第15話 異世界でこんな光景なんて見たくなかった……

「はぁー……そうですね、少しは私も売り上げに貢献しますよ。肉まんを二ついただきます」

「二六〇円になります」

「はい……」


 陽菜美がそう言うとユリさんが頷いた。ちょっとげっそりした様子のユリさんに追い打ちをかけるように陽菜美が手を振る。


「もし円を持っていないのでしたら、入り口横の両替機で変換できますので、そちらをご利用ください」

「いえ、私この世界の者ではないので知ってますよ。というか、現金はあまり持ち歩かない主義なので、端末のバーコードを読み取ってください」


 腕輪状の個人端末から投影されたウインドウをユリさんが向けると、陽菜美がバーコードリーダーをピッてやった。

 まさかのキャッシュレス決済だった。異世界にきて最初の買い物風景としては風情の欠片もない。なんか違う。もっとさぁ、金貨とか銀貨とか銅貨とかじゃらじゃらやってほしいのに、円とかキャッシュレスとか、なんだこれは。これじゃあコスプレ美女がただコンビニに肉まんを買いに来てるだけじゃん。


 黙って一連のやり取りを見ていた俺は失望のあまりその景色を見ながら黄昏ていた。


 あーそろそろ陽が落ちるな。ここ、夜になると真っ暗なんだよなー……街灯もねぇから当然だけど……というか今までモンスターとか見てないな。夜になっても平原は平和そのものだったし、これじゃド田舎にぽつんとあるコンビニと一緒だぞ……?


 そこまで思った時、隣からレジ袋がしゃかしゃかとこすれる音がした。

 顔だけ向けて見やると、仏頂面のユリさんと目が合った。


「あの、なにか?」

「アナタそれでも店長ですか? このままではこのコンビニが潰れますよ」

「わかってるよ。さっきも陽菜美とそのことについて話してたところだ」

「で、その成果はあしましたか?」

「とりあえずチラシを配って宣伝しよって話して……それから、眼帯が……そうだ、眼帯! ユリさん、これカメラになってるでしょ俺の左目。これじゃ俺のあんなところからこんなところまで赤裸々にされるだろ、どうしてくれるんだ。神様に恥部がみられちゃう……きゃっ!」

「きゃ! じゃありません。気持ち悪いですねっ」

「あー、わかります? そうです、うちのお兄はキモいんですよ」


 吐き捨てる気持ち悪いとか言われた。しかも妹のニヤニヤ顔のおまけつきだ。


 こいつら、バカにしやがって俺の恥部が撮影されるかもしれないんだぞ。わかってるのか。トイレとかならまだいいが、風呂じゃ確実に眼帯を外すし、そしたら鏡に映った俺の股間がボロンしてしまう……今はタオルで隠しながら入ってるけど、面倒なんだよな……。


 そういった俺の心の声を見透かすようにユリさんは小さく頷いた。


「大丈夫です。リアルタイムでモザイク処理されますから」

「隠してくれるのか……ならいいか」


 よかった……俺のアレが無修正で映像化されなくて……というかすげぇな、なんだよその高性能な謎技術。リアルタイムでモザイクつけるって。


「それよりチラシを配る件ですが、こちらで用意しますので今日のところは、のぼり旗でも持って街を歩いてみては? いい宣伝になるでしょう」

「今からか?」

「逆にこの時間の方がいいんですよ。この街の住人は魔族が多いですから、夜の方が活発なんです」

「えっ、ここ魔族いんの……!? 初耳なんだが……」

「この城塞都市プローディオは元々人間が住んでいたんですが、魔王軍に侵略されて今は人間と魔族が共存する街になっています」


 驚く俺をよそにそう説明すると、ユリさんが背中を押してきた。そのままレジから出て自動ドアを通る。


「さっさと行ってください。あと、何かあったらステルスドローンが勇夜さんを撮影していますので、呼べば助けてくれます」

「あぁ、わかった」



(次回に続く)4


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