村岡の告白3

「村岡! お前は逃げられない。仮にボートで湖に出てもきっと逮捕される。それはわかっているはずだ。でもどうして人質を取って逃げようとするのか?」


 佐川に質問に村岡は不気味に笑った。まるでお前は何もわかっていないと言わんばかりだった。


「お前の復讐は終わったはずだ。もういいだろう。拳銃を捨てて人質を放すんだ。」

「終わった? いや、まだ終わっていない。私の復讐は続く。」

「なに! お前は何をしようとするんだ!」


 村岡は一呼吸おいて答えた。


「水中ドローンが活動を再開しているのは知っているだろう。神海が死んだことで、私のスマホで一旦は水中ドローンを停止させて事件が終わったように見せかけた。だがすべては終わっていない。だからまた水中ドローンを動くように私のスマホを使って操作したのだ。私が湖国を離れればこの船を攻撃する。そうなればこの船に乗っている者は死ぬ。溺れるか、水中銃で・・・」

「それが狙いか!」

「この船には私のターゲットが乗っている。足立高志とかな。彼らが死なねば復讐は終わらない。」


 今の村岡にとって多くの人を巻き込んでいることはもう考えの外にあった。とにかく復讐を果たさねば・・・その思いだけのようだ。


「それが狙いか!」

「ふふふ。それだけじゃない。もうひとつ大事なものを忘れているだろう。」


(それはもしかすると・・・)佐川には思い当たるものがあった。


「第53ひえい丸のことか?」

「そうだ。核物質を積んでいるらしいな。神海がこの船にもぐりこんで知った。これは警察に手を出させない口実になると思っていた。」


 確かにそれで県警捜査1課から湖上署に「動くな!」という指令が来た。


「琵琶湖の水を人質にとる。これはいい方法だと思ったが、タブレットの盲点を突かれた。」


 青い表示のタブレットがある船は攻撃できないというのだ。そんなタブレットを第53ひえい丸に持ち込んで水中ドローンの攻撃を避けていたのだ。だが水中ドローンの活動を再開したからには攻撃を受けているに違いない。後は中野警部補やライフルを持った警官たちに守ってもらうしかない。


「だが青い表示のタブレットはリセットされた。第53ひえい丸が沈没するのは時間の問題だろう。」

「そうなれば琵琶湖の水は汚染される。どれだけの人間が被害を受けるのか、お前にはわかるのか!」


 佐川の言葉に村岡は不気味に笑うだけだった。


「知っているとも。1450万人が琵琶湖の水を利用する。近畿は深刻な水不足に陥るだろう。」

「それがわかっていてなぜ?」

「私にとって娘や孫の命を奪ったものがすべて憎らしい。吉村や橋本、見て見ぬ振りした乗客、救うことができなかった警察・・・そして琵琶湖だ! こんなところは人々が血を流し、核で汚れ切ってしまったほうがいい!」


 村岡は感情的になって叫んでいた。彼の心の中の復讐の気持ちは大きくなっていき、それを成し遂げていく中で狂気が支配するようになったのかもしれない。

 そこに足音が響いてきた。村岡のことを聞いて荒木警部たちが駆けつけてきたのだ。それは村岡にもわかっているようだった。


「思わず長話をしてしまった。もはやこのスマホでしか、水中ドローンを止められない。私はこのままできるだけ逃げてやる。琵琶湖が汚染されるまで。」

「村岡! 待て!」

「さらばだ!」

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