第16話 ライセンス交渉と御褒美


「──なっ、なんじゃそりゃ!!」


「おいおいおいユーマ! お前、何やってんの!?」


「お前の魔攻って、確か60とかだろ? それでこの威力の魔法はおかしくね?」


 田中とキムは驚いて目を見開いていた。他のクラスメイトたちも多くがそんな感じの反応だった。一方、ダッサンは冷静に質問してきた。


「よく覚えてるね。俺はステータス上げてないから、まだ魔攻は60のまんまだよ。今使ったのはスキル【特許権】で、俺が権利化できた魔法を1回だけ使えるって特典を利用して発動させた」


「ユーマ。そんな貴重な魔法を、俺たちに見せるだけに使って良かったの? もっとこう、魔物の群れに向かって撃つとかすればレベルアップもできただろ」


 勇者のみなとも冷静だった。


「この特典で撃てるのって、魔法を権利化してから1日以内って制限があるんだ。とりあえず俺は皆に魔法を見てほしかった。だから問題はないよ」


 さて、ここまでは良い感じ。


 みんな俺の魔法を見て驚いてくれた。


 ここから交渉タイムだ。


「今俺が使った魔法、魔攻が10,000必要なんだけど、威力は絶大。今後みんなの冒険の役に立つと思う」


「魔攻10,000か……」

「ちょっと私には無理かな」

「お、俺も」


 むむ、やっぱりこれは強すぎたかも。


「さっき使った闇の最上位魔法“天地晦冥”以外にも、俺は100個の魔法を新しくこの世界で使えるようにした。ここにリストがあるから、みんなで見てほしい」


 頑張って手書きでリスト化した魔法集をクラスメイトたちに配る。



「俺らは戦士職だから、魔法のリストは要らないぞ」


 戦士系職業になった男子グループには受け取ってもらえなかった。


「大丈夫、物理職も強くなれる魔法をたくさん用意した。まぁ、見るだけ見てよ」


 無理やりリストを渡す。


「そう言ってもなーって、えっ? この身体強化魔法、足だけ強化とかできるの!? それで必要魔力が半分って、けっこう良いじゃん」


「こっちは剣に属性を付与できるって! 魔法剣、使ってみたかったんだよ」


「体力持続回復魔法って、何気に最強じゃね? 俺はコレほしい」


 良かった。

 物理職にも受け入れてもらえた。


「……ふむ。俺の魔攻は今7,000だから、あと20レベル上がれば使えるようになるのか。よし、ユーマ。俺はさっきの魔法を使いたい。どうすれば良い?」


 湊がそう言ってきた。


 コイツ、もう魔攻が7,000まで上がってるのか。


 勇者って強すぎんだろ。


 でもまぁ、良いか。

 湊だしな。


「使いたい魔法があれば俺に教えて。俺と特許実施許諾契約を締結してくれたら、魔法を使えるようになるよ」


「特許実施許諾契約?」

「どんな契約なの?」


「俺が特許を取得した魔法をみんなが使って、それで魔物を倒してレベルアップしたとする。そのレベルアップの時にもらえるステータスポイントの5%を俺に譲渡してもらうことになる」


「5%っていうと、俺らがレベル1上がってもらえるステータスポイントは10だから、0.5ポイントがユーマにいくってことか」


「うん。そういうこと」


 どうだろう、受け入れてもらえるだろうか?


 ちょっとドキドキしている。


「えっ、そんだけ?」


「あんなに強い魔法を使えるようになるのに、たった5%で良いの?」

 

「もっととれよ。俺はこの体力持続回復魔法が使えるなら2SPあげるぞ」


 こいつら、ゲームしないのか?

 5%の重要さを分かってない。


 そうじゃないなら、お人よしすぎるだろ。


「みんなに使ってもらえれば、5%でも十分俺は成長できる。だから俺は問題ないよ。それからひとつの魔法を契約したら譲渡してもらうステータスポイントは5%だけど、ふたつなら合計で9%。3個なら12%って感じで、1個の魔法あたりのSP割合を軽減してあげる」


 これはアイリスと相談して決定したこと。


「それじゃ5個以上契約した時、15%より増えないんじゃない?」


「一度に契約できる魔法の数は5個にしてる。それぞれの戦闘職におススメの魔法がリストにまとめてあるでしょ? だいたい各職7から8個魔法がある。その中から最大5個選んでもらう感じかな」


「なんで最大5個なの? もっとたくさん魔法使いたいんだけど」


「魔法って、基本的には詠唱した方が強くなる。でもたくさん魔法を使えるってなると、覚えなきゃいけない詠唱も増えて、いざという時に魔法を発動させられないことがあるかもしれない。使い慣れた自分の得意魔法をそれぞれ持った方が良いと思って、こういう制度にさせてもらった」


 アイリスにアドバイスされたことをそのまま言っただけ。


 クラスメイトは32人もいるのだから、相性が悪い敵が出て来ても誰か別の人が対処できるようになる。ひとりで100個使おうとする方が問題になりそうだ。


 ゲームでも使える魔法の数には限りがある。100個の魔法が使えるゲームってのは俺はまだプレイしたことがない。


 どうしても途中で別の魔法が良いってなれば、俺に申請してもらえば切り替えもできるようにする。


 ちなみに特許権者である俺は、100個全部使うけどな。



「契約してても、俺の魔法を使わなきゃステータスポイントは奪われないから。いざという時、みんなを助けられる魔法を考えたつもり。だから使わなくても良いから、出来れば全員が俺と契約してくれると嬉しい」


「いや、普通に使うよ」

「うん。契約よろしく」

「俺も俺も!」

「私も契約する」

「私はこの水属性魔法使いたい!」


「みんな、ありがと!!」


 良かった。

 みんなに受け入れてもらえた。


「てかこのリスト凄いな」

「もしかして、ユーマの手書き?」


「そうだよ」


「えっ、コレ全部!?」

「マジ?」


 詠唱の登録を終えた後、クラスメイトたちに渡すための魔法リストを徹夜で作るっていうデスマーチを決行した。死ぬかと思うほど大変だった。でも──


「各職業に推奨の魔法も分かりやすいし、凄いリストだよ。他の人が使う魔法も覚えておいた方が良いから、これは永久保存決定!」


「魔法の属性が分かるようにアイコンが描かれてるのポイント高いよ」


「センスあるねぇ」


 女子たちが俺の努力の結晶を褒めてくれて嬉しかった。


 中でも一番は彼女。


「ユーマ君、私たちのために頑張ってくれたんだね。ありがと。お疲れ様」


 唯奈さんに労ってもらえたから、俺は頑張った甲斐があると思うんだ。


 貴女のありがとっていう言葉が、何よりの報酬です。

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