第3話

「え…」

仕事終わりに今日発売の慶汰が載っている雑誌を買った冬夜。

今回も化粧品のPRとしてだったが冬夜は驚きを隠せなかった。

普段は慶汰の方からキスをしているのに今回は鷹汰からのキスだったからだ。

これにはSNSでも凄く話題になり、冬夜と繋がっている人達も興奮している人も居れば新たな扉が開かれた人も居たり解釈違いだー!と嘆いている人も居て阿鼻叫喚な状態だった。

ただ冬夜は今回の写真を見て、鷹汰のカメラにむけている目線が宣伝している目というより…独占的な目線に感じた。


まるで慶汰は自分のモノだと、言っているかのような…


(素人なんで…そんなこと分かりませんが…)

雑誌を閉じて携帯のアラームの設定を確認すると目を閉じた。

今回、少し困った表情をしている慶汰を見てちょっとだけ可愛いな、と思いながら冬夜はゆっくり眠りについたのであった。


そして次の日

いつも通り仕事をしていると「ちょっとちょっと!」と先輩女性社員さんが手招きをしてきて冬夜は近寄り問い掛けた。

「どうしました?」

「見て見て!彼!」

女性社員さんが指した方を見ると冬夜は目を見開いて驚いた。

そこに居たのは、犬を見て幸せそうに笑っている慶汰の姿だったのだ。

(え!?まさかのこんな早い時期に再会するなんて!!)

「この間の彼よね!天沢くんのこと気に入っちゃったのかしら?」

「そ、それは断じてあり得ませんよ!だって彼はモ…!!」

“モデル”と言い掛けたが何とか留まった。

そう彼はモデルでいつも綺麗な方や可愛らしい方が周りにいる世界だから…自分なんかをお気に入りにする訳がないと冬夜は自分の心に言い聞かせた。

「と、とりあえず接客してきますね」

「はーい」

嬉しそうに手を振る女性社員さんに溜め息をついてから慶汰に近づくと「どうしました?」と声をかけた。

するとビクッと体を跳ね上がらせたがすぐに冬夜と目が合うとパァァっと笑顔になり、冬夜は表情には出さなかったが心の中でドキーンとときめていた。

(推しの笑顔が俺だけに向けられているなんて最高か!?)

「この間の店員さん!あ、いや…まぁ、ちょっとな…」

パァァっと笑顔になったがすぐにしゅんと落ち込んでガラスケースに入る犬の方を見だして、冬夜は首を傾げた。

「あの…何かありましたか?」

「へ?あ、いや…」

言いづらそうにする慶汰に、冬夜の頭にはすぐに昨日の雑誌の写真が過った。

もしかしてあの写真は嫌々だったのでは!?と思ったが冬夜からあの写真を話題に出すのはファンとバラしているのと一緒だった。

(男である俺がファンだとバレたら絶対引くよなー…)

そう考えると何も出来ず、何も言えなかったがふと目に入ったのは慶汰がガラスケースにそっと手を触れさせて犬を優しい目で見ている姿だった。

すぐに冬夜は裏へ行くと慶汰が見ていたポメラニアンの子を連れて戻ってきて、慶汰を椅子に座らせると膝に座らせた。

「うぉっ!?めっちゃモフモフ…しかも可愛いな、こいつ!!」

「ポメラニアンを見ていたので…好きかと…」

「おう、動物は皆大好きだぜ」

膝の上で寛ぐポメラニアンを撫でまくる慶汰がだんだん笑顔になっていくのが見えて、冬夜も嬉しそうに笑うと慶汰とばっちり目が合った。

「悪ぃな、動物と戯れちゃって…」

「いえ、少しでもお客様が元気になるのでしたらお手伝いしますよ」

そう言い終わるのと同時にポメラニアンが「ワァン!」と鳴いて、あまりのタイミングの良さに冬夜と慶汰は目をきょとんとさせたがすぐにクスクス笑いだした。

「ありがとうな、店員さん」

「いえ、お客様が元気になられたみたいで良かったです」

そう答えると慶汰は黙ってじーっと冬夜のことを見つめてきた。

まさかの推しにじっと見つめられる行為に冬夜の内心は焦っていたが、顔には出さない様に冷静に「どうしました?」と問いかけた。

「あのよ、お客様呼びやめてくれね?」

「へ?いや、しかし…」

「俺も店員さん呼びしねぇからよ、良かったら俺と友達になってくれね?駄目か?」

ポメラニアンと一緒に首を傾げてくる慶汰に断ることも出来ず、冬夜は心の中で泣きながらお互いの自己紹介をした。

「じゃあな、冬夜!!今日もありがとう!!」

「あ、はい!慶汰さんもありがとうございました!」

手をブンブン振って去っていく慶汰に頭を下げて対応をして、店に戻った。

推しを名前で呼べること、しかも自分の名前を呼んでもらったことが凄く嬉しくて顔がにやけてしまいそうですぐに冬夜は自分の頬を両手で抑えてにやけていないか確認をした。

幸せを噛み締めたかったがすぐにお客様に呼ばれて、冬夜はしっかり顔を引き締めるとお客様の対応をしだした。


「じゃあ先に失礼します!」

今日の業務を終わらせて店から出た冬夜は特に予定もないから真っ直ぐに家に帰ろうとした。

特に周りを気にすることも無く帰ろうとすると、いきなり後ろから手を掴まれてしまいビクッと体が跳ね上がった。

振り返るとそこに居たのは…

「よう、いきなり悪いな!」

「け、慶汰さん!?」

まさかの慶汰だった。

さっき会ったばっかなのに店の外でも会えたことと推しに手を掴まれていて、冬夜の心は悲鳴を上げていた。

「え、えっと、どうしました?」

「あのよ…大丈夫なら、飲みにでも行かねぇか?」

「え、えーーー!!??」

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