第28話 俺のチャンネル超成長


『はいどうもー。リコドラチャンネル輝竜リコです。今日は50階層の迷宮を攻略していこうと思います。今日からは専属契約の〈仮面の探索者さん〉に護衛してもらいます』


 俺は鬼仮面がズレないようにしっかり固定し、カメラに写る。


『護衛の鬼仮面です』

『はい!ぉーに仮面に来て貰いましたぁ~! ぱちぱちぱちぃ! さっそく〈ぉーに仮面〉の実力を見せてもらいましょう。迷宮行ってきます!』


 50階層の迷宮〈紫鉱山の遺跡〉に踏み込む。


 俺たちはいきなりデスベアーに遭遇した。


『ガルルルルグユウウ!』

「いきなりデスベアーです! 熊と会ったら人間は即死なんですけどね。迷宮探索者でもB級でやっと渡り合えるくらいですからね」


『ガッゴグルウゥゥ!』


 リコは冷や汗を浮かべながらも解説を続ける。

 こいつ、やっぱり根性すわってやがるな。


「デスベアーは殺戮衝動に見舞われています。普通の熊さんなら、まあ殺しちゃうんもは可愛そうなんですけどね。マナに浸された動物はこのように凶暴化してしまいます。不憫なんですが撃破をしないと、迷宮の外側の〈普通の生態系〉にも悪影響ですからね。ちゃんと駆除するのも迷宮探索者の役目なんですよね」


 俺はリビング・ハチェットを成長させる。


『ギャルルルグルル!』

『ガグゴルルゴルル!』


 デスベアーの呻きと生きた巨大な鉈リビングハチェットがぶつかり合う。

 ハチェットがひうんひうんひうん、と疾り、デスベアーをどぼぉ! と切り裂いた。

 ひうんひうんひうんひうんっ

 ひうんひうんひうんひうん!


 どんっ!!

 どぼぉ!!


 デスベアーが心臓を貫かれて即死した。

 リビングハチェットが強すぎるから、俺の出る幕ないなあ。


「あー! 瞬殺してしまいました! さすが鬼仮面ですねえ!」


 俺は仮面をつけたまま、無言で会釈をした。

 リコドラチャンネルのコメント欄は相変わらず盛況だったが、いつもと様子が違った。

 俺は立体光学映像に映し出されるコメントを追っていく。


『鬼仮面強すぎる』

『いや例のおっさんだろ』


『顔出ししないの?』

『裏方に徹したなら謙虚』

『強さの秘密を解説頼む』


 俺はごうんごうんごうんごうん、と鉈とハンマーを振り61体の迷宮魔獣を撃破、50階層の迷宮を踏破した。


 リコがカメラの向こうでキメ顔をする。


『鬼仮面のおかげで迷宮を踏破できましたぁ! そして自然の生態系も守られましたぁ! しばらくはデスベアーに怯えないで生活してください!』


 撮影に徹していた妖精メルルもカメラにうつりピースをした。


「うぇーい! うぇい! うぇうぇーい!」


 どこからか妖精用のグラサンを取り出し、パリピじみたダンスを始めていた。


『妖精いる!』

『リコちんマスコットまでいるのか』


『ガチ妖精?』

『ホログラム乙』


『にしてはぬるぬるしている』

『リコちんは妖精の祝福も受けてるのか』


 これに関しては若干裁定が面倒だ。ユユニ水晶で契約したのは、リコとメルルだが、メルルが媒介したのは俺のスマホだ。


「いうなれば、僕はふたりの子供、愛の結晶!」

「うるせー! おじゃま虫がいうセリフじゃねーだろ」

「ぴぎぃ!」


 実際、妖精がいるおかげでリコとはしばらく愛し合っていなかった。

 賑やかし要因としては優秀だが、ウザさに定評があるということでもある。


(まぁ。こいつは部屋に閉じ込めて、アマ○ンプラ○ムでも見せておいて。リコとはホテルにいくから問題ないよな) 


 育児放棄という言葉が脳裏によぎったが、メルルは自分で『立派な大人の妖精だぞ!』といっていたし、多少リコとふたりの時間をつくらないと持たないよね?



 こちとら生まれてから約35年間以上も、人の愛を知らないで育ったんだ。

 いままで愛されなかった分、リコのことは素直に受け止めてやる。

 

 疑念はいつもあるが。

 仕事上のパートナーであることが、彼女を信用できる理由になっていた。


「さぁ鬼仮面も。ピースピース!」

「ぴ、ぴーす!」

「うぇーい!」

「ウェウェイ!」


 リコとメルルは完全に成人式のノリだ。

 俺も流れに乗る。


「うぇーーーーーーーーーーーーーーーーい!」


 鬼仮面のままでダブルピースをキメた!



『鬼仮面最高!』

『祭り!!』

『撃破おめ!』

『8888888888888888888888888!』

『8888888888888888888888888!』


 リコとの活動で俺のトークスキルも鍛えられていったようだった。




 平行して俺のチャンネルも盛況となっていた。

 俺のチャンネルではリコは写さない。


 あくまでいつも通りの、ムーブだった。


「う、うい。こんにちはぁ! 今日は、70階層ダンジョン〈デスルター洞窟〉に挑戦します。破壊の限りを尽くすので、みてってください」


 以前よりも語彙力が上がった気がする。

 トークをしながら70階層を踏破した。


 キンキンキンキン、キンキンキンキン!

 キンキンキンキン、キンキンキンキン!


 俺はドリルハンマーのドリドリを駆使して、70階層ボス・デスルター・ケルベロスを葬り去る。

 

 リコは出演はしないが俺のディレクターとしてサポートしてくれる。


 俺は彼女の護衛。

 彼女は俺のアドバイザー。


 お互いに相手を立てているのだ


【ドリドリドリって叫んでください】


「うぉおおおおおお! ドリドリドリドリぃぃ!」


 コメントが赤文字で弾幕になっていく。



『ドリドリドリドリドリドリドリドリッッ』


            『ドリドリドリドリドリドリドリドリ!!!』


『ドリドリドリドリドリドリドリドリーーー』


『ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド!』

『ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!』



 コメントが祭りになっていく。

 リコのアドバイスは的確だった。

 

【両手を高らかに上げて『これがドリルの力だ!』をしてください】


 俺はアドバイスを受けて、『これがドリルの力だ!』と叫びドヤ顔をする。


『おっさんドヤ顔』

『神のドヤ顔』

『ドリルフェイス!』

『ドリルで魔獣を砕いた人の、溌溂とした顔です』

『鬼神フェイスキタコレ』

『キリっ!』


 俺のドリルハンマー使用時のドヤ顔は〈鬼神フェイス〉と名付けられた。


 70階層ダンジョン・デスルター洞窟踏破。

 俺のチャンネル登録数は順調に爆上がりしていったのだった。

 

――――――――――――――――――――――――――――

【鬼神チャンネル】

登録者数  11033人

総再生数  210,7802回


総グッド11334 総バッド1240


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