第29話 エリシアの悩み


12歳となり、来年は学院に入るからと、魔法の練習を血のにじむような努力を始めた。


 それなのに、なかなかできない魔法。


 手順や仕組みは完璧に理解しているのに、魔法が発動されることはほどんどなかった。


 誰よりも好きだと思っていたのに、好きだけでは通用しなかったことへのむなしさ。

出来損ないだと、後ろ指をさされることからのストレス。



 努力を重ねても、無駄だ無駄だという声が、どこからともなく聞こえる。


 努力をしなくてもできる兄姉と親友。

 努力が報われている優秀な婚約者。


 どうして、私は努力しても報われないの??





(ああ、嫌なことは忘れよう)



 ―――――――――――――――――――――――


 


「…………できた…………!?」


 エリシアは自身の記憶の中では初めて、鍵魔法以外の魔法を使えたので、はしゃいでいた。


「…………今まで学んできた甲斐があったのね。」



 外を見ると、制圧軍はだいぶ北の砦を攻略していた。


「誰かの役にたててよかった~!」


 

 好きで、今まで努力した――――魔法。

 今までの努力が報われた気がする。


 だが、喜ぶと同時に疑問もわいてきた。

 

 

「どうして急に、私は魔法を使えるようになったのだろうか。」


 あのとき、誰かがエリシアの脳裏で後押しをした。――――今こそ、するときだと。

 


 

 そして、何か鍵のようなものが、カチャン と外れた音がした…………ような気がした。


 籠から解き放たれたように、世界が広く、変わって見えた。

 



 そして、私を後押ししてくれた――――見えそうで見えない誰かの顔。



(ねえ、あなたは…………誰?)



 あの、脳裏で後押ししてくれた人は…………誰なの?






 


 北の砦も落ち、制圧軍が更に順調に制圧を進めていた次の日の朝。


 制圧軍を眺めながら、エリシアは考えていた。

 


「…………反乱軍の制圧に貢献したから、公女だってことを見逃してくれたりしないかしら…………?

 私……まだ死にたくないし…………。」



 あの首謀者のジェーロムとかいう男の言うことが正しいのであれば、エリシアは死んでいなければならないはずの公女だ。しかも、公女を過去に殺そうとしていたのは、今回エリシアが助けたテオドール。


 


「……………………なんで、私、自分を殺そうとしているかもしれない、しかも元婚約者を助けたのよ!!?

 (まぁ、人の命より大切なものはないけど!)」


 だけど、テオドールと目があったとき、何も考えずとも体がとっさに動いてしまった。

 


「…………別に好きじゃないはずなのに………………」


 



 (大嘘つき………………)


 


 


 



 


  


 

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