第9話 魔人襲来


 特許登録できた魔法が20件を超えたので、再び女神様の結界の外まで空撃ちしにやって来た。最初に雷哮を放ったのと同じ場所。


 ここなら遠くまで見渡せるから、誰かに魔法を当ててしまう可能性はない。


「さて、何からやろうかな」


 色んな魔法を登録してみた。

 どれから試すか悩ましい。

 

 高威力のだけじゃなく、初級魔法の効率を上げた魔法や身体強化系、回復系、敵の能力を低下させるデバフ系など幅広く権利化している。


 クラスメイトたちが俺に食料などを届けるため、一度帰って来てくれると言った日まであと2日。それまでに40個は魔法を登録しておきたい。


 結局、魔物を倒しに行くのは諦めた。


 スキルに極振りすることに決めたので、俺の雑魚ステータスのままでは危険だと判断したんだ。


 クラスのみんなが帰ってきたら、俺のスキルで新しい魔法を使えるようにしたと自慢するつもり。俺のスキルが役に立つと分かってもらえれば、魔王討伐の旅に連れて行ってくれるはず!


 そうなると信じている。

 だから俺は頑張れる。



「アイリス。周囲にヒトはいないよね?」


『はい、大丈夫です』


 問題なさそうなのでさっそくやろう。


 まずは汎用性が高いステータス向上系の魔法から。



御前上等ごぜんじょうとうたる精霊よ、龍脈より溢流いつりゅうする魔力をかてとし、御身おんみまとわれに加護を与えよ。精霊魔装!」



 無事に魔法が発動し、俺の身体を強力なオーラが包んだ。


 とても身体が軽い。


 今ならなんだってできそうに感じる。


 やった、大成功だ!


 俺が最初に特許登録特典で発動させたのは、中級身体強化魔法の進化版。使用者本人の魔力だけでなく、龍脈と精霊の力を借りて発動する魔法だ。ちなみに龍脈というのは、この世界の大地を流れる膨大な魔力のこと。



 よし、この調子で行こう。


 次は魔法詠唱を短縮するためのバフ系魔法。あらかじめ魔法を使う予定の精霊に頼み込んでおくことで、詠唱を短くするけど威力はあまり落とさないでねってお願いするための魔法だ。



「強く偉大な精霊たちよ、かしこかしこ懇願こんがんす。僭越至極せんえつしごくなれど、我が遺漏いろうゆるし、難敵に才幹さいかんたまえ」



 魔法名は無い。詠唱自体が上級魔法であり、この魔法だけはどの文節も絶対に省略できない。可能な限り短縮できるように色々試して、この文量になった。


 戦闘前にこれを詠唱しておくことで、最上級魔法を除く全ての魔法を詠唱破棄で発動可能になる。加えて、詠唱破棄しても2割程度しか魔法の威力が低下しない。


 ソロで戦う魔法使いには必須の魔法だ。


 魔法詠唱を一部間違えたりしても発動が可能になるという副次効果もある。



 もう1個、戦闘時を見越してバフ系を入れておこうかな。


 次に使う魔法は、詠唱破棄の魔法を使用中でも詠唱が省略できない。ちょっと特殊な、命に保険をかける魔法。



「偉大なる光の精霊よ、御身おんみに我が心魂しんこんを信託す。不虞ふぐあれば、自律を是認ぜにんするゆえ、我を救済し賜え。時限式自己蘇生術!」



 この魔法は一度発動させると、俺の魔力が0にならない限りいつまでも永続する。


 つまり俺は一度だけ死んでも蘇れるってこと。


 死んだことはないけど、多分ものすごく痛いんだろうから絶対に死にたくはない。


 でもここは何が起こるか分からない異世界だ。できればクラスメイト全員にこの魔法を使って欲しい。


「この魔法だけ、特許実施許諾契約なしで使ってもらうとかできないかな?」


『可能ですよ。“解放特許” にすればよいのです。解放と言っても権利の放棄ではないので、祐真様が望まない第三者の利用を制限することも可能です』


 おぉ。マジっすか。


「そういうのも可能なんだ! じゃあこの魔法は解放特許にしようかな」


『ステータスポイントを10も消費して特許登録した魔法ですのに……。祐真様は、お優しいですね』


「そうかな? でもこれ以外の魔法じゃ、ちゃんと利益の一部を貰うからね」


 俺はクラス全員で生きて元の世界に帰りたい。


 それが叶うなら、10ポイントとか安いもんでしょ。



「さて、次はどの魔法を発動しようか──」


 何かが空から降ってきた。


 落下の衝撃で土埃が巻き上がる。


「な、なに? なんなの!?」


 もしかしたらクラスメイトの誰かが飛んで戻ってきたのかと思った。


 しかしそうじゃなかった。



 土煙が消え、視界が晴れる。


 頭部に黒く大きな角を生やした男が、俺の前に立っていた。


 

『ゆ、祐真様。お気をつけください。こいつは、です』


 これまで聞いたことのない、緊迫したアイリスの声が俺の頭に響いた。

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