救難ヘリの活躍

 滋賀県警のヘリコプターがヘリポートから離陸した。夜の暗闇にヘリを照らすライトがまぶしく光る。向かうは第53ひえい丸である。爆音を立てて北上して湖岸の市街地を経て湖に到達する。ここからは水中ドローンのテリトリーになる。船を発見するためにあまり高くは飛べない。だがGPSで船の位置は把握しており、見逃すことはない。

 やがて湖上に光が見えてきた。その光はヘリを誘導するように明滅している。


「あそこだ! あの船に降ろす! 用意!」


 ヘリは船の上でホバリングする。下では中野警部補と田中巡査長が合図を送っている。幸いにも水中ドローンは近くにいないようだ。


「よし! 行け!」


 ライフル銃を背負った警官が一人一人、ホイストで降ろされていく。それを下で田中巡査長が受け止めた。中野警部補は周囲の湖面を警戒している。いつ水中ドローンの攻撃を受けるかわからないのだ。

 やがてすべて無事に警官を降ろし終わった。全員で10名。あとは機材を降ろして、すぐにヘリは移動した。それを中野警部補たちが敬礼して見送った。これで第53ひえい丸の防衛態勢は整った。各警官は中野警部補の指示で持ち場についた。水中ドローンが攻撃を仕掛けてくる時間までもう1時間もない。


「周囲を警戒してください! 盛り上がった波が見つかれば知らせてください!」


 照明が湖面に向けられている。辺りは昼間のように明るくなった。だが中野警部補は安心したわけではなかった。


(もし一斉に水中ドローンが攻め寄せてきたら持たない。その時はどうやって核物質の漏洩を防ぐか・・・)


 その方法は考えつかなかった。だからここを死守するしかないと彼女は自分に言い聞かせていた。



 一方、ヘリは湖面を低空で飛行していく。


「次の任務に向かう!」


 堀野刑事はパイロットにそう伝えた。それは湖上に残された人たちを救助するのだ。湖上署警護課が保護して湖国に運んではいたが、まだ残された人がいた。中には賞金のためにサバイバルゲームを繰り広げている者もいた。

 ヘリには救難隊を乗せている。彼らはヘリから照明で湖面を照らし、それらの人の捜索を続けた。


「前方にボート。人が乗っています!」


 報告を受けてヘリはその上空へ向かう。その下では釣り客が救助を待って両手を振っていた。


「いま、そっちに行きます!」


 救難隊員がホイストで降りていく。波は緩やかでボートに下りることができた。救難隊員は釣り客を固定してホイストでヘリに戻っていった。そしてまた捜索するため、湖面ギリギリを飛んで行った。


(時間がない。ヘリ1機では捜索範囲も限られ、救助できる人数も限られる。しかも燃料の関係からそう長く飛んでいられない・・・)


 堀野刑事は焦っていた。そんなところに妨害が入った。やっと見つけたボートの釣り客を救助しようとすると、急にあの盛り上がった波が現れたのである。水中ドローンが獲物を求めてやってきたのだ。


「これでは降りられません!」


 救難隊員は堀野刑事に言った。真下にいる釣り客はボートに身を伏せて隠れている。少しでも体を起こせば水中銃の餌食にある。

 何もできずにヘリは低空でホバリングを続けた。すると水中ドローンが水中銃をヘリに向けて発射してきた。


「カン! カン! カン!」


 と弾が減りに当たる。たまりかねてパイロットが叫んだ。


「これ以上は危険です。上昇します!」

「いや、待ってくれ。もう少し・・・」


 だがそう話している間も下にいる釣り客はまた狙われていた。ヘリから救助は来ないと体を起こしてしまったのだ。すると即座に矢のような弾丸が飛んできた。

 それは釣り客の胸に突き刺さり命を奪った。その光景はヘリのところからもはっきり見えた。


「ああ・・・」


 堀野刑事はそれ以上、声が出なかった。パイロットは危険と見て高度をすぐに上げてその場を離れた。堀野刑事は無念そうにそのボートの方向を見ていた。


(この惨劇はいつになったら終わるのか・・・すべての者が殺されるまで終わることはないのか・・・)


 堀野刑事は唇をかみしめていた。


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