第4話

「さくらちゃん、最近、よく眠れてる?ぼーとしてるよね」

「あらかた楽しいことやっちゃったから刺激がないしね!最近!それともホントに眠いの?気にしないから寝てても大丈夫だよ?」

「あ!大丈夫、よく眠れてるよ!ただね、夢に登場人物がいるんだよね」

登場人物〜?とご友人たち。

「怖い夢とかじゃなくて?」

「めんどくさい夢?あの、何回も繰り返し同じことをする夢とかさ」

「こわっ、けどある!確かに起きたのにある程度行動したらまだ夢というか、夢の中で延々と覚醒できずに苦しむ寝起き!」

「……そういうんじゃないかなあ、なんか、登場人物とおはなしして、」

「うん」

「おわる。で、次の人と話す」

「カウンセリングか!」

「なんか、疲れそう」

「疲れはしないけど、なんで話すんだか分からないの。まあ、夢だしいいんだけど」


〈ふふーん、果たして夢でいいんでしょうか?ひとりかふたりかさんにんか、よにんはいるのか?話してあげてください!いまフリーでしょ、サクラさん!〉

 うたた寝をするフリをして心の声で不安になる。

第二の人格とか、なんかわたし、知らない間に無理してるのかな。


 早く帰宅したので果物ゼリーを食べてお風呂に入り。きちんとしたパジャマではなく、少し迷ってTシャツに半ズボン、を履いてから。夢だけど、うーんと迷っていると。


〈そんなに格好で迷うならジーンズとかでいいんじゃないですか。あ、寝にくいし暑いか!〉


わたし、わたしの声なの?


〈今日はいっぺんにおふたりとお話ししてみますか?サクラちゃんの友達も呼んで〉


(え?)


できるの?


〈ただし、お友達のほうは覚えてないで忘れちゃうかなー〉


できるんだったらお願いしたいなあ、とゆったりしたジーンズを履いて寝てみた。どうして夢にここまで。


 目が覚めると。目が覚めると?今更ながらツッコミを入れる。今は入眠しているのに。

友達は、見つからない。

すると、向こうから3人の男女が現れる。

真ん中に

「華子ちゃん?」

両隣には信じられないことに。

華子ちゃんに腕を掴まれ引っ張られる2人の男子。片方は明るい髪、片方は黒髪の蓬髪。明るい髪の方は

「ねえ、君、夢の中だと大胆なタイプ?わかる。わかるからいまだけつきあったげる。たのしいっ」

黒髪の蓬髪の秀才そうな方は

「正直、困ってる。ここで今まで女子に会ったことある?しかも、双子を両脇に組んで楽しく散歩するタイプ」

「いや、でも、オレお前と久しぶりに遊べて楽しい!」

「これ遊ばれてるだろ。睡眠の質も学力も落ちないけど、なんか、なんか」

そこは一面の花畑にアーチ状のレンガで組まれた素敵な橋を通ったところで、

「華子ちゃん……」

桜は友達に話しかける。一方華子は

「わあー!さくらまで!きょうはいい夢だー!こんなに名前のわからない花々に、いや、もしかしたらパンジーなのか?同じ種類の別の色?いや、花びらの形違うね!いいね、極楽!あと天国!」

「華子ちゃん、男の子と仲良くなるの、すごいね、ふたりは誰?あと景色ほんと良い」

「それが教えてくれないんだよね。つまんないからわたし、元の道戻るや。ここに来る前の小川も良かったから後で来れば!じゃねっ」と華子。

 手を振りながら「あ、うん」と。

 なんだか正反対を双子にしたようなふたりを前に居心地は複雑だ。

 髪の明るい方が「わー、新しい女の子!大人しそう!」無邪気に言う。黒髪の方は「貴女はいきなり腕を引っ張って歩こうぜっ!とか言わないですよね?」と念を押してくる。

「あ、わたしは、仲良くできればそれで充分……です」

ふたりを交互に見て反応を伺う。髪の明るい方、茶髪は「華子ちゃん元気すぎたね。リアルでもそう?」

「いや、あそこまで……」

「お花畑ではない?」と黒髪。

「そこは夢だしオレらは花パートなんだから花さえ傷つけなきゃ楽しんでほしいでしょ。君の名前、サクラちゃんでいいの?名前覚えるの苦手で」

「あ、わたしもです。わからない時は正直に一回じゃ覚えられないんですー、って白状しちゃいます」

「いいなー、素直に言えて!オレなんてあとになって名前なんだっけ言って怒られるから!」

「おもしろいです」

桜はふたりの名前を聞きたくなった。それと。

「お顔立ちが似てますね」

ぴくっと黒髪の少年が眉を動かす。

「似てないよ」とも呟いた。

「いや、まあ、成長と共に変わってきてはいるな、オレらは双子!苗字は薊!ボサボサした紫っぽい花だったかな」

そこはGoogleでよろしく、と言われた。

「……この夢、不思議にならない?ていうかだ。女子と会ったの今回が初めてなんだけど」

黒髪の薊君が訪ねてくる。

「うん!ふしぎ!前の夢のお土産はじゃがいもと玉ねぎの皮だったんだよ!」

 相手の年齢も、茶髪の薊のくだけた口調に気にならず友達に語るように感想を述べる。

「マジで?!」

茶髪が目を見開く。

「もしかして、料理谷のトコ?!」

「あ、みんな知り合いなんだ。そういえば料理谷君も相馬くんと比べると怒ってたけど、知り合いだったのかなー、どうかなー」

「料理谷は手強かっただろ。」

黒髪が難しい顔をして目を細める。

「一緒にカレー作ろう、って言って。夢が終わっちゃった」


それどんな状況?!


双子が声を揃える。


きれいな声だった。


「わあ!ふたりともカラオケ得意そう!ここにカラオケボックスがあれば良いのに!」

「カラオケボックスってっ」

茶髪の方がなんだか言葉の響きが面白かったのか笑い出した。

黒髪の方は怒ったような顔をしているが、茶髪に「照れすぎっ」と片手でツッコミを入れられていた。

「ごめんなさい!カラオケ嫌いだった?」

「いや、逆よ。オレらはね、カラオケ大好き。正直お花畑と小川よりカラオケ、ぶふっ、ボックスにしたい」

なんだかボックスがつくと途端に、略された言葉が長くされて、それじゃ意味がないじゃん!と指摘したくて笑ってしまうらしい。

「いわゆるハモる、と、全員が褒める。そして、こっちがモテる。俺も褒めてもらえるけれど、俺は」

「はいはい、ふたりで褒めてもらって存分に歌うのが好きなブラコンなんだよね、弟っ」

「あ、茶髪さんがお兄さんでしたか。落ち着いてる黒髪さんも兄っぽいな、と思ったのですが」

「うれしいなあ、そういうほんのり聞いてくれるの。なあ?」

「まあ。周りはガリ勉黒髪の俺が兄貴なんだか弟なんだかひとりも聞いてこない。兄貴ばっか」

「サクラちゃん、なごむねえー。いままでにないタイプ。うちの学校にいたかな。見つけたら会いたいからさ」

「……この花畑の花、摘んでっていいぞ、てか、いくつだ。ここじゃ相馬も料理谷の年も聞いたことない」

「お言葉に甘えて。では、どの花を……」

「どうせなら珍しい花摘んでってよ、すぐ君だってわかるように」

「はい!」

しゃがみ込んで花を真剣に選んで、選びながら上を向き、急に笑顔になる桜。

薊兄弟は桜が選ぶ花を、桜を、物珍しくも楽しい気持ちで見ることができた。





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