第46話 愛する人

―― 真由のマンション 2025年11月9日 16:35 ――


 私は、目を覚ます。そこは、私のマンションのベッドの上だった。


 再びループが発動したことを理解する。一体何周目のループになるのだろう。余りにも何度も繰り返しているので、既に何周したのかも把握出来ていない状況である。


 前の周では、偽の浮気写真の回避は諦め、証拠写真が彼に提示される前に真実を伝える作戦を行った。


 しかし、作戦は失敗に終わった。拓弥さんからは理解を得られて順調かと思えたが、その後彼の様子が一変した。恐らくは、私が接触した後に洗脳を受けたのだと思われる。私は、今回の件には佐々木恵美さんの関与が特に強く感じられている。確信は無いが、拓弥さんの洗脳も彼女によるものだと考えている。


 前回のループでは、9日の夜に彼に会った際には、洗脳を受けた兆候が見られなかったので、それ以降に何かされている可能性がある。今回は、拓弥さんの動向に注視し、どのタイミングで誰から洗脳を受けたかを調べるつもりである。 


 私は、サークルの一次会の後に偽の浮気写真の撮影に付き合ってから、彼のマンションを目指した。


――――


「マジか!?あいつそんな卑劣なことを…。大丈夫。真由を信じているから心配するなよ。」


「拓弥君。ありがとう。」


 前回と同様に、偽の浮気写真に関する真実を彼に説明した。ここまでは前回と同じ展開を辿っている。


 ここで、洗脳がないかを確かめる為に、『心眼』を使って彼をチェックする。注意深く彼を確認するが、黒いもやのようなものは見えず、彼の周りには『正常』という文字が浮かんでいた。


 私は一安心し、誰かが接触してくる可能性は低いと判断するが、念のため彼のマンションに泊まることにした。私の学生マンションは男性の入室を禁止しているため、お泊まりする時は彼のマンションに行くことが殆どであった。彼のマンションには、私のお泊まり用のグッズが常備されており、パジャマや下着、化粧品、生活用品などが揃っているため、いつ行っても困らないようになっていたのである。


「今日は泊まるわね。」


「うん。久しぶりだね。」


 実際、この時期はお互いに忙しくて、泊まる機会が減ってしまっていた。しかし、私は散々ループを繰り返したにもかかわらず、拓弥さんと一緒に過ごすことは一度もなかったような気がする。


 彼のことは大切だし、ずっと一緒にいたい気持ちは変わりないが、私はチャレンジの成功に囚われ過ぎて、今現在の二人のことを考える余裕がなかったように思う。


 翌朝までは何もしないつもりだったため、今夜はいっぱい拓弥さんに甘えようと思う。シャワーを浴びてスッキリしたところで、二人で飲むことにした。


 私たちは、いつものように将来の話をし始めた。とても具体的で楽しい話だった。男の子と女の子がそれぞれ1人ずつ欲しいと話していたが、私は未来では真弥と弘人という素敵な子宝に恵まれることを知っている。彼には伝えることはできないが、そのことを考えると笑みが零れてしまう。


 そして、拓弥さんと子供たちを必ず救うことを改めて決意した。私は、拓弥さんの肩にもたれかかると、心の底から安らぎに包まれた。『過去』に移動してから一度も感じたことのない感覚だった。


 今思えば、今の境遇について誰にも打ち明けず、ずっと自分で困難に立ち向かってきた。だからこそ、彼に寄り添うだけでとても心が軽くなり、幸せを感じることができるのだと気づいた。


 彼との久しぶりの一夜、独りではない安堵感が私を包む。温かい彼の体温がベッドに伝わり、私は彼の側で目を閉じた。その時、彼の優しさや温もりが私を包み込む。私は彼に守られ、安心感に満たされる。この瞬間、私は挑戦者でもなく、母親でもなく、ただ一人の女として、彼に抱かれていた。


 彼の手の温もりが私を包み、心地良い快楽に身を委ねた。静寂の中、二人きりの夜は静かに過ぎていった。思い出すたび、その夜に身を委ねた至福の感覚が蘇るのであった…。 


―――― to be continued ――――

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