第49話 事の真相

 裏で操る人物は、恵美さんと邂逅した。私は、彼女を惑わせる『洗脳の指輪』と呼ばれる道具を用いて洗脳される光景を目撃した。恵美さんは、強力な光に包まれ、裏で操る人物の命令に順従するように容易く支配された。


 心眼を通して二人を確認する。予想通り、恵美さんは『状態: 洗脳』に変わっていた。私は、あんな光の道具で簡単に洗脳されてしまう光景に目を丸くしてしまったのである。


 次に、黒キャップを身につけた裏で操る人物を注視する。私は、彼女に関する詳細な情報を調査することにした。


氏名: 本庄華香 (本名: ファン ビージャン)

国籍: 〇〇国

生年月日: 2062年9月11日

所属: 〇〇国諜報局員 潜入諜報部


(え…何これ…。本庄華香は、同じ学部でよく知っているけれど、彼女が黒幕だなんて…。そしてここに表示されている情報は一体何なの?生年月日はおかしいし、諜報局員ってスパイってこと?意味がわからないわ。)


 私は華香の情報に動揺し、近くの本に触れてうっかり落としてしまった...。


「誰かいるの?」


 華香は物音に即座に反応した。


「あなたは…真由。何故ここに…。まあ、いいわ。あなたがいなければ計画は完遂されるの。さあ、恵美。真由を殺しなさい。」


「承知しました。」


 華香からナイフを受け取った恵美さんは、刃をこちらに向けて迫ってくる。一方、華香は高みの見物で余裕の笑みを浮かべ、こちらを眺めていた。


「きゃあ!助けて!」


 私が恐怖に打ち震え、目を閉じた瞬間、異変が起こった。


―― 白き空間 ――


「やあ、真由君。いらっしゃい。良く来たね。」


「あれ?レジャックさん?私…どうしてここに?」


「危ない所だったね。まあ、君が刺されてもまたループで助かる訳だから無理に連れてくる必要は無かったのだれど、先程『チャレンジ』の目的は達成してしまったからね。」


「どういうことでしょうか?」


「まあ、簡単に言うと君が時空法違反の犯人を見つけ出してくれたから終了的な感じだよ。」


「え…と。レジャックさん。簡単に説明し過ぎて意味が分かりません。」


「あはは。君、言うようになったね。まあ、君の貢献だからお望み通りちゃんと説明しようじゃないか。」


 レジャックさんの説明は次のようなものだった。私と拓弥さんの別れは、まさに『未来の分岐点』となった出来事である。未来から派遣された『ある国』のスパイによって、私たちは無理やり引き裂かれてしまったのだ。その結果、予定していた幸せな結婚は台無しとなり、未来の姿も大きく変貌してしまったというのだ。


 未来の世界では、過去を改変することは『時空法』によって禁じられており、また未来から過去に訪れた者の直接介入も法律で規制されていた。


 華香という女性は、未来を変えるためにある国から派遣されたスパイだった。彼女は国から直接的な介入が許されていないため、恵美さんや拓弥さんを洗脳し、私たちが別れるように仕向けたのだという。


 私は当初、彼女が恵美さんと共謀して私に嫌がらせを行う程度の存在と考えていた。しかし、実際には彼女は自らの目的達成のために非道な手段にも躊躇しない極めて危険な存在だったのである。

 

 しかし彼女の行為は、国際時空法 第9条の『過去改変の禁止』や2085年の国際人権法 第11条の『洗脳行為の禁止』に抵触している。今後、ある国は国際社会から非難を浴び、責任を問われることになるらしい。


 私がこれまで経験してきた数々の出来事は、未来のシステムにより、証拠として残されている。そして、私が華香こそが犯人であることを知った瞬間に、全ての証拠が揃ったという訳だったのである。


「わからないことがあります。質問しても?」


「どうぞ。」


「未来の分岐点で私と彼が別れることにどんな意味があるのでしょうか?」


「とてもいい質問だ。じゃあ、僕も逆に質問だ。君たちが別れるか別れないかで未来にどんな影響があると考える?」


「んー…。結婚するかしないかだと思うので、子孫が変わってしまうとか…。」


「おぉ。君は、僕が見込んだだけあってなかなかに賢いね。そう。君たちの子供だよ。」


 レジャックさんは、再び語り始めた。彼の言葉からは、息をのむような未来が浮かび上がった。その未来において、私たちの子供である『弘人』が、拓弥さんのロボット技術を受け継ぎ、驚異的な性能を持つ軍事ロボットを生み出すことになるのだという。これは、日本や日本国民を守るための兵器で、日本の平和維持に大いに貢献したのだという。


 この出来事により、世界の軍事情勢は一変したそうだ。未来の日本は『ある国』より侵略の危機に立たされていたが、弘人のガーディアンロボットによって確固たる防衛力を手に入れたのだ。人間の兵士は全員退役して平和な生活を送り、多くのガーディアンロボットが代わりに役割を果たすようになった。


 そして、大量生産が実現されると、『ある国』は侵略の意思を躊躇った。日本を攻撃すれば国家の存亡すら危うくなる可能性に直面したためである。


 未来の日本では、日本国憲法に代わる国家法が成立されることになったが、侵略行為を禁じる法律は引き継がれ、周辺国を脅威にさせないように配慮された。


 しかし、ある国はこれを容認せず、弘人の誕生を阻止するために華香をタイムリープさせ、『過去改変』を試みることにしたようだ。弘人が誕生しなければ、ガーディアンロボットが作られることがなくなり、日本への侵略は容易となるからである。


 レジャックさんの話によれば、弘人がガーディアンロボットを生み出したことで、戦争の火種となるであろう『ある国』がおとなしくなり、その後も世界は平和を保っているというのだ...。


「どうだい、満足のいく答えだっただろうか。」


「ええ。突拍子のない話ですが、よくわかりました。」


「そうだ。君が目標を完遂したご褒美に、1つだけ願いを聞き届けよう。ただし、僕にも出来ることと、出来ないことがあるからね。」


「そうですね…。私が間違った未来で経験してきたことや、その後レジャックさんと知り合ったこと、タイムリープして経験してきたことなどの記憶を忘れずに覚えておきたいのです。」


「うーん。君、本当に賢いね。実は全て解決したら、君が指摘した内容の記憶は、情報保全の為に消去するつもりでいたんだよ。んー。まあ、特別に許可しよう。ただし、君が得た情報は大変重要なものだから、軽々しく漏らすことはできないよ。制限を設けて、君以外に口外しないようにさせて貰うよ。」


「わかりました。レジャックさん、ありがとうございます。」


「では、これで君の『チャレンジ』も終わりだ。元の世界に戻してあげよう...。」


「あの、レジャックさん。あなたは…。」


 彼は小さな声でつぶやいた。私には聞こえるかどうか、その声は微かなものだった...。しかし、彼の口の動きから、私は確信したのだ。


(彼はやはり...。)


 私は、直ぐに意識を手放すとまた図書室のあの場面に帰ってきたのであった…。


―――― to be continued ――――

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