第11話 覚醒


「ぐぎゃあッ!?」


 玄関口で、16人目の聖騎士の首を刎ねると、辺りはいつの間にか静寂に包まれていた。


 足元には山のように転がっている、騎士どもの骸の山。


 俺はそれらを蹴り上げ、道を作ると、そのまま屋敷の中へと入って行った。


「ふむ。見た感じ、今ので最後だったか」


 俺はカツカツとグリーヴを鳴らしながら、玄関口から続く長い廊下を歩いて行く。


 三叉路となった廊下を通り過ぎようとした―――その時。


 角から、一人の聖騎士が俺に向かって剣を振り降ろしてきた。


「死ね、化け物!!!!!」


 俺はその不意打ちを上体を反らして回避し、そのまま無防備な聖騎士の胸を鋼の剣で貫いた。


「カハッ‥‥!」


 鉄製のプレートメイルごと心臓を貫かれ、聖騎士は口から大量の血を吐き出す。


 剣を引き抜くと、聖騎士は兜を落とし、髪を宙に舞わせ‥‥苦悶の顔でこちらを見つめきた。


 その紫色の髪の少女は―――生前の頃に、見た覚えのある顔の人間だった。


「お前、は―――」


「ゴホッ、私、ここで死ぬ、んだ‥‥怖い、怖いよぉう‥‥お父さん、お母さん‥‥」


 そう言って吐血した後、目を見開いたまま彼女は動かなくなる。


 俺は、肩にもたれかかった彼女を優しく抱き留めると、瞼を閉じさせ、そのままそっと‥‥地面へと横たえた。


「‥‥‥‥まったく。どうやらこの世界はとことん、残酷に作られているようだな」


 彼女は、生前、俺が聖騎士団に在籍していた頃、オーガの軍勢から救ったことのある村娘だった。


 あの時、聖騎士に対して恨み言を呟いていた幼い少女が、まさか、アグネリア男爵家お抱えの聖騎士になっていたなんてな。


 自分が救った者を、俺自らが殺してしまうなんて、何という不条理な運命なのだろうか。


 ‥‥いや、そんな善人ぶったことなど、今更言ってはいられないな。


 俺は王国を滅ぼすと、そう決めたんだ。


 どんな者だろうが、復讐のためなら惨殺する。


 それを、俺は‥‥ジェイクとリリエットの墓前で誓ったんだ。


 いつまでも、過去の自分に囚われてはいられない。


 お前は最早、聖騎士ロクス・ヴィルシュタインではない。


 お前は、不死者の怪物―――首なしの騎士、『デュラハン』だ。


『《報告》レベルが2に上がりました。死霊系魔法スキル【アンデッド・ドール】を習得しました』


「!? 何だ、今の声はッ!?」


 突如、脳内に機会音声のようなアナウンスが鳴り響いてきた。


 思わず辺りを確認して見るが、当然、周囲には生きた者の気配はない。


 俺はふぅっと大きく息を吐き出し、落ち着きを取り戻すと、顎に手を当て、思考を巡らせる。


「先ほどの声は‥‥魔物に転化したことによる、何らかの影響か? 新たな特性が追加されたことによる結果だろうか‥‥?」


 確かに、生前、魔道具マジックアイテムで確認した俺のステータス値には、レベルという存在は書かれてはいたが‥‥これは、魔物に転化した結果、能力値がアップしたことを知らせる特性が新たに追加されたと見るべきなのだろうか。


 いずれにしても、今、この不思議な現象を考え込んでいても意味は無い、か。


 どうやら害はないようだから、特段、気にするべくもないだろう。


 今は、アグネリア男爵を討伐することが先決だ。


「‥‥いや、待て。さっきのアナウンスの声、スキルを習得したとか何とか言っていたな? 確か‥‥【アンデッド・ドール】、だったか? ――――ん?」


 スキルの名前を口にした途端、突如、右手に紫の靄が浮かび上がり始めた。


 その靄は、魔力の気配が感じられることから、何等かのスキルが発動したと思われるものだった。


「これ、は‥‥」


 魔法が発現した途端、俺は、そのスキルの使用方法を瞬時理解する。


 これは―――死体に使用する魔法。


 死体を別の存在・・に作り変え、使役する、魔物だけに許された魔法。


 俺は紫色の靄がかかった右手を使って、眼下にある女騎士の背中へと触れる。


 すると、その瞬間。


 女騎士の身体がピクリと、小刻みに震え出したのだった。


「アア‥‥ア゛ア゛‥‥‥‥ッッ」


 そして彼女は数秒の間痙攣すると――そのまま地面に膝を付き、起き上がり、口から血を垂らしながら、白く濁った眼でこちらを見つめてきた。


『《報告》 スキル【アンデッド・ドール】の使用により、下級アンデッド【グール】の作成に成功致しました。【グール】レベル1が配下に加わりました』


「‥‥ク、クハハハハハハハハハハハハッッッッ!!!!!!!!!!」


 なるほどな。


 どうやら俺は、自身の仲間であるアンデッドを増やせる力に目覚めたらしい。


 下級アンデッド故に、目の前のこの【グール】の少女は、見るからに知能は無さそうだが‥‥俺の命令に完全に従事する手駒になったことは、魔法を通して完全に理解できていた。


 【アンデッド・ドール】か。面白い魔法だな。


 この力があれば、アンデッドによる兵団を作るのも容易だろう。


 王国を滅ぼすのに、決め手となってくれそうなスキルだと言える。


「そうだ。先ほど殺してきた騎士たちもアンデッドに変えてしまうとするか。どうせアグネリア男爵は、この状況では屋敷から逃げ出すことはできはしないだろう。火の手もまだこちらには来ていない。それなら、まだ時間に余裕は―――」


「――――イィィィィィアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッッ!!!!!!!」


「む?」


 突如、耳をつんざくような甲高い悲鳴の声が聴こえてくる。


 声がした方向に視線を向けると、そこは、先ほど女騎士が隠れていた‥‥三叉路の右側の通路だった。


 その通路の奥には地下へと続く階段があり、暗く、ジメッとした空気が漂っている。


 俺はそこが、エレノアが作戦実行前に言っていた――男爵が税の代わりに領村の村娘を攫い、その少女たちが収容している場所であろうことを理解した。


「ふむ‥‥。手駒が一つ増えたことで、余裕もできた。少し、見てくるとしようか。グール、この三叉路を見張っておけ。アグネリア男爵が外へと出ないようにな」


「アア゛アアアア‥‥」


 そう、掠れた声の返事を聞いた後、俺はそのまま地下室へと続く通路を歩いて行った。

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