第7話

 俺は店外にて、商品のお会計をしている結茜さんを待っていた。


 それにしても俺が選んだ服を、結茜さんが気に入ってくれてよかった…。女性に服を選ぶ経験が無かったから、正直ホッとしていた。


「お待たせ〜!」


 数分後。結茜さんが両手に二つの袋を持って、俺の元に戻ってきた。


「そんなに服を買うなら、俺の選んだのを買わなくてもよかったんだよ?」

「私から提案しているのに、買わないという選択肢はないからね。それに一生懸命選んでくれたし」


 そう言われて、俺は何だか嬉しくなった。

 なので、俺は結茜さんが持つ袋の内、一つの袋の持ち手に手を掛けた。すると———


「……っえ?!」


 と、結茜さんは驚いた表情をしてきた。


「二つもあると歩くの大変でしょ? だから俺が一つ袋を持つよ」

「あ…ありがとう」

「それで次はどこに向かうの?」

「このビルの三階にあるガチャポンのデパートで、美少女戦士のガチャを回したいんだよね」

「俺も回したいと思っていたガチャだし、どっちが推しキャラを引けるか一発勝負でもするか?」


 一発勝負だから推しキャラが当たらない可能性が高いのは事実だ。だけど普通にガチャをしても面白くないから勝負くらいはしてもいいよね。


「いいね!その勝負で勝つのは私だから、罰ゲームは無しにしてあげるね」


 余裕の笑みを向けてきた。


「そうだな。今回は楽しいお出掛けにしたいし、罰ゲームは無しにしよう。勝つのは俺だけど」

「絶対に負けないよ!!」


 頬を膨らませながら、ガッツポーズをしてきた。


「俺だって!!」


 俺は仕返しに余裕の笑みを向けた。


「「ふっ…ふふふ」」


 俺たちは顔を見合わせ、そして微笑した。


「それじゃあ、ガチャポンのデパートに行こうか」

「そうだな」


 俺たちは近くのエスカレーターまで移動して、三階へと向かった。


 三階に着くと目の前には大きな空間が広がっており、看板にはガチャポンのデパートと書かれていた。後ろに視線を向けるとレストラン街でもあるので、沢山のお店が並んでおり、既に並んでいる人がみうけられる。

 

 そのまま真っ直ぐ進み、左側を向くと数多のガチャガチャが奥まで広がって配置されていた。


「ここの中から見つけるの大変そう〜」

「でも上の方に【バラエティ】って文字のコーナーが書いてあるから【NEW】って書いてあるコーナーを探せば見つかるんじゃない?」

「確かに!そしたら、すぐに見つかりそうだね!」

「ここらへんは戦隊や小物類だから、もう少し奥に移動してみようか」

「うん!」


 少し歩くと【ニュー】という文字を見つけた。英語の【NEW】を想像していたので、カタカナだったことに少し苦笑してしまった。


 そして俺たちは【NEW】の場所で一つずつ箱を確認していき、ついに目的のガチャを見つけた。


「結茜さん、ガチャ見つけたよ」

「ほんとだ!中身は…大分減っているね」


 俺も横からカプセル内を確認すると、満杯を10としたら、いまは4くらいだった。


 なかなか渋い結果になりそうな予感。


「早速、ガチャを引きますか。 それで先行後行はどうする?」

「普通にじゃんけんでいいんじゃない?」

「じゃんけん…か」


 あまり気乗りしないような言い方をしているけど、そんなにじゃんけんが嫌いなのかな?


「じゃんけんで決めるのが嫌なら、先に結茜さんが引いてもいいけど?」

「嫌という訳ではないんだよ。ただ、いつもじゃんけんで決める時は大体負けていたから」

「なるほど。なら、結茜さんから引いていいよ」


 実際、俺は先行後行どっちでもよかった。

 だけど理由を聞いたら、先に結茜さんに譲ってもいいやと思ってしまった。そう、これはレディーファーストということだ。


「本当にいいの? 雪翔くんの推しが当たっても恨んでこない?」

「逆に俺が結茜さんの推しを当てたら交換しようか。それにじゃんけんをする時点で時の運だから、恨む必要もないぞ」

「そ、そうだよね! それじゃあ、お言葉に甘えて先に引かせてもらうね!」


 結茜さんはガチャにコインを投入し、二回ハンドルを回した。そして取り出し口から赤色のカプセルを取り出して、カプセルを開けると獅子座の美少女戦士が現れた。


「獅子座…か。水瓶座の戦士が欲しかったー!!」


 結茜さんは推しが当てられず嘆いているが、その獅子座の美少女戦士は俺の推しなんですけど!!


「結茜さん!!約束通り、俺が結茜さんの推しを当てたら交換してください!!」

「もしかして、雪翔くんの推しは獅子座なの?」


 俺は激しく頷いた。


「分かった。もし推しを当ててくれたら交換してあげるけど、出なかったら交換しないからね?」

「それでいいよ。絶対に俺は結茜さんの推しである水瓶座の美少女戦士を当てるから」


 俺はコインを投入し、念を込めながらハンドルを回した。そして取り出し口から青色のカプセルを取り出し、カプセルを開けると水瓶座の美少女戦士が現れた。


 まあカプセルを取り出した時点で確定演出ではあったんだけどね。先程の獅子座のイメージカラーは赤。つまり赤色のカプセルに入っていた。そして水瓶座のイメージカラーは青。今取り出した青色のカプセルだ。それ以外の残りは黄色やピンクだしね。


「結茜さん、水瓶座の美少女戦士を当てたので、獅子座の美少女戦士と交換してください」

「もちろん!約束通り当ててくれたから、交換してあげるよ!」


 俺は水瓶座の戦士を結茜さんに渡し、結茜さんから獅子座の戦士を俺は受け取った。


「でも一発勝負でここまで上手くいくとは、正直びっくりしたよ」

「俺も驚いたけど、結茜さんと引いて良かったと思っているよ。結茜さんと引かなかったら、お互いに交換することも出来なかったしね」


 いつも一人でガチャを引いて、推しが出なくて泣く泣く諦めて帰っていてから、偶には友達と回しに行くのも悪くないな。

 まあ、その友達がいないのが問題なんだけどね。


「そんなに褒めても何も出ないからね!!」

「対価を求める為に褒めてはいませんからね? これは俺の本心なんですから」

「(雪翔くんは無意識に言うけど、女性からしたらかなり嬉しい言葉なんだよ)」

「何か言いましたか?」

「何も言っていないから!それより、お昼だからレストランに並びに行こ!」

「確かに既に並んでいたから、そろそろ並びに行った方がいいね」


 結茜さんの聞き取れなかった言葉は少し気になるけど、俺たちはレストラン街に向けて歩き出した。


 

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