第11話 拓弥の異変

 私達は暗闇の中、灯りの光を見つけた。それはどこか深いところから薄いオレンジ色の光が漏れ出しているようだった。私達は興味津々でその光の方へと進んでいくと、そこには地下鉄のホームが現れた。


 線路側からホームには高低差があり、私は自力で上がることが困難であった。先に拓弥君に上がって貰い、その後で彼に手を借りて引き上げて貰った。一瞬拓弥君がフラついた様に見えたが気のせいだろうか…。

 

 私は、周囲を見回して、光があることに自然と安心していたのであった。


「電気がついてるってことは、停電が直ったのかしら?」


「そうだね。予備電源が発動した可能性もあるけど、どうだろうね。」


 再び周りを見回すが、駅員や乗客の姿はどこにもなかった。地震の影響で、壁や天井は一部分が剥がれ落ちていたり、照明が消えたりといったところがあった。私は拓弥君と一緒にホームより出口を目指して移動していくことにした。


 ホームには、エレベーターやエスカレーターが設置されている。しかし、電源が供給されていないか、敢えて止めてあるかは不明だが、現在は動作が停止されていた。


「あっ、拓弥君!?大丈夫?顔色が悪いわよ。」


 私は、エスカレーターを目指して歩き始めた頃、突然拓弥君の様子がおかしくなったのに気づいた。彼の顔が青ざめ、身体は急に不安定で、ぐらぐらと揺れて、やがて彼は膝を着いた。


「真由、すまない。何か体調に異常が生じているみたいだ。悪いけど、ここからは、1人で上を目指してくれないか…。」


「嫌よ。ここまで頑張ったんだから、最後まで一緒に頑張ろう。」


「ごめん。男らしく最後まで真由をエスコートして助けたかったけど、俺はもうここまでみたいだ。身体がいうことをきかなくなっているんだ。もう歩くのが難しい。真由の安全が何よりも大切だ!もちろん、俺にとっても…。だから行って!」


「拓弥君…。」


 涙がとめどなく溢れ出た。彼が自分よりも私を優先してくれる思いが、とても切なく映ったのである。拓弥君は昔からそういう優しいところがあった。私は彼のそういうところも、とても好きだった。


 でも、せっかく二人の心の靄が晴れたのに、彼を失ってしまうのは絶対に嫌だった。でも、片足を負傷してまともに歩けない私が背の高い拓弥くんを、背負って逃げることは現実的に不可能だと悟った。


 私は、拓弥君の目を見て、彼の気力が残っているのか確認している。目が合って彼は私に微笑みかけていた。それを見て決心がついた。


「拓弥君!私、急いで助けを呼んでくるわ!私を信じて待っていてね。」


 私は、必死に声を絞り出しながら拓弥君に呼びかけた。


「わかったよ。真由を信じて待っているよ。もし、俺が助かったなら、昔のように真由の手料理を食べさせてくれないか。」


 彼は微笑みながらそう言った。


「わかったわ。絶対に諦めないで待っててね。そしたら、ご褒美にご馳走するわ。」


 私は、足の状態よりも何よりも彼の体調の方が心配だった。私は自分が骨折やヒビを抱えていることに気づきながらも、痛みに耐えて駆け上がった。


「痛い…。」


 足を着く度に突き刺すような痛みが私を襲う。これまでずっと彼が私を抱えて移動してくれていたから痛みに苦しまないで来れたのだと思うと、また涙が零れ落ちた。


 エスカレーターを自力で登り、改作口を超えると、長い直線の通路が私を待ち構える。足を引きずりながら必死に前に進んでいく。1刻1秒の遅れも彼の命運を分けるかも知れないと思うと、少しも手を抜け無かった。額から落ちる汗と、涙で顔はきっとぐちゃぐちゃになっていることだろう。


 最後は、地上へ伸びる長いエスカレーターが目の前にやってきた。出口から差し込む光は紛れもなく外の陽の光であろう。再び気力を振り絞って登り始めた。足は着地した時の感覚がわからなくなっていた。痛みが麻痺したのか、どうなったのか、そんなことを考える暇なく必死に登った。


 光が差し込んだ…。約一日ぶりの陽の光を受け止める。


「誰か!誰か助けてください!」


―――― to be continued ――

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