第45話 新魔法の授業(3/4)

 

つどえ疾風しっぷうともほむら風威ふういを司りし静謐せいひつな風の精霊よ。強き火の精霊に加功かこうして我が敵を燼滅じんめつせよ。颶風烈火ぐふうれっか


 俺が放った炎が風の補助を受けて勢いを増し、強烈な火炎となって魔法訓練場に設置されていた不倒之的を焼き焦がした。


「お、おぉぉぉ! ユーマ先生、凄い!!」


 リエルが目を輝かせている。


 彼女は火属性魔法を使えるようになりたいと言っていた。ハーフエルフであるリエルは風魔法と相性が良いので、まずはこの魔法を教えることにしたんだ。


「これが風属性と火属性を錬成した中級攻撃魔法。颶風烈火だよ。詠唱は長くなっちゃうけど、上級攻撃魔法に匹敵する威力がある。さ、リエルも使ってみようか」


「えっと……。新魔法って、どうやって使えばいいんですか? 普通にユーマ先生を真似して詠唱したら使えます?」


「あ、そっか」


 特許実施許諾契約しなきゃ。


「まずは颶風烈火って言ってみて」


「はい。ぐ、颶風烈火──あっ! なにか出てきました」


 おそらくリエルの目の前には半透明のボードが浮かび上がり、こんなメッセージが表示されているだろう。




[特許実施許諾契約書]

第1条(定 義)

魔法名称:颶風烈火

特許番号:特許第0000085号


第2条(実施許諾)

甲(特許権者)は乙(本魔法の使用希望者)に対し、本件特許に基づいて本魔法を使用する通常実施権を許諾する。

ただし乙は第三者に再実施権を与える権利を有しない。


第3条(対価)

乙は甲に対し、第2条に基づく実施権許諾の対価を支払う。

本魔法を使用した場合、レベルアップした際に得られるステータスポイント(以下SPという)の5%を実施料とする。

ただし特許権者と複数の特許実施許諾契約を締結する場合は、別途定めるSP軽減の恩恵を受けられるものとする。


第4条(対価の不返還)

本契約に基づき乙から甲に支払われた対価は、いかなる事由による場合でも返還し

ない。


(中略)


第12条(不争義務)

乙が本魔法を利用して甲に危害を加えることはできない。乙がこの条項を無視して甲に攻撃を行った場合、甲は本契約を強制解除できる。

なお、本契約以外にも同一の特許権者と特許実施許諾契約が締結されていた場合、甲は全ての契約を強制解除できる。


(中略)


本契約締結の証として、乙は下記に記名する。


甲:九条 祐真

乙:「      」




 ちなみに甲、つまり特許権者である俺の氏名だけは元の世界の言語になっている。こっちの世界のヒトじゃ俺の名前を読むことはできない。これはクラスメイトたちと特許実施許諾契約を締結する時に確認した。


「内容を読んで、問題なさそうなら一番下に記名して」


 誰の所にステータスポイントが行くか分からないのに、この世界の人々はもう5万人以上が俺と契約を結んでくれている。おかげでSPがウハウハです。


 さ、リエルも俺にSPを分けてください!



「……甲は、きゅうじょう。くじょう、かな。名前は、ゆうまさん」


「えっ」


 おかしい。

 俺の名前は漢字で表記されてる。


 新魔法研究会の教員たちだって、それが何者かの名前であることまでは把握していたが読むことはできていなかった。


 なんでリエルさん読めちゃうんですか?


「これってもしかして、ユーマのこと?」


「いや、待って。なんで漢字が読めるの!?」


「言ってなかったけ? 私、エルフと異世界人のハーフなんだよ。異世界から来たお父さんに教えてもらったから、ユーマたちの世界の言葉が分かるの。やっぱりこれ、ユーマの名前なんだね!」

 

 俺の名前の漢字を知れて嬉しそうにするリエル。


 魔法訓練場の周りが騒がしくなった。


 俺が異世界人であること。そしてこの世界に新魔法を追加した人物であることが教員たちにバレた。でも少し騒がしくなる程度で、誰かが魔法訓練場の中に入って来て俺に詰め寄ってくるとかはなかった。


『もうバレてしまいましたね。まさかリエルさんが漢字を読めるとは……。盲点でした。そして祐真様、反応が分かりやすすぎです』


 完全にやったった。


 漢字が読めても祐真なんて名前は元の世界にはたくさんいるんだから、しらばっくれればよかったんだ。


 でもいきなりリエルが俺のことかと聞いてきたので、反応してしまった。


 

「私が颶風烈火を使って魔物を倒してレベルアップしたら、ユーマの所にSPが入るってことだよね?」


「……うん。そーゆーこと」


「じゃあ、ユーマはもっと強くなっちゃうね」


 そう言いながらリエルが契約書にサインしてくれた。


「特許権者が知り合いの俺なんだから、タダで魔法使わせろとかって思わない?」


「えっ。使わせてくれるの?」


 正直、もう十分すぎるほどのSPは溜まっていた。


 友達になったリエルからもSPをとるなんて申し訳ない気もする。


「あはは。冗談ですよ、ユーマ先生」


 彼女にしても衝撃的な情報だったようで、しばらく俺のことを先生と呼ぶことを忘れていたみたい。それが元に戻った。


「ユーマ先生も異世界人ってことは、魔王からこの世界を守るために来てくれた勇者様なんですよね? そんな御方の力になれるなら、私はこの魔法を使っていっぱいレベルアップします!」


 ほんと良い子だなぁ。


 よし。颶風烈火を最高の威力にできるよう、俺が設定したイメージなども余すことなく彼女に伝えてあげよう。


 俺がリエルを最強の“颶風烈火使い”にしてあげる。

 

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