第16話 これをクッションにするんだ

「それにしても、地下一階でこんなトラップが発動するなんて」

「確か致死級のトラップはないはずだったっすよね? これに踏まれたら普通に死ぬっすよ!」


 ルイスのお陰でどうにか踏み潰されずに済んだが、非常に危ないところだったと、安堵するジークとリオ。

 試験官のエリザも眉根を寄せながら同意した。


「……そうですわね。もっと深い場所ならともかく、この地下一階で、このレベルのトラップが発動するなんて……」


 トラップを発動させた張本人であるコルットが、おずおずと言う。


「あの……あたし、昔からすごく運が悪くて……普通なら起こらないような確率のことに、しょっちゅう遭遇するんです……だから、そのせいかもです……」


 どうやら彼女は不幸体質らしい。


「毒舌に不幸体質って、どんな【聖女】っすか……」

「むしろそんなあたしが、なんで【聖女】なんですかね……? ふふふ……もしかしたら、神様があたしのことを皮肉って【聖女】にしたのかも……」

「ま、まぁでも、助かったんだから不幸中の幸いってやつだよ、うん」


 ニヒルな笑みを浮かべるコルットを、ジークがどうにかフォローする。

 しかし、コルットの不運はこれだけでは終わらなかった。


 がこん。


「あっ」

「って、またっすかっ!?」


 再び怪しいスイッチを踏んでしまうコルット。


「気を付けて! 何が起こるか分からないよ!」

「また地響きが聞こえてきたな」


 ズゴゴゴゴゴゴ……。


「ということは今度もあの巨大な球っすか?」

「いや、それよりもっと近いような……」

「これ、明らかに足元が揺れてるぞ」

「「え?」」


 自分たちが立つ地面が振動していることに気づいたルイス。


「めちゃくちゃ嫌な予感がするっす……っ!」


 リオが叫んだ直後だった。

 突如として地面が消失したのは。


 落とし穴だ。


「「「ぎゃあああああああっ!?」」」


 絶叫を轟かせ、そろって落下していく。


「まったく下が見えないっす!?」

「ど、どこまで落ちていくんだっ!?」


 このダンジョンは階層構造になっている。

 そのため落ちるとしても、すぐ下の階までかとばかり思っていたら、どうやらもっと深い落とし穴のようだ。


「こ、これはもう、おれたちじゃ無理っす! エリザさん、助けてほしいっす!」

「……」

「エリザさんっ?」

「これはあたくしにも……どうしようもできませんわ……」

「きゅう……」

「ああっ、コルットが気絶したっす!?」


 試験官までお手上げな状況だと知り、コルットが完全に意識を失ってしまった。


「さすがにこのまま底に激突したら死んでしまうな」

「ルイスは何でそんなに冷静なんすか!?」

「もしかして、何か助かる方法がっ?」

「うーん、空気を操ることができればよかったんだが……」


 上昇気流を発生させることで空を飛ぶことができるルイスだが、生憎とこのダンジョン内では上手く空気を操作することができない。


「そうだ。あれを使えば……。みんな、しっかり俺に掴まっててくれ」


 そこで何かを思いついたらしく、ルイスが亜空間から取り出したのは、


「「巨大な白菜!?」」

「ああ。この一枚を剥がして、と」


 直径二メートルはあるだろう巨大白菜から、ルイスは葉を一枚だけ剥がすと、両端を持って大きく広げた。


「っ!? 落下速度が……落ちたっす!」


 白菜の葉が空気を捕まえ、急減速させることに成功する。


「一か八かだったが、こといったみたいだな。あ、ちなみにこれは食用の白菜だから、食べたらぞ」

「こんな状況で上手くもない冗談言わなくていいよ……」


 そうこうしているうちに、ようやく底が見えてきた。


「危ないところだったっすね……もう少し遅れていたら、あそこに激突してお陀仏だったっす……」

「でも、かなりスピードが落ちたと言っても、まだ結構な勢いだよ? このまま着地したら無事じゃすまないかも……」

「こいつを使おう」


 新たにルイスが取り出したのは、巨大なシイタケだった。


「これをクッションにするんだ」

「なんかもう、何でもありっすね……」


 シイタケの傘の部分を下にし、ついに落とし穴の底へ。

 ルイスの思惑通り、柔らかい傘が衝撃を吸収してくれ、難なく着地することができた。


「た、助かったみたいっすね」

「……ひとまずはね。ただ、問題はここからだよ。あれだけの距離を落ちてきたんだ。ここはもう、ダンジョンのかなり下層のはず……」


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