新たな事実

佐川刑事への電話

 堀野刑事は八幡署の捜査本部に戻った。ヨシの群生地で発見された遺体の身元はまだ判明しなかった。サバイバルゲーム参加者は身元を示す物を持っていなかったので、それがわかるまでかなり時間がかかるように思われた。

 だがそこに貴重な情報が滋賀県警に送られてきた。それはRキット社からだった。社内で調べ上げたことを漏らさず知らせてきたのだ。青山社長が全面的に捜査に協力しようという意思の表れだった。それはすべてプリントアウトされ、捜査員に配られた。資料はかなりの膨大な量だった。

 堀野刑事と部下の捜査員たちは資料を見て話し合った。


「・・・なるほど。そういういきさつか。」

「使用されているのはRキット社のモニタ用のもの。それがなぜか、今回のサバイバルゲームの参加者に送られました。」

「そこだ。この琵琶湖でサバイバルゲームを企画した者がそうしたのだろう。」

「そしてそいつが正体不明のものを使って、水中銃で射殺しようとしているというわけですか。」

「そう考えるのが普通だろう。」


 担当者は上野順一という社員だった。有給休暇を3週間取っており、連絡が取れないという。堀野刑事は彼に不審なにおいを感じていた。


「一応、この上野順一を洗ってくれ。不審な点がないか。」


 部下にそう命じて、堀野刑事は資料をじっと見た。それにはRキット社の製品を送られた人の名簿だった。


「もしかするとこの中の誰かを殺すのが目的かもしれない。動機が分からないようにこれだけの人を巻き込んだのかもしれない。」


 それも一人ではないだろう。こんな込み入った手を使うからにはその参加者のうちの多くの人を狙った犯行かもしれない。彼らの共通点といえば、関西在住の男。年齢は20代から50代・・・。捜査員の一人が首をひねって言った。


「琵琶湖のサバイバルゲームに参加できそうな人・・・そんな風にしか思えませんが。」

「いや、ここに事件のキーがあるのかもしれない。とにかく一人、一人、過去に何かの事件や事故に関係していないかを調べる必要がある。手分けしてすぐに始めるんだ。」


 堀野刑事はそう指示した。大事件になっているのにまだまだ手がかりが少ない。早く手を打たねば被害者が増えてしまう・・・彼は焦っていた。


(そういえば湖上署の方はどうなっている? 湖にいる人の保護は進んでいるんだろうか? 佐川に聞いてみるか。)


 堀野刑事は佐川にスマホから電話をした。


「堀野だ。そっちはどうだ?」

「大変な事態になっている。あれは水中銃付きの水中ドローンだ。なんとか仕留めたが、それ1体ではないようだ。かなりの数が湖にいるようだ。」

「なに! 水中ドローンだと!」


 堀野刑事は佐川の言葉にはっとして、思わず大きな声を漏らした。


「どうしたんだ?」

「水中ドローンとか言ったな。それはどんな奴だ?」

「鋼鉄のサメのような奴だ。写真を撮ったからそっちに送る。」


 すぐに堀野のスマホに写真が送られてきた。堀野はそれを見て「あっ!」と驚いた。


「そいつに見覚えがあるのか?」

「ああ、実はこいつのことで捜査1課は秘密裏に捜査をしているのだ。多くの人員を割いて。」

「何が起こっていたんだ?」

「それは・・・・」


 堀野刑事は言葉を濁らせた。その事件の捜査は極秘だった。外に漏れれば大変なことになる。刑事の佐川であっても、いや殺人事件の捜査のためとはいえ、それを話してもいいのか、堀野刑事は迷っていた。だが佐川は事件解決の糸口を見つけるため、絶対にそれを聞かねばならなかったし、知らねばならなかった。


「一体、何が起きたんだ! 話してくれ!」


 佐川は受話器に向かって大きな声を上げた。彼はこの事件に黒い闇があることを感じていた。

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