第38話 上級生との決闘

 

 魔法訓練場までやって来た。


 何人かの生徒たちが魔法を使う自主訓練をしていたようだが、3年の男子学生が怒鳴り散らすと中にいた全員が慌てて外に出て行った。


「さぁ、やろーぜ」


「早く来いよ」


「俺らを舐めたこと、後悔させてやる」


 俺は全く貴方たちを舐めたりしてませんが……。


 でもリエルがキスしてくれるって言うから、絶対に勝たなきゃ。



「ユーマ。頑張って! ここならどんな強い魔法使っても死ぬことはないみたいだから、全力でやっちゃって」


「リエルさんはどうして、ユーマさんが彼らに勝てると信じられるのですか?」


「フリストも言ってたけど、3年の特進クラスって凄く強いんだよ」


 アルメリアとミーナがリエルに話しかける。


「だってユーマはひとりで何体もオーク倒しちゃうんだもん。そんな魔法使いが、学生に負けるわけなくない?」


 これを聞いてフリストが慌てていた。


「オークぐらい、この学園の3年生なら余裕で倒せるんだ」


「……え」


「もしかしてリエル、知らなかった?」


 彼女は無言で頷いていた。


 そして涙を目に溜めながら俺のところまで走ってきた。


「ご、ごめんユーマ。わたし、勘違いしてた」


 美少女に泣いて謝られたら、許さないって選択肢はないかな。


「ユーマは戦わなくていい。私があの人たちとお茶すれば良いから。それで許してもらう。私、謝ってくる」


「大丈夫だよ、リエル。俺は負けないから」



「いつまでやってんだ!? さっさとこい!!」


「はーい。すぐに行きまーす」


 買ったばかりのハンカチを取り出してリエルの涙を拭う。


「俺が勝ったら、さっきの約束の件。よろしくね」


「約束って。キ、キスのこと?」


「そう。約束だからね!」


 それだけ言って訓練場の中心に向かった。



「おせーぞ。今さら怖気づいたか?」


「良く逃げなかったな。それは褒めてやる」


「女の前じゃ、強がるしかねーもんな」


 改めて見ると、この人たち普通に強そうだ。


 しかも俺は喧嘩なんてしたことが無い。

 どうしようかな……。


 困った時は、アイリスさん!


『なんでしょう?』


 この人たちをやっつけたいんだけど、どの魔法を使えば怪我させずに倒せるかな。魔力量の調整もお任せしていい?


『承知致しました。全てこの私にお任せください』


 おぉ、やっぱり頼りになるぅ!!


『保有する全魔力を解放します。フル詠唱の天地晦冥てんちかんめいにて、この場所を更地にしてください』


 おーけい!

 フル詠唱の天地晦冥だね!!



 ──って、そんなんできるわけないでしょ!!


 なんでこんな時にふざけてんの!?


『この愚か者たちに勝ってしまいますと、あの小娘が祐真様にキスする口実を与えてしまいます。そこで私は考えました。全て消し去ってしまえば、約束なんてなかったことになると』


 それって俺も攻撃範囲に入るだろ。


『お忘れですか? 自身の魔法でダメージを負うことはありません』


 あ、そっか!

 って、そうじゃない!


 ここで天地晦冥は、絶対にダメだって!!

 


 俺が脳内で必死にアイリスに突っ込んでいると、ボーっとしているように見える俺に対して先輩たちは痺れを切らしたようだ。


「強き火の精霊よ、火炎渦巻く暴風にて、我が敵を蹂躙せよ──」


 炎の壁が俺の目の前に立ち上がった。


「命乞いしても、もう遅いぞ」


「死にはしないんだ。死にたくなるほど熱いけどな」


 炎の壁の向こうから3年生たちの声が聞こえる。


 俺はまだ使う魔法を悩んでいた。



「これで終わりだ。火炎裂風!」


 炎の壁が迫ってくる。

 避けることは不可能だ。


 俺はそのまま炎にのまれた。



「あっつ、くはないな」


 熱さは微塵も感じず、俺は炎の壁を素通りした。



「……は?」

「えっ」

「な、なんで!?」


 唖然とした表情の先輩たちがいる。


 俺は魔法を発動していない。

 ただ立っていただけ。


『いえ、祐真様は魔法を発動していますよ』


 あれ、そうだっけ?


 ……あ、そうか。

 冥府之鎧を使ってた。


 それは俺の最大魔力量の半分を物理防御と魔法防御に補正してくれる。魔王が放った天地晦冥から俺を守った常時発動型の防御力強化魔法だ。


 オークを倒せると言っても、学生の魔法じゃ俺は倒せないってことだな。


 ここで俺は良いことを思いついた。



「俺は何もしません。ここにずっと立っています。どんな魔法でも大丈夫です。俺を攻撃し続けてください」


「はぁ!?」

「てめぇ、何言ってやがる」

「ふざけんなよ!」


 俺が勝たなくて良い。

 負けなければいいんだ。


 そうすればリエルがこの先輩たちとお茶する必要は無くなる。俺が彼女にキスしてもらえなくなるけど……。アイリスの機嫌を損ねちゃうよりはマシだな。



「ふざけてなんていません。俺は貴方たちの魔法を全て耐えてみせます。もしあなたたちが魔力切れになったら、それで終わりにしてくださいね」


「……面白れぇ。やってやんよ」

「さっきのが全力だと思うな!」

「いくぞ! 火属性上級攻撃魔法だ!!」


 その後、3年生たちは俺に向かって魔法を放ち続けた。

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