第10話:ダンジョン内部へ

「ここが“シクスティン”なのですか。ダンジョンには見えませんね」

『一見すると小さなお城みたいだフェン』


 私たちは60階層のダンジョンである“シクスティン”に到着いたしました。

 しかし、なんだか思っていた光景と違います。

 頑丈な石造りの小屋が建っているのです。

 ルーリンさんと一緒に不思議な気持ちで眺めていたら、エルマーナさんが教えてくれました。


「中のモンスターたちが外に出て来ないようにするのと、ここがダンジョンであることを示すため、出入り口は頑丈に封じてあるのです」

「『なるほど』」


 エルマーナさんは私より年下なのに物知りですごいですね。

 扉を開けて中に入ると、ちょっとしたロビーになっていました。

 

「おや? 人がたくさんいらっしゃいます」

『すぐにモンスターが出てくるんだと思っていたフェン』

「ここはダンジョンロビーです。出発前にアイテムの調整をしたり、仲間を募ったりするんです」

「『なるほど』」


 非常に勉強になります。

 帰りはあの方たちにも祈祷を捧げて行きましょうか。

 周りの方々はすでにグループが出来ているようです。

 新たな仲間を探していると時間も経ってしまうので、私たちは三人で向かうこととします。

 

「まずは、お姉さまが消えたと言われている50階層を目指しましょうか」

「ええ、お願いします」

『無事だと良いフェンね』


 ダンジョンの中は入り組んだ迷路みたいになっており、狭い道広い道、色んな道が常に交差しています。

 この中を迷わず進んでいくのは至難の業ですね。

 エルマーナさんもドキドキしているのが伝わってきます。


「大丈夫ですか、エルマーナさん」

「は、はいっ。すみません、ワタシから連れて行ってくださいとお願いしたのに……」

「いいえ。気になさらないでください。とはいえ、こんなに入り組んでいたらすぐに迷ってしまいそうです」

『色んな匂いが混じっているフェン』


 注意深く歩いてはいますが、いつ何時怪物に襲われるかわかりません。

 異教徒がはびこっている可能性もありますし。

 右も左も分からず歩き回るのは危険な気がします。

 さて、どうしましょうか…………そうだ、あれを使ってみましょう。


「……【超ダンジョンマップ】ー!」


 神様が恵んでくださったマップを取り出します。

 ペラリと開くと、白紙だったところに少しずつ地図が浮かび上がってきました。

 私たちがいるところは赤い点が光っています。


「え……な、なんですか、このダンジョンマップは。今どこにいるかわかるなんてすごく便利ですね。こんな地図見たことありませんよ」

「これも神様からのお恵みです。これを見ながら下層へ行きましょう」

「ダンジョンマップ自体高価なアイテムなのに。神様って……すごい!」


⦅さりげなく信者増やしてて草⦆

⦅フレイヤたん恐るべし⦆


 少し動くと赤い点も一緒に動きますので、道に迷う心配もなさそうですね。 

 

「エルマーナさん、ダンジョンの下に行くにはどうすればいいんでしょうか」

「自然にできた階段みたいな構造物があるはずです」

「階段みたいな構造物……」


 地図を眺めていると、北東の隅っこに階段がありました。

 突き当りを右に曲がると良さそうです。


⦅すっかり忘れてたけど、“シクスティン”って普通に攻略難易度高いよな⦆

⦅50階層はマジでヤバい⦆

⦅レイドボスに何度も殺されたわ⦆


 お言葉を聞いた瞬間、心臓がドキリッ! としました。

 か、神様を殺した怪物がいるなんて……!

 ここは思っていた以上に大変なところかもしれません。

 周囲を警戒しながら進んでいると、曲がり角から緑色の小さな怪物が何匹も現れました。

 尖った大きな鼻に鋭い目。

 教会の本で見たことがあります。

 ゴブリンの群れです。


『『ゴッゴッゴッ!』』

「きゃああ! フレイヤさん、ゴブリンです!」

『エルマーナちゃんは下がってフェン!』


⦅いいぞ、犬⦆

⦅フレイヤたん、ぶっ倒せー!⦆

⦅スタンガン滅多打ちカモン!⦆


 ゴブリンは私たちの前に立ちはだかり通せんぼしています。

 それどころか、手にした棍棒を振り上げ怖い声で叫んでいました。


「ど、どうしましょう、フレイヤさん。モンスターが……」

「大丈夫です、エルマーナさん。彼らも怪物とはいえ、私たち人間と同じ命ある者。神様への信仰心をお見せすればわかるはずです」

「あっ、フレイヤさん! 危ないですよ!」

「どうぞご心配なく」

 

 ゴブリンたちの前に跪き神様に祈ります。


⦅なんちゅう無謀な⦆

⦅すごい信仰心だ⦆

⦅危機感の欠如が凄まじい⦆


「……この世を造りたもう全知全能の神々よ。この者たちに……!」

『『ゴルル!』』

『「フレイヤ(さん)!」』


 祈祷の途中だというのに、ゴブリンたちは襲い掛かってきました。

 すかさず一歩下がって攻撃は躱します。


「だ、大丈夫ですか、フレイヤさん!」

『怪我はないフェンか!』

「え、ええ、大丈夫ですが……」


 私の身体は問題ありません。

 しかし、心は強いショックに襲われていました。

 神様の倒せというお言葉、そして祈祷中の攻撃。

 まさか…………彼らも異教徒の使い魔だったなんて……。

 どうやら、私が思っていた以上に異教徒は勢力を伸ばしているようです。

 【すたんがん】を握りしめ、勢いよく走り出しました。


「えーーーーい!」

『『ゴゴゴゴゴッ!』』


 すれ違いざまに喉元を一突き。

 あっという間に、ゴブリンたちは倒れてしまいました。 

 やはり、喉元への直接攻撃はどんな使い魔にも効き目があります。

 これからはより精度を上げるように意識しましょう。


「さあ、この調子でドンドン下へ行きましょう」

「は、はい」

『そ、そうだねフェンよ』


 エルマーナさんとルーリンさんはビクビクしていました。

 きっと、使い魔の襲撃に緊張したのだと思います。


⦅エルマーナちゃん、ビビッててワロタね⦆

⦅目の前でスタンガンは刺激が強すぎや⦆

⦅自覚ないんだろうなぁ⦆


 神様のありがたいお言葉を胸に、私たちはさらに下層へと潜っていきました。

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