第28話 隠された真実(後編)

「こんにちは!あの、佐々木先生に用があるんですが。先日、手術して頂いた佐野です。」


「先生に確認します。少々お待ちください。」


 拓弥君は、脳外科外来の看護師さんに佐々木先生との取り次ぎをお願いしていた。ここぞって時の拓弥君の行動力には、いつも驚かされるが、頼もしくもあった。


 しばらくして、佐々木先生自らが現れて私達を診察室へと案内して下さった。


「佐野君に、君は最初の時の…。」


「お世話になりました。福田です。」


「ああ。覚えているよ。足の方はどうですか?」


「お陰様で順調です。来月にはギブスを外せそうだと仁藤先生から言われています。」


「それは良かったです。それで、二人してどうしたんですか?」


「あの先生。恵美の件で…。」


 突然、佐々木先生の表情が厳しいものに変化した。


「そうですか…恐らくデリケートな内容なんでしょう?別室で聞かせて頂きますね。」


 看護師もいる外来で話すのは問題があると判断され、2階にある応接室をお借りして話すことになった。


 応接室のソファーに掛けてお互い向かい合う。

 

「では、伺いましょう。」


「先生、恵美が親戚だと仰いましたが、本当は先生の娘さんなのではないでしょうか?」


 先生は、拓弥君の質問を聞くと、一度軽く両目を閉じて再び見開いた。


「佐野さん、私にも一つお願いがあります。個人的な情報は、理由があって秘匿されることもあるのです。その上で、なぜそのようなことをお尋ねになるのか、教えていただけませんか?」

 

「はい。勿論です。まず、隣にいる福田さんと私は大学時代に交際しておりました。私たちは未来を共に歩むことを誓い合うほどの仲でしたが、ある方によって我々の破局を狙った陰謀工作を受けました。結果、ありもしない浮気証拠が元で、やがて破局の道を進むことになりました。それから私たちは、別々の道を歩むも、密かにお互いを思い続け、3年の月日が経ってから真実を知りました。私たちは本来あるべき未来を取り戻したいと考えており、今回の件は非常に重要なことだと考えています。」


「そうでしたか…。」


 佐々木先生は、口を開かずに再び両目を閉じた。応接室内には静寂が広がり、時間だけが静かに流れる中、拓弥君と私は声を出すことをためらい、ただ互いの表情を交錯させるばかりであった。


 その後、2〜3分が過ぎた頃、佐々木先生は目を見開いた。


「お待たせしました。手術や重要な決定をする前に、私はこうして精神統一するようにしています。」


「さて、佐野さんのご質問にお答えしますが、お二人が心配されているように、宮原恵美と佐々木恵美は同一人物です。私の元妻である宮原とは、五年前に離婚しました。恵美は当時、大学生でしたので、卒業まで佐々木の名前を使用し、卒業後に宮原を名乗るようになりました。私も娘が大切なので、あの子が言うように、情報を秘匿していましたが、あなた方の事情を聞いて話すべきだと決心しました。」


「先生のご協力に感謝します。しかしながら、私たちは大学時代の恵美さんをよく知っています。恐縮ですが、当時と現在の容姿があまりに異なるように感じますが…。」


「ご指摘の通りです。恵美から直接聞いた話ですが、卒業後は直ちに就職せず、韓国に渡ったようです。韓国式の美容整形手術を受け、メイクの勉強をするためだったようです。」


「なるほど、それであの容姿なのですね。」


「私がお話できる内容はこの程度です。佐野さん、福田さん、娘があなたたちにしたことは、私自身も許し難いことだと思います。恵美の父として、謝罪いたします。誠に申し訳ありませんでした。」


佐々木先生は、私たちの目をしっかりと見つめ、深々と頭を下げた。


「あ、先生、頭を上げてください。私たちは、先生を責めるつもりはありませんし、恵美さんに対して罰則を与えるつもりもありません。」


「そうですか。ありがとうございます。」


「先生、今の私達の会話をスマホで録音させて頂きましたが、恵美への証拠用に使わせて頂いても宜しいですか?」


「そうですね。構いません。今後、また私の証言が必要な場合には協力しましょう。」


「佐々木先生、ありがとうございました。」


 私達は、改めて先生にお礼を言うと病院を後にした。


「真由、恵美のことは俺に全て任せてくれないか?真由が一緒に姿を見せれば、恵美が逆上しないとも限らないからね。」


「心配だわ。本当に大丈夫なの?」

 

「ああ。任せてくれ。俺は、就職してからはずっと宮原恵美と向き合ってきた。きっと大丈夫だと信じているさ。」


「わかったわ。拓弥君。無理しないでね。」


 私達は、また一歩真実へ近くことになった。拓弥君がどのように恵美さんと対応していくのかは、大変心配ではあるが、彼を信じて待つしかないとそう心に決めたのであった…。


―――― to be continued ――――

 

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