第42話 証拠写真

「二次会への参加を決めようぞー!」

 

 咲の掛け声が響き、普段は物静かな彼女が酔いに任せて陽気になる。


 二次会には全員が参加することになった。皆が盛り上がり、酔いが回った様子だ。しかし、私はある目的からお酒は少量に留めていた。


―― 21:14 居酒屋『寄ってって』出発 ――


 過去に二次会への移動中に、ホテルの前で山本君に肩を組まれた場面を撮影され、それを証拠に山本君とホテルに入ったとでっち上げられ、彼と別れるように誘導された過去を思い出す。


 今回は、決定的な写真を撮影されないようにするための策を練っていた。そうすることで、私と拓弥さんの関係悪化を未然に防ぎ、『未来の分岐点』で間違った未来に進むことを阻止するのだ。


「加奈、ちょっと頼まれて貰えない?」


「うん、わかった。」


 私は親友の加奈に、あるお願いをした。移動中に山本君が私の近くに寄ってこないよう、頼んだのだ。過去に彼と一緒に写っている写真を証拠写真として撮られたので、山本君を避けられれば、事態は回避できると考えたのである。


 二次会は、徒歩10分程度の場所で開かれると聞いた。11人の陽気な雰囲気が漂い、会話が弾んでいる。ラブホテル街が視界に入ったが、過去の写真を見たことがない為に、撮られた場所がどこなのか私は分からなかった。周囲を注意深く見回したが、盗撮を企てる人物は見当たらなかった。


「真由、一緒に行こうよ!」


 ラブホテル街を通り過ぎる頃、山本君が現れた。


「ほら、山本。私が一緒に行くよ。」


 すかさず加奈が山本君の対応をしてくれた。


(ナイスだ、加奈!)


 どうやらピンチは回避できたようだ。


「おっ、真由。一人で寂しそうだな。」


 そして、今度は酔った酒井君が私に近づいてきて、馴れ馴れしく肩を抱いた。


「ちょっと、やめてくれる?」


 私は酒井君を睨みつけ、腕を払いのけた。


「あっ、ごめん。嫌だった?」


 結局、酒井君は近づいてしまったが、山本君は避けることができたので、とりあえず過去の問題の事象は回避できたと思う。


 二次会は、BARで開催された。ビリヤードやダーツを楽しみ、話をしながら楽しんだ。その後、二次会も終わり、女性陣はタクシーで加奈のマンションに泊まったのであった...。


 この後、数日が経過したが、ループが発生することもなかった。


 ―― 11月12日 20:05 ――


 拓弥さんからのLaneの通知が届いた。


『真由。俺に隠し事していない?』


(あれ?前と同じ文章…?)

  

『していないわ。どうして?』

『サークルの酒井とのことだよ。』


(えっ?酒井君?前は、山本だったのに…。)

 

『酒井君?特に隠し事なんかないわよ。』

『ふざけるなよ!俺は全部知っているんだ。』


 前に目にした文章は間違いなく山本君に対して指摘していたのに、今度は酒井君に変わっていた。確かに、山本君を遠ざけた後に酒井君が現れたことはあったけど、まさかこんなことが起こるとは思わなかった。


 私は、不安に駆られながらもループが発動しないように普段通りの生活を送り、最終日を迎えた。



―― 11月14日 10:07 拓弥のマンション ――


 再び拓弥さんのマンションにやってきた。今日は『未来の分岐点』である。合鍵を使って部屋に入ると、拓弥さんに向けて口を開いた。


「拓弥君が聞いた噂。あれは全部嘘よ!私は浮気なんかしたことないわ。誤解よ!」


 そう言うとこれまで同様に、彼の視線が私を捉え始めた。彼の目は赤く血走っていて、強ばった表情と相まって、畏怖の念を覚える。 


「嘘つけ!言い訳なんか聞きたくない。真由のこと信じてたのに、俺は裏切られたんだ。真由には心底幻滅したよ!」


 彼の強い語気に驚くが、気を持ち直して声を掛ける。


「待って!きちんと話し合いしましょう。お互いの誤解を解かないと…。」


「悪いけどお前のこと、もう信じられない。俺たち、別れよう…。」


(この言葉、何度聞いただろう。でも、写真は?本当に証拠となるものなのかしら?)


「拓弥君。それなら浮気した証拠を見せてくれないかな?それが分かれば私も納得するわ。」


「ああ、そうだな。これが証拠の写真だ。」


 拓弥さんのスマートフォンに映し出された写真を確認する。


 確かに、私と酒井君の姿が写っていた。私は酒井君の方を見ており、酒井君の手が私の肩に回っていた。更に周囲に見えるホテルの看板が『Moon』と表示されており、この一枚だけを見れば、確かに証拠写真としての信憑性があるように思えた。


 しかし、この瞬間を撮影するのは至難の業であったはずだ。私はその後、すぐに酒井君を睨みつけ、拓弥さんの手を払いのけたはずだから…。にわかに疑問は残った。


「わかりました。私は諦めます。」


 私は、この状況に陥ってしまったら、もはや説得は不可能であることを悟っていた。そこで私は、次のループに気持ちを切り替えることにしたのであった…。


―――― to be continued ――――

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