第6話 レベルアップ


『ところで、特許権利化特典の魔法試用は実行なさいますか?』


「あっ、そうだった。忘れてた」


 必要魔攻8,000の魔法を一度だけ放てるらしい。


「ちなみにそれって使わずにとっておくことはできないの? ほら、いざという時に使ったりしたいんだよね」


『そうした利用方法はできません。特許査定後、1日以内に使用しなければその特典は自動消滅してしまいます』


 1日か……。


 せっかく最強の魔法を放てるなら、強い魔物に向かって放ちたい。そうすればレベルアップできるかもしれないから。ただ1日でそんなに強い魔物と遭遇できるか分からないし、何より俺は今ひとりなんだ。


 ステータスがとても低い魔法使いが詠唱の長い魔法を使って単独で魔物を狩ろうなど、自殺行為も良いとこだろう。


 クラスメイトたちの所在が分からないから、レベル上げに付き合ってもらうこともできない。


「せっかくだから、“空撃からうち” しようかな」


 ゲーム内で魔法の威力や効果範囲を確かめるため、魔物をターゲットにせず何もない空間に魔法を放つことを空撃ちという。


「どこか安全に雷哮を撃てる場所はある?」


『はい、ご案内しますね』


 ガイドラインのアイリスに案内してもらい、俺は古城の結界の外に出た。古城は薄暗い森に囲われていて、いかにも魔物が出そう。


 なるべく女神様の結界から離れないように、アイリスの指示通り歩いて行った。



 少しして目的の場所に着いたようだ。


『こちらから、祐真様の前方にある大木に向かって放てば大丈夫です』


 大木って、遠くに見えるあれかな?


「りょーかい!」


 魔法を放つため、右手を空に向けて掲げた。


 俺の考案した雷哮は、空の雷雲より強力な稲妻を召喚し、使用者の前方にいる敵群を消滅させる魔法だ。


 この魔法をかっこよく発動させるには、全部一気に詠唱するのではなく、魔法名を言う前に溜めを作った方が良い。俺の想定通りに魔法が発動すれば、その段階で俺の身体に雷が落ちてきて帯電する。その後、魔法名を叫びながら手を前方に向けることで魔法が放たれる。


 あれ、てことはもしかして俺、一度雷に打たれるのか?


 考案者は俺なのだが、今更この魔法の欠点に気付いた。


 だ、大丈夫だよね? この世界って、自分の魔法ではダメージを負わないシステムだよね? 


 俺が遊んでいたゲームでは3パターンあった。


①自分の魔法でもダメージを受ける

②自分の魔法ではダメージを受けない

③仲間の使った魔法でもダメージを受けない


 ③番が一番親切なシステム。ゲームだとこれが多かった。FPSとかだと仲間の弾ではダメージを喰らわないけど、自分が投げた手りゅう弾ではダメージを受けるってやつもある。


 この世界は、どのパターンだ?


 自分の魔法を発動させる段階で死ぬとか冗談じゃない。


 ただ、何とかなる気はしている。火炎弾を放つとき、熱さは感じないからだ。その火炎弾が着弾して燃えた物体はしっかり熱いので、魔法は放つまで使用者にダメージを与えることはないと考えられる。


 そう考えていても、かなり不安だ。


 もしひとりで魔法を使って、ダメージを受けたら?


 そもそも必要魔攻8,000の魔法なんだから、何かミスれば魔防30の俺なんか一瞬で消し炭になる可能性だってある。


 どうしよう……。


『もしや、ご自身が放つ魔法でダメージを負うとお考えですか?』


 俺が魔法を放つのを躊躇っているのを気付いたのか、アイリスが声をかけてくれた。それでようやく気付く。俺には彼女がいる。


 悩んでないで、アイリスに聞けば良いんだ。


「うん。もしダメージ受けたら、俺死んじゃうよね」


『確かに祐真様の魔法防御力では、存在の残渣すらなく消滅するでしょうね』


 言い方!

 もうちょっと優しくして!


『ですがご安心ください。自分の放つ魔法でダメージを負うことはありません。ただし魔法が発動した結果で森が燃えれば、その火や熱で祐真様がダメージを負うことはあり得ます』


「やっぱりそうなんだ」


『はい。ですので魔法を放った後は、すぐに女神様が展開してくださっている結界内に戻ることを推奨します』


「りょーかいっす! アイリス、アドバイスありがと」


『恐れ入ります』


 大丈夫だって分かったので、早速やってみよう。


 改めて空に右手を掲げる。



「静寂破りて雷鳴響く、開闢かいびゃくより幾星霜いくせいそう天楼てんろうに雷を蓄積せし巍然ぎぜんたる大精霊よ」


 周囲が暗くなる。

 空に暗雲が低く立ち込めた。



「我の敵を塵芥ちりあくたのひとつも残さず殲滅せよ──」


 空から俺目掛けて雷が落ちてくる。


 すごい、痛くない。

 とてつもないパワーを感じる。


 これを今から俺が放つ。



雷哮らいこう!!」


 手を前方に向けると、俺の身体から右手を通って膨大なエネルギーが流れていくのが分かった。


 ──刹那。


 爆音で何も聞こえず、閃光で何も見えなくなった。


 自分の魔法じゃなかったら、鼓膜が破れて目は失明してたんじゃないかって思うぐらいヤバかった。



 少しして、視界が晴れた。



「…………わーお。これはすごい」


 森が大きく抉れている。


 前方に見えていた大木どころか、その向こうにあった山まで大きく消滅していた。


 俺が考案した魔法の通りの効果なのだが、実際に威力を目の当たりにすると驚きを隠せない。こんな魔法を使わないと倒せない敵って、この世界にいるのかな?



「ん? なんだ、これ?」


 俺の身体が輝きだした。

 ぽわぽわして、なんだか心地よい。



『祐真様、おめでとうございます。Bランクの魔物であるキンググリズリーや黒狼など、合計158体の魔物を討伐出来ましたので、レベルが32まで上昇ました』



 ……はい?


 えっと、どういうこと?

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る