第19話 片想う同級生

 スターグレース探偵事務所……。


 それが紹介された探偵事務所の名前だった。なるほどぜんぜん気づかなかったが、星乃めぐみでスター恵みグレースなのか?


 目の前に座った星乃の変化に俺は驚きを隠せず彼女に素直な感想を告げていた。


「一目見たとき、誰だかわかんなかったよ」

「私はすぐにわかったよ、結月くんだって」

「確かに俺はあまり変わってないかなぁ」


 星乃は無言で耳にかかった髪をかきあげると、俺は地味だった同級生に色香を感じてしまう。俺にまるで蝶が羽化して美しくなった羽根をアピールしているかのようだった。


「どうかな、イメチェンしてみたんだけど……」

「うん、すごくいいよ。元々星乃は目鼻立ちは良かったから、ホント綺麗になったと思う」

「えーっ、ホントに?」


 俺をジト目で見ながら疑っている星乃だったが、一切のお世辞なく彼女のポテンシャルは高かったと思う。


「だったら学生のときに結月くんから目鼻立ちはいいって聞きたかったなぁ~」

「そりゃ無理だって……星乃の彼氏でもないのに綺麗だとか、かわいいとか言えるわけなかったよ」


 チャラい蓮なら普通に言いそうだが、学生時代はいま以上にシャイで幼馴染だった美玖に告白するのが精いっぱいだった。


「だよね……結月くんは美玖にしか興味なさそうだったし」


 なぜか正直に答えると星乃は、はーっとため息をついて、どこか拗ねているかのように思えてしまう。


「もしかして怒ってる?」

「怒ってないよ、もう大人だから」


 俺が星乃の機嫌を損ねてしまったんじゃないかと心配して声をかけると、星乃はおろおろする俺の仕草をくすっと笑って笑っていた。なんだか、いまこの空間だけ学生時代に戻ったような気がしていた。


 星乃は中高の頃はもっと地味な容姿をしており、引っ込み思案って言葉がぴったりな女の子だった。そんな星乃だったが、彼女はよく推理小説とかを読んでたことを強く覚えている。


 落とし物したときなど、彼女に相談するクラスメートは多く、悩める者たちに落とし物の場所のヒントを与えて、見事にその場所で見つかったりしたときは、大層よろこばれていた。


 星乃の事務所は駅近のビルの一階という好立地にあり、賃貸契約だったら月に何十万と取られてもおかしくないだろう。


「もしかして、星乃が所長とか?」

「あ、うん……元々お爺ちゃんがやっていて、半引退状態のところを引き継いだ形。まあ事務所の名義はお爺ちゃんのままなんだけどね」


 弁護士の先生の曰わく、浮気調査に定評があり依頼者の満足度は相当高いと聞いている。星乃はその評判に違わぬ容姿をしており、眼鏡をかけていることもあり、いかにも才女って雰囲気漂わせていた。


 さっきまで俺と昔話というほどでもないが、学生時代の思い出に華を咲かせていた和やかな雰囲気から一転、星乃は俺から視線を外しながら重い口を開く。


「ここに来たってことは、もしかして結月くん……」


 星乃は俺と美玖がつき合っていたことを知っている。ただ社会人になってからは、高校卒業して成人式のあとの同窓会で会って以来だった。


「ああ、星乃の思ってる通りだよ。美玖に男の影があるから調べてほしくて、ここに来た」


 もう蓮と美玖との浮気の証拠はあがりにあがってて、覆しようがないのだが星乃にはないしょにしておく。もちろん配信してることもだ。


「うそっ! あんなに二人は仲よかったじゃない! 成人式のときだって、美玖は結月くんと結婚したいなぁ~なんて言ってたのに……」


「俺だって美玖のこと信じたいんだよ。だから星乃に依頼したい。美玖の心は俺から完全に離れてしまったのかってことをさ」

「ごめんなさい……。調査相手の肩を持つなんて探偵失格ね」


「いや構わないよ」

「結月くんは昔と変わらず、優しいね。ちょっと待ってて、浮気調査のプランと費用をまとめた案内を持ってくるから」


 そう言って星乃は立ち上がると衝立ついたての向こうにいってしまったのだが、なにか独り言ような小声が響いてきていた。


「美玖は私を裏切った。美玖は私の気持ちを踏みにじった。ずっと私は結月くんのこと……美玖は結月くんの告白を保留してたくせに、私が告白するって伝えたら、いつの間にか結月くんとつき合ってた……私は二人が幸せになるようにって、身を退いたのに酷い……」


 なにかドス黒いオーラが衝立の上へ立ちのぼっているような気がするのだが、はっきりとは聞き取れないでいた。


 数分も経たない内に戻ってきた星乃はずいっと俺に身を乗り出して提案してくる。


 近い近い近い!


 綺麗になった星乃の息づかいが聞こえてしまうほど顔を近づけて彼女は調査コースの案内用紙を指差しており、最も値段が高くほぼ確実に証拠が得られるまで“とことん調査“という欄を指差していた。


「こちらが私のおすすめよ」


 成果報酬30万円と割りと高額ではあったが、俺も徹底的にあぶり出してやりたいとの思いがあったので、星乃に頼んだ。


「それで頼む。いまここで払えばいいか?」


 俺が財布から30万円を即金で渡そうとすると、星乃は驚く。


「いまじゃなくていいから……それにお友だち価格で3万円でいいよ」

「いやいや、それじゃ足代にもならないって」


 いくら友だちでも十分の一で仕事させるわけにいかず星乃に俺は30万円を強く差し出したのだが、星乃は俺の手ごと札束を押し返していた。


「悪いって!」

「いいの、私の勝手だから!」

「だったら一割引きでいいよ。いまお金に困ってないから」

「ダーメ! 私が調べたいの!」


 俺と星乃は次第にヒートアップしてゆき、押したり返したりが激しくなってしまっていた。



 ――――きゃっ!



 一向に譲らない星乃に対して、俺は意地になってしまい強く押し返したときだった。星乃はバランスを崩して、とっさに俺の手首を掴んでソファーに倒れこむ。



 ぽよん♪



 当然俺も星乃に引きこまれ、二人して倒れたのだが顔がなにか柔らかいものに包まれてしまっていた。


 態勢を立て直そうと俺はその柔らかなものへ手をつくと……目の当たりにしたのは星乃の周りに散らばった札束。頬を赤く染めて、甘い声で訴えながら俺から恥ずかしそうに彼女は顔を背けた。


「あん! 結月くん……強く揉んじゃだめ……」

「わっ!? お、お、俺そんなつもりじゃ……」


 俺はというと星乃のおっぱいを言い逃れできないくらいに両手でわし掴みしてしまっている。


「ホントごめん! すぐ離れるから!」

「いいよ……結月くん。美玖に浮気されて寂しいんでしょ? だったら私が慰めてあげるから……」


 衝立の向こうには星乃に雇われた人たちがいるっていうのに、彼女は俺を求めるように潤んだ瞳で見つめてきていた。


 浮気調査を名目に美玖と蓮の写真と動画を手に入れようとお願いしようとしてきたのに、綺麗になった同級生と……なんて。


―――――――――――――――――――――――

なっ!? 消えてないだと!?

今日は運営から連絡がありませんでした……。ですがまったく安心できません。ぬか喜びすると遅れて連絡が来て、作品を削除されることもあります。ここ2、3日が山場だと思います。


とりあえず生き残ってる間はカクヨムで連載を頑張ります! 現状ではフォロー、ご評価してほしいというのはマジで心苦しい……。

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