第2話:プロローグ2

配信を終えてゲーミングチェアを離れた瑠夏は、台所にある大型冷蔵庫の扉を開け、中から紙パックの百%みかん果汁を取り出し、グラスに注ぎ、一気に飲み干した。


「今日の配信も当たり前のように収益ゼロだ。やっぱり何のコネも実力もない素人が手を出すことに無理があったのかなぁ。」


(もともと自分に配信者がやれるとは思ってなかったし、一桁でも固定視聴者がついてくれたことが奇跡なのかも)


そんなことを考えながら、瑠夏は玄関横の宅配ボックスの取り出し扉を開け、中から配信中に届いたウンバーイーツの夕食を取り出した。ここの宅配ボックスは部屋の入口横に取り付けられており、かなり大きなものでも配達可能となっていた。


「おっ!まだ少し温かいじゃん。これならチンしなくて良いかも。」


瑠夏は届けられた袋から天津炒飯と五個入り焼売を取り出し、冷蔵庫から五百ミリペットボトルのセロコーラを持って部屋へと戻り卓上に並べて、目の前にある五十インチの少し大型のテレビのスイッチをいれた。


いつものキャスターが今日のニュースをさも当たり前のように上から目線で語っていたので、瑠夏は即座にチャンネルをバラエティー番組へと変更した。


(昔はこいつらの言うことを当たり前のように受け入れていたけど、言ってることは自分達の都合の良いように編集した現実擬きが混ざってるし、スポンサーへの利益誘導が半端なくウザいからな。やってることは、他人の私生活を食い物にする寄生虫と同じだよね)


そんなことを考えながら、いつもと変わらない食事を口にし、左手ではスマホの画面を操作して、無いであろう評価をエゴサし、全く代わり映えのしない画面にため息をつくと、瑠夏はスマホから手を離した。


その後、いつものようにお風呂に入り、一週間分の生鮮食品や牛乳やハム、幾つかの保存食品や冷凍食品をアムソンフレッシュで注文してからベットへと移動し、勉強の為と自分に言い訳しながらネットの世界を徘徊していると、いつの間にか就寝していた。


そんな毎日がこの頃の瑠夏の日常だった。


東京へ転居してきてから既に一年近くが経過しており、瑠夏は十六歳になっていたが、部屋を出たのは転居してきたばかりの頃に、手続きのために区役所を訪れた他には、ゴミ出しの為に同じフロアにあるゴミステーションに貯まったゴミを棄てに行くくらいで、そのゴミ出しも人目を避けるために早朝の四時くらいに行っていた。


その日も、いつもと同じような時間が過ぎていくと思われたが、誰も起きていない静まり返った部屋の中で、いつもと少しだけ違うことが生じた。


瑠夏が寝入ってから二時間程がすぎた午前三時頃に、部屋の中に蛍のように仄かな灯りがポツンと生まれた。


それは部屋の中をフラフラと揺蕩(たゆた)い、ベッドで眠る瑠夏を見つけると、まるで目的の者を見つけたかのように、引き付けられるかのように彼の頭上へと移動して、暫くの間、躊躇うように、惜しむように浮遊していたかと思うと、突然二つに分離した。


そのうちの一つは吸い込まれるように、すぅっと寝ている瑠夏の頭の中へと消えていき、少し小さくなった残りの一つの灯りは、自分の役割を果たすかのようにスイっと玄関の扉の方へと流れ、玄関の扉に吸い込まれた。


そして、その灯りが扉へと吸収されたと同時に、誰が見ても驚くであろう、あり得ない光景が広がった。


何の変哲もなかった扉とその隣にあった宅配ボックスが、暫くのあいだ目映いばかりの虹色に輝き、その本質を作り変え終わるやいなや、その光はまるで扉に染み込むように消えていったのだった。


そして、その一連の現象が起こった後の瑠夏の部屋は、誰に気づかれることもなく、いつもの何の代わり映えもしない、ただの一人暮らし用のマンションの一室に戻っていった。

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