事件は終わった

 湖国は第53ひえい丸を今津港まで曳行した後、大津港に向けて湖を南下していた。時刻はもう12時近くになっていた。事態は収束したとはいえ、やることは山ほどあった。保護した人たちを今津港から救急車に移して病院に向かわせて、収容した遺体やゴムボートなどの物品の調べ、報告書の作成・・・・捜査かも警護課もずっと仕事に追われていた。やっとこの時間になって休憩をとることができた。

 佐川は捜査課の部屋でコーヒーを飲みながら窓から外を見た。今朝からの濃い霧は晴れ、空には星が輝いている。ただし新月なので月の姿はない。だから湖岸の明かりがより際立って見えた。

 思い返してみると、男たちがゴムボートに乗って撃ち合いをしているという通報から始まった。ただ琵琶湖でサバイバルゲームをしているだけだと思っていたが・・・。


「こんな最悪な1日になるとは思わなかったな・・・」


 そう呟きながら右手に持ったコーヒーを口に運んでいた。そこに荒木警部が部屋に入って来た。


「あっ! 荒木警部。」

「今日は朝からご苦労だった。大変な一日だったな。」

「報告書を書いていると、朝の出来事がまるで遠い日に起きたことのように思えます。」

「確かにそうだ。それにしても今日1日、いろいろありすぎた。」


 荒木警部も慌ただしかった1日に振り回されていた。ここに来てやっと落ち着いてきたようだった。


「この事件は結局、村岡の復讐・・・ということになるのでしょうか?」

「うむ。確かにそうだが・・・。佐川。お前は何か府に落ちないようだな?」

「はい。どうも偶然が重なったにしろ、こんな大事件を村岡の考えだけで起こせるとは・・・。上野や神海の力を借りたとしても。」

「それは俺も考えた。真の犯人にたどり着くためには、昔から『事件で最も得をした人間が怪しい』と言われている。」

「それは・・・村岡、いや復讐は途中で終わり、結局は死ぬことになった。他の2人も水中ドローンに殺されました。一体、だれが得を?」

「それはそのうちにわかるかもしれない。もっとも公安は気づいているかもしれんが・・・」


 荒木警部はそう言って部屋を出て行った。


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