第6.3話 僕と、私の、ひと夏の触れ合い 後編

 遠い所の眼光症患者、ペリドット。

遠くから来た若き研究者、求。

二人の出会いは、未来を作るため。

しかし、その日々も、終わりの時が近付く。


 空港のトラブルで帰還の予定が伸びても

求は共に来た研究者と一緒に

ペリドットの事を色々調べてきた。

勉強は同世代の子供達よりも

難しい問題を解く事が出来るし

フェンシングの試合も圧倒的な実力で

勝ち進む事が出来た。

しかし、結局の所は本人の努力によるものが

大きかったという結論にも至った。

この一ヶ月で求にとって満足のいく

研究成果が得られる事になった。


   * * * * * * *


 8月29日。

求が故郷に帰る前日。


 現地には3名の研究者がもうしばらく

居残る事になり、現地の学者にも

今回の研究の成果を報告し、これから

眼光症の研究を世界レベルで

広める計画が始まる事となった。


 その日の夕飯の後、ペリドットは

父にあるお願いをした。


「今日の夜、求さんと一緒に寝たい」


 当主は求が大丈夫かどうかを聞いた。


「ああ。大丈夫だよ」

「求さん、ありがとう!」


 家の豪華な浴場で温まり、お互い

風呂上がりの状態で同じ寝室に入った

求とペリドット。この家で過ごす最後の夜。

二人は白いガウンに身を包み、ベッドの上で

語り合うのであった。


「君の毎日をこうして身近で見れて

私はとても嬉しいよ」

「僕も、求さんが来てくれたおかげで

いつもより毎日が楽しくなったよ」

「そうかい。それはとても嬉しいよ」


 すると、ペリドットは求にこう言った。


「求さんは、なんで研究者になったの?」


ペリドットの質問に、表情が曇る求。


「……これから、怖いものを見せてしまう

けど、大丈夫かい?」

「うん、大丈夫だよ」

「わかった。それじゃあ……!」


 ペリドットの声に応えて求は、その前髪を

めくり上げて、素顔を見せた。

昔の事故で傷付いた顔を、ペリドットは直に

見てしまった。まるで怪物を見る表情の

ペリドットを、求の右目は優しさをたたえて

見つめていた。


「なに……その顔は……」

「これが、私が研究者になった理由だ」

「……どうしてなの……?」


 求はペリドットに今までの事を話した。


 私は幼い頃、スポーツ選手に憧れて

スポーツを人一倍頑張ってきた。

しかし、誰も友達が出来なかった。

ある日、緑色の瞳を持つ翡翠と出会い

似たもの同士の二人は友達になれた。

一緒に楽しい毎日を過ごしたのだが……。


 交通事故によって、身体の半分に

二度と治らない怪我を負った。

こうして私のスポーツ人生は終わった。

最早私に生きる価値無しと思ったが

夢の中に現れた翡翠によって励まされて

私は再び、目を覚ました。


私は私に出来る事を一生懸命考えた。

そしてたどり着いたのが、その……

眼光症の研究者というわけだ。


「そう……だったんだ……」


怪我を負ってもなお、生きる目的のために

立ち上がった求のお話にペリドットは

思わず涙した。


「君になら分かってもらえる気がしたよ。

ペリドットも、これからきっと楽しい事

だけではなく、辛い事も悲しい事も

沢山経験していく事だろう。そんな時は

この私の姿を思い出してくれ」

「うん……わかったよ……求さん……」

「今日はずっとこうしてあげよう……」


 求とペリドットは涙を流しながら

ベッドの上で抱きしめ合っていた。

お互いの体温を、直に感じながら

眠りについたのであった。


「ペリドット君……」

「求さん……」


   * * * * * * *


 8月30日。

帰還の日。


 求は研究員数名と共に当主に挨拶した。


「今まで、お世話になりました。

また、機会があればここに来ようと

思っています。それでは、またお会い

いたしましょう」


 求が挨拶すると、ペリドットは求に近付き

こう言った。


「僕も、いつかは眼光症のみんなが

楽しく生きれる世界を目指したい!

だから僕の事を、これからも応援してね!

約束だよ!!!」


 ペリドットからの思わぬ発言に

求はこう返した。


「それがきっと、私の生涯をかけた夢に

繋がっていく事だろう。

少年ペリドットよ、そのこころざし

未来へと持っていくがいい!!!」

「ありがとうございます!!!」

「では、また会おう!!!」


 やはりお互い、根っからの

スポーツマンシップを持っていた。

求は車に乗り、シュトロハイム家を

後にした。そして空港に着いて飛行機に乗り

故郷へと帰って行ったのであった。


   * * * * * * *


 9月4日。

求は翡翠にお土産を持っていった。

だが、翡翠からまさかの事実が告げられる。


「私の中に、赤ちゃんがいるんです」

「何だって……?」


   * * * * * * *


 あの時のショックで、私は翡翠に

ペリドット君との交流を語るのを

忘れてしまったんだよ。

まあ色々落ち着いた後で翡翠と蒼穹に

改めてお話したんだけどね。


 今頃、ペリドット君は中学生ぐらい

と言った所か。彼が将来私のような

眼光症研究者になるかどうかは

まだ分からないけど、彼の望みは

きっと必ず、叶うと信じているよ。


 さて、今回の所はここまでだ。

そろそろ、あの二人の事が

気になる頃じゃないかな。

それではまた、来ておくれよ。


 本編第7話へ続く。

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