が首をかしげると、ヴァン・ヘルシングは続けた。

「ダーヴェルを退治した後、その塵はどうした?」

「そのままだが?」

 伯爵は目をパチクリさせた。

「まさか、月光に当たるような場所じゃないよな……?」

 ヴァン・ヘルシングは恐怖に慄いたように尋ねた。そんな彼の質問に伯爵は少し考えて答えた。

「そういえば、窓際だったね。カーテンも開いていた」

 伯爵の返事にヴァン・ヘルシングは落胆したようにため息をついた。何故そんな反応をされるのか、と伯爵は理解出来ず、眉を潜める。

 伯爵の様子にヴァン・ヘルシングは、仕方がないか、と言わんばかりに付け加えた。

「以前話したジョン・ポリドリの『吸血鬼』に出てくるルスヴン卿は、“殺された”後、月光を浴びて蘇ったんだ。もしかしたら、と思うだろ?」

 すると伯爵は、半開きの物言いたげな目つきでヴァン・ヘルシングを見つめた。

「『本の内容を鵜呑みにするな』と言ったのは、どこの誰だったかね? ならば、2、3回吸血しても――」

 伯爵はすぐにでもヴァン・ヘルシングに飛び掛かれるように、両手を――指をわきわきと動かしながら――構えていた。ヴァン・ヘルシングはギョッと顔を引きつらせ、とっさに後ずさった。

「それとこれを一緒にっ! ……するな。念には念を、だっ……」

 思わず叫びそうになり、咳払いをする。そんなヴァン・ヘルシングを他所に伯爵は話を続けた。

「もしダーヴェルが蘇ったとしたなら、奴は身近な者に変身して我々に近づいてくるやもしれん。合言葉を決めておこう」

 伯爵の提案にヴァン・ヘルシングとアドリアンは瞬きをした。

「「合言葉?」」

「“コウモリ”。ほれエイブラハム、“コウモリ”で思いつく言葉は何だね?」

「お、俺かよ……」

 突然伯爵に振られ、ヴァン・ヘルシングは困惑しつつも先ずはコウモリを思い浮かべてみた。

……コウモリ、ねえ。

 頭に浮かんだのは、伯爵のコウモリ姿だった。

 腕に抱き抱えられそうなぐらいの大きさで、黒くてふわふわで、真っ赤な目をパッチリと見開き、小さな耳をヒョコヒョコと動かし、まるで媚びているように小首をかしげ――。

 以前、コウモリ姿の伯爵がベッドに忍び込んできて、自身の首に縋りついてきた時のことを思い出した。

 ヴァン・ヘルシングは無意識のうちに顔を綻ばせていた。

「あ……。“もふもふ”……」

「“もふもふ”?」

 伯爵が目を光らせヴァン・ヘルシングの顔を真剣そうにのぞき込んできた。

「ちっ、違っ――」

 ヴァン・ヘルシングは顔を真っ赤にさせ、バチン! と自身の口を押さえながら思いっきり首を横に振った。

「では、“コウモリ”、“もふもふ”でいこう……。ふっ……ふふっ」

 伯爵は思わず肩を震わせてしまったのは言うまでもない。

 

 クララへの輸血が終わり、彼女は今ぐっすりと眠っている。

 ヴァン・ヘルシングは、椅子にぐったりと腰掛けるアドリアンの腕に包帯を巻き終えたところで、話の続きをした。

「昼間は何とかなるだろうが――吸血鬼は、昼間は変身出来ないからな――、肝心なのは夜だ」

 ヴァン・ヘルシングの言葉にアドリアンは難しい表情を浮かべた。

「ルスヴン卿――ダーヴェルは、もしかしたらもうここに……」

「侵入している可能性がある。アメリア・アッセルも同様にな。そこでだ、アドリアン君――」

 ヴァン・ヘルシングは真剣な表情でアドリアンの顔をのぞき込んだ。アドリアンは固唾をのんだ。

「大変だと思うが、今夜は当直をしてほしいんだ」

 ヴァン・ヘルシングの言葉にアドリアンはゆっくりとうなずいた。

「はい。もしダーヴェルが侵入してきたら……?」

 アドリアンは不安な面持ちでヴァン・ヘルシングに尋ねた。

「ああ、それについては、苦情が来てしまうかもしれんが――」

 ヴァン・ヘルシングは、大学から持ってきたニンニクの植木鉢をクララのベッドのサイドテーブルに置いた。

 ニンニクが鞄から出されたことによって、伯爵はそろそろと後ずさりし、病室の入り口前でこちらを眺めていた。

「先生、それって……」

 アドリアンは植木鉢を興味津々に見つめた。

「ハールレムでハーブを年中温室栽培している友人のファン・デル・ポールが8年前にくれたニンニクなんだ。余ったやつを大学の畑にちょっと植えさせてもらってたんだ」

 ヴァン・ヘルシングは昔を思い出し、微苦笑を浮かべた。

……あの時は本当に大変だったな……。だが、今は……。

 ヴァン・ヘルシングは病室の入り口の前でこちらを眺めてきている伯爵を一瞥し、一笑するとアドリアンに向き直った。

「では、私はこれからアッセル氏の邸宅に行ってくる。それと――」

 ヴァン・ヘルシングはニンニクの株が詰まっている、ニンニクの臭いが漏れ出ている鞄からニンニクの株を何十株か取り出すとアドリアンに渡した。

「これを渡しておくよ」

「はい。ひと先ず夕方前に窓際と病室入り口に置いておきます」

「頼んだぞ」

 ヴァン・ヘルシングはぐっすり眠っているクララの手をそっと取った。脈を確認し、安心したようにうなずくと病室を後にした。






※本文のアムステルダム中央区役所の場所は、現在の中央区役所とさせて頂きます。

 ダム広場の旧市庁舎(現在はオランダ王家の王宮)は20世紀初頭の時点では、まだフランス王家の所有物だったので……。

 そしてアムステルダム市立病院は、現在アムステルダム大学が所有しているアムステルダム大学−BG2【Universiteit van Amsterdam - BG2】の建物とします。この建物は元アムステルダム市立病院でもある。現在は大学の講座で使用されている。因みに国定記念物。

 話が変わるが、下記の記事にて↓

https://imj.ie/bayesian-analysis-of-blood-transfusion-in-dracula/

 ルーシー・ウェステンラの血液型はA型ではないかと書かれていた。

 ルーシーはイギリス人のアーサーとジョン、アメリカ人のクインシー、オランダ人のヴァン・ヘルシングから輸血をしてもらっている。因みにイギリスとアメリカ、オランダの3カ国はともにA型、O型の人口が高割合。A型同士なら凝固は起きないし、O型は抗原がないので他の血型にほぼ輸血可能。そうなるとルーシーは貧血により亡くなったと考えられる。ただし、輸血をした4人が高割合の内に入っていればの話だが……。


 原典“第十章、セワード医師の日記”よりヴァン・ヘルシング教授の言葉。

“Which is all the way from Haarlem, where my friend Vanderpool raise harb in his glass-houses all the year. I had to telegraph yesterday, or they would not have been here.”

『これ(ニンニク)は遥々ハールレムから届いたもので、友人のファン・デル・ポールが年中、そこでハーブを温室栽培している。私が昨日電報を送っていなければ、こうしてここ(ルーシー・ウェステンラの家)にはなかった訳だ』

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