奮闘

特別な男

 山口巡査長と加藤巡査は引き続き、彦根沖を担当していた。この地域は多くの水中ドローンが遊弋している。彼らは青い表示のタブレットを持っているので襲われることはないが、撃ち殺された人を乗せているサバイバルゲームの参加者のゴムボートや釣り客のボートが多数見つかっていた。

 本来ならそのまま遺体を回収するのだが、現状ではそれはできない。彼らにできるのはそのボートに乗り移って被害者の死亡を確認し身元を調べることだった。


 そこに1艘のゴムボートが流れてきた。サバイバルゲームの参加者のものと同じものに見えたが、タブレットに表示されていなかった。加藤巡査がタブレットでもう一度確認したが、やはり間違いではなかった。


「おかしいですね。タブレットに赤い点も青い点も表示のないゴムボートなんて。」

「そうだな。中に人が倒れているみたいだし、確認するか。」


 モーターボートをその近くにつけて山口巡査長がそのゴムボートに乗り移った。そこにはうつぶせに倒れている男がいた。迷彩服にベスト、頭のゴーグルが赤く点滅している。サバイバルゲームの参加者に間違いはないようだ。矢のような弾丸が胸から背中を貫き、やはり水中ドローンにやられているのには間違いなかった。


「ゲームの参加者だ。タブレットを落としたのか?」


 山口巡査長が遺体を動かした。するとその下にはタブレットがあった。それは確かに赤い表示になっていた。だが他の者が持つタブレットと少し違うように見えた。


(特別製なのか? こんなものを持っているなんてこいつは何者なんだ?)


 山口巡査長はそう思って、身元を示す物を持っているかどうかと遺体を調べた。他の参加者は誰一人として持っていなかったので期待は薄かったが・・・・。しかしその男はなんとスマホを持っていた。もちろんロックがかかっていて中を見られなくなっていた。


(ロックを外せば何かわかるだろう。湖上署に帰って調べてもらうか・・・)


 山口巡査長はさらに他のものも調べた。だが・・・。


「ちょっと他の人と違う・・・」


 そばに落ちていた電動ガンもカスタマイズされているようであるし、ゴムボートにもアタッチメントがついている。すべてが他の参加者よりいいものを持たされている。なぜかわからないが・・・。


「特別製だな。どうしてこの人だけ・・・」


 すると加藤巡査が懐の手配写真を見ながら遺体を指さした。遺体は仰向けになって顔が出ている。40前でげっそりと痩せていた。


「この遺体、この男ではないですか?」


 山口巡査長も気づいた。


「確かにそうだ。どうしてここで殺されているんだ?」


 その男は上野順一だった。捜査1課が必死に追っていた男がここにいた。サバイバルゲームに参加して殺されていた。


 ◇

 堀野刑事は八幡署に戻った。山上管理官も久保課長も島に残されたままで捜査本部に帰ってくることはできない。タイムリミットまで時間が少なくなってきている。沖島と竹生島には容疑者の姿はなかった。だが多景島で荒木警部と佐川たちが村岡の身柄を押さえてという報告があった。だが犯人とは断定できないという。


「後は上野順一と神海渡か・・・」


 2人の行方がようとして知れなかった。もし彼らのうちのどちらかが犯人であれば、この事態はまだまだ続く。


「きっとこの琵琶湖のどこかにいる。そこからあの水中ドローンを操っている。」


 堀野はそう確信していた。


 するとある一報が入ってきた。湖上署警護課の署員がゴムボートの中で死亡している上野順一を発見したという。水中ドローンの弾を受けていた。場所は彦根沖、多景島の近くだという。そしてその近辺からは増本進と吉村良樹の死体も見つかった。彼らも水中ドローンに撃たれてゴムボートの上で死んでいた。


(多景島がこの事件の中心だったのか。だから俺たちがそこに捜査に向かおうとした時に妨害を受けたのか。だとすると神海渡がそこにいる可能性も・・・しかし佐川たちが島を捜索しているはず。それは考えられないか・・・)


 報告では水中ドローンは相も変わらず活動している。このことから犯人は神海渡の可能性が高くなった。


「もし20時までに事態を収められなかったら・・・」


 水中ドローンは無差別に攻撃を始める。そうなれば核物質を積んでいる第53ひえい丸は襲われ、沈没させられてしまうかもしれない。それで最悪な場合、積んでいる核物質が漏れ出し琵琶湖の水を汚染し、この水を利用する近畿の1450万人に被害が及ぶ・・・これは絶対避けねばならない。

 湖上署からショットガンを持った署員が2名派遣されていると聞くが、その人数ではかなり心もとない。山上管理官から県警本部に申し入れがあり、県警は可能な限り力を貸してくれるという。県警にはライフル班がもう1班あるからこれを送りたい。だが湖は水中ドローンが蟠踞しているから、これ以上の船を送ることは難しい。


「何かいい方法は・・・」


 堀野刑事は考えた。


「水中ドローンに襲われずに人員を送れればいいのだが・・・」


 するとすぐにひらめいた。


「よし。まだ大丈夫だ。これで送れる!」


 彼はすぐに県警本部に電話を入れた。



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