俺たち私たちは、同じ空を見上げている。

資山 将花

第1話 神薙塔矢①-1

 風の意思に身を任せて、気ままに流れていく雲。そんな雲たちが遊んでいる空を見上げながら一人パンを頬張る。そんな何でもない一時が、俺にとってはこの上ない至福の時間だ。


 通学途中で立ち寄ったコンビニで適当に買った菓子パンを、学校の屋上で寝転がりながら食べる。周囲から見れば、一人で昼食だなんて寂しい奴だな、と思われてしまうかもしれないが、別に一人で食事をしてはいけない規則なんてこの学校にはない。もしあったとすれば、この二年間も何も言ってこなかった学校側に問題があるだろう。


 俺は静かな時間を過ごしたいという思いからこうして、昼休みに屋上に来て食事をするのが最早日課になっているわけだが、残念ながら俺以外に誰も屋上に来ないわけではない。常に屋上への扉は解放されていて、誰でも好きな時にやって来ることが出来る。授業中にだって、放課後にだって。そして当然、昼休み中にだって。


 入学したばかりの頃は、興味本位で俺に話しかけてくる面倒くさい輩もいたものだが、さすがに二年間も同じことを繰り返していればそれなりに認知されるようになってくる。屋上で寝転がっている男は、面白くないただの変人だ。皆がそう思ってくれれば、俺のスペースは安全を保ち続けることが出来るのだ。


 まあ、三年生になって先生たちにも俺の生態が知れ渡っているからと言って、必ずしも絡まれることがないわけではない。同学年内にも未だ何を思ってか話しかけてくる奴もいるし、新入生なんかは俺の情報を得る前に屋上に来てしまう奴も多い。変な人がいる、そう思ったのなら関わらなければいいだろうに、中学生から高校生になって少し浮かれてしまっているのか、新入生の諸君は俺に声をかけてくるのだ。一度を声をかけて、思い知る。ああ、こんな人に声をかけても嫌な思いをするだけだ、と。新入生たちは俺を介して、社会性を学んでいくのだ。


 一応、俺も周りに気を遣って、落下防止用のフェンスの側で寝転がるようにはしている。誰も屋上に来ないことが一番望ましくはあるが、それを実現する権利が俺にあるわけもなく、公共の場であるのならば、せめて周囲に配慮するのは当然の行動だろう。その辺に転がっていれば躓いてしまうかもしれないし、女子からしてみればスカートの中を覗こうとしている変態にも見えるかもしれない。


 俺は、他人を慮ることの出来る人間なのだ(まあ、絡まれたくないから端にいるだけなのだが)。


 パンを食べ終えて、俺は何時ものように目を瞑った。少しばかりの就寝。タイマーをセットしているわけではないので寝過ごしてしまうこともあるが、そうなった場合は仕方がなかったということで、諦めるしかない。誰も起こしてくれないのが、悪いのだ。


「あ、いたいた。おーい、【眠れる屋上の貴公子】。起きてるー?」

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